第2部ー24
タバサ大公妃殿下にしてみれば、夫のエドマンド殿下が皇帝に即位したからと言って、自らが皇后になるというのは、余りにも気が進まない話らしかった。
そもそも、エドマンド殿下とタバサ大公妃殿下が結婚したのも、タバサ大公妃殿下が自らのお腹を痛めた実子、コナン殿下をスムーズにバーフ大公家当主に即位させるのが目的だったのだ。
エドマンド殿下とタバサ大公妃殿下とでは、タバサ大公妃殿下の方が一回り年上なのだ。
そして、タバサ大公妃殿下にしてみれば、全く自分に責任の無い話とはいえ、自分の婚約者が2人も若死にしたり、やっとの思いで結婚にこぎつけた夫が結婚後、1年も経たない内に亡くなったりしている。
そして、エドマンド殿下が何事もないのは、タバサ大公妃殿下と不仲なせいだという悪い噂まで、密やかに上流貴族社会内で流れていては、自分を皇后に冊立するというエドマンド殿下の好意を、タバサ大公妃殿下は素直に受け取ることはできなかった。
かといって、エドマンド殿下と離婚するという選択肢は、タバサ大公妃殿下には無い。
教会はそもそも生前の離婚を認めていない。
教会にとって、一度、結婚した男女は、死が二人を分かつまで、添い遂げるものなのだ(中には、最後の審判まで二人が添い遂げることを、結婚式で誓う例まである。)。
教会が離婚を認めない以上、タバサ大公妃殿下は離婚できない。
タバサ大公妃殿下は、せめてもの抵抗の表れとして、サムエル皇太子殿下を、エドマンド殿下と私との間の養子として差し出し、自らは皇貴妃になると言い出した。
エドマンド殿下は、何とも複雑な顔をしながら、タバサ大公妃殿下の希望を受け入れたい、と私に相談してきた。
「タバサの気持ちを考えたら、皇后に自分が冊立されるのは、真っ平だという気持ちに彼女がなるのも分かる。何しろ私との結婚前から、いろいろと悪い噂を彼女は立てられ続けていたからね。しかし、一応はお互いに結婚した身である以上、タバサをそれなりには私は処遇しないわけには行かないし、タバサもそれは分かっている。だから、サムエルを私と君との間の養子に差し出して、子どもがいない関係になり、皇貴妃、第二夫人に自分は降りてしまいたい、ということなのだろう」
エドマンド殿下は、少し長広舌を振るった後、私を見つめた。
「私の皇后になってくれないか」
私は答えをためらった。
何故、答えを私はためらったのか。
今頃になって、ようやく私は気づいたのだ。
私はエドマンドを、男性として、夫として、心から愛している。
だが、エドマンドは私を、女性として、妻として、真正面から見つめて愛してはいない、ということに。
私は形代なのだ。
エドマンド殿下は、最近になって、ようやく自分の本心に気づいたが、その想いが今となっては決して叶わないことに気づいて、その想いの形代として、私を愛しているということに、私は気づいてしまった。
私は、そのことにこれからずっと耐えて、エドマンド殿下の傍で生きていけるだろうか。
「フローレンス姉様と、一度、話し合ってから、お答えしていいですか」
私は、できる限り、平静を装って、エドマンド殿下に答えた。
エドマンド殿下も、いきなり、私を皇后に冊立するいう話を、私に振っても、すぐに返答はできないと考えていたのだろう。
「それで、いいよ」
と、エドマンド殿下は答えてくれた。
私は、フローレンス姉様と話し合うために、連絡を取った。
それにしても、フローレンス姉様は、エドマンド殿下の本心には気づいているのだろうか。
もし、フローレンス姉様が、エドマンド殿下の本心に気づいているのなら、私はどうするのが正解なのだろうか。
私はひたすら一人で考え込んだ。




