第2部ー21
だが、正論というのは、極めて厄介だ。
反論できないだけに、却って感情的な猛反発を呼んでしまう。
エドマンド様が、アーサー皇帝陛下の御前で、オリヴィアを引き取って私が母代として養育している件を弁明した翌日、今度は、アーサー皇帝陛下から、私に対して、(可及的かつ速やかに)自分の下に来るようにという勅命が届いた。
私は、溜め息が出る想いを内心でした。
帝国で未婚の女性、それも皇女が、皇帝から自分の御前に来るようにと言われるのは、皇帝から、半ば犯罪者だから来るようにと言われるのに等しいことだ。
帝国内で、未婚の皇族、貴族の女性と言うのは、自分の邸内で引き籠り、父や兄弟以外の男性とは逢わないのが当然とされている。
皇帝と言えど例外ではなく、皇后として迎えられる場合でも、入内までは基本的に逢わないのが当然だ。
それなのに、アーサー皇帝陛下から私に対して、自分の下に出頭するようにと言う勅命が届く。
私は犯罪者と言う訳ですか?
私の何が悪かったのでしょうか?
まあ、アーサー皇帝陛下が、私を皇后として迎えたいというのを、私が蹴飛ばして、貴族であるエドマンド様の第二夫人として降嫁したいと事実上宣言したのが、余程、アーサー皇帝陛下にとって気に食わないのですね。
などと、思い切りひねくれたことを私は考えてしまった。
そうは言っても、幾ら何でも、アーサー皇帝陛下からの勅命を、私と言えど無視することはできない。
私は、急きょ、アーサー皇帝陛下の下へ出頭する準備をした。
その様子を見た義理の娘のオリヴィアが、却って心配してしまった。
「ママ、何があったというの」
オリヴィアは、エドマンド様そっくりの仕草で、私に問いかけた。
オリヴィアにしてみれば、私は初めてママと呼べる存在だ。
私は、そう呼ばれるたびに、複雑かつ幸せな想いを感じてしまう。
「大丈夫。何でもないわ。オリヴィア、何も心配することは無いわ」
私は、オリヴィアを思わず抱きしめながら言った。
「うん、分かった」
オリヴィアは、どこまで分かっているのか、そう答えた。
うーん、妻としてよりも、母としてどんどん目覚めているような気がする。
私は更に複雑な思いを抱いてしまった。
私が、アーサー皇帝陛下の御前に出頭して、まず思ったのは、これはアーサー皇帝陛下は長くないな、ということだった。
アーサー皇帝陛下は、エドマンド様と同年齢で、20代前半の筈だが、何とも不健康な顔色をしていた。
エドマンド様やサムエル殿下に、帝位を譲りたくないために、子作りに励んだせいだろう。
それだけ頑張っても、子どもが全くお出来にならない。
ある意味、気の毒な人生を送っておられるともいえる。
「ジェーン、私が皇后として、君を迎えたいと意向を示したことは覚えているだろう。それなのに、エドマンドの娘を自分の手許に引き取り、自前の邸宅を構え、エドマンドもその邸宅に泊まることもあるとは。皇后候補者として許されない振舞いだと、自分で思わないのかね」
アーサー皇帝陛下は、いきなり私を詰問した。
私は、表向き冷静な対応をした。
「義理とはいえ、エドマンド様の娘、オリヴィアは、私にとっては姪です。可愛い姪を、自分の手許に引き取り、母を知らない姪の母代りとして、私が育てることは許されない事なのですか」
私は、あえて涙を浮かべて抗議をした。
フローレンス姉様が、根回しを既にしている。
正論には、更なる正論だ。
教会関係者を通じて、上流貴族社会内に、義理の姪を引き取るな、とは人倫の道にもとる、という意見を流布させている。
下手に私に圧力を掛けて、オリヴィアを私の手許から追い出せと、アーサー皇帝陛下が言っては、上流貴族社会はそっぽを向くだろう。




