第2部ー22
その後、いろいろとアーサー皇帝陛下から私に対して、半ば詰問に近い会話が交わされたが、私は何とか切り抜けた。
もっとも、15歳の私が涙ながらに
「義理とはいえ、可愛い姪の面倒を私が見るのは、皇帝陛下から見れば許されない行為なのですか」
とまずは訴えては、アーサー皇帝陛下はともかく、周囲にいる人間から見れば、私に感情的に味方したくなるのは当然のことだ。
私は、自分の年齢と立場をフルに活用して、アーサー皇帝陛下の追及をかわしきった。
私が何とか自宅に帰ると、オリヴィアが私を待ちかねていた。
オリヴィアなりに、何かよくないことが起きているのでは、と心配していたらしい。
「ママ、大丈夫なの」
とオリヴィアから声を掛けられた瞬間、私は母性をかきたてられるのを感じてしまった。
「大丈夫よ。オリヴィアは何も心配することは無いわ」
私は、オリヴィアの頭を撫でてやりながら、内心で思った。
本当にオリヴィアは、母性をかきたてる何かを持っているのではないか。
アーサー皇帝陛下から追及を受けた翌日、エドマンド様が私の下へ来た。
「大丈夫だったかい」
心配そうに言うエドマンド様に、微笑みながら私は言葉を返した。
「義理の姪、オリヴィアが可愛いので引き取った、という私の言い分に対して、それ以上の追及は、アーサー皇帝陛下と言えどできませんでしたわ」
「それは良かった」
エドマンド様はほっとされた。
それを機に、私は気になっていたことを、エドマンド様と話し合うことにした。
「アーサー皇帝陛下は、かなりお悪いのですか」
私の問いかけに、エドマンド様は肯きながら答えた。
「私の周囲の多くの人間が言っている。アーサー皇帝陛下は、そう長くないだろうと」
「どうして、そんなことに」
私は、質問した。
エドマンド様は、周囲に人がいないにもかかわらず、答えを少しためらわれた。
「まず、アーサー皇帝陛下としては、私やサムエルを帝位に就かせたくないというのは知っているかな」
エドマンド様は、私に問いかけ、私はそれに黙って肯いた。
「だから、自分の子どもを持ちたいと、まずは結婚して、更に皇妃を迎え、宮中女官とも関係を持って、とアーサー皇帝陛下は頑張られた」
エドマンド様は、そこで、言葉を一旦、切ったが、私にも、いろいろとこのことについては、エドマンド様は考えるところがおありなのが、言葉の端から推察された。
「でも、どうしても自分の子どもがおできにならない。だから、怪しげな薬等にまで頼りたくなる」
エドマンド様は半ば溜息を吐かれた。
「だが、そういったものは、却って体に害になることも多い。それにも関わらず、アーサー皇帝陛下は服用されてしまう。それに、ご両親は亡くなられ、妹のイザベラ殿下は」
それ以上は、エドマンド様は口に出されなかったが、私も、アーサー皇帝陛下の内心を想うと堪らない気持ちになった。
イザベラ殿下は心を病まれてしまっている。
そして、私も含めて皇族は、アーサー皇帝陛下よりもエドマンド様を向いている。
更に、アーサー皇帝陛下の自業自得だが、皇后陛下を含め、アーサー皇帝陛下を取り巻く女性で、アーサー皇帝陛下と心安らぐ関係を持っている女性はいない。
アーサー皇帝陛下は、孤独極まりない状況にあるのだ。
「だから、アーサー皇帝陛下の病状は悪い方向に進んでも、良くなることは無いと上流貴族の多くが見ている。そして、そうなると、上流貴族の多くから、私に次期皇帝としての輿望が集まる。アーサー皇帝陛下からすれば、ますますおもしろくないわけだ」
そういうご事情か。
私は、改めて内心で溜め息を吐いた。
本当にこのままいけば、1年も経たない内にアーサー皇帝陛下は崩御されるのではないか。




