第2部ー18
そうと決まれば、後は動くのみ。
フローレンス姉様は修道尼という立場上、一緒に行くことはできなかったが、私とエドマンド様は、オリヴィアを手許に引き取る段取りをつけるために、話し合いが終わり次第、マルコムさんと一緒になって、オリヴィアの住居に向かった。
私が初めて逢うオリヴィアは可愛らしい顔をしていた。
(実際には、私が内心で思っただけで、言わなかったけれど)私があなたのママよ、とオリヴィアに云っても、9歳差では、私は母と言うより姉ね、と私自身内心で思ってしまった。
そんな私の内心に気づくことなく、エドマンド様とマルコムさんは、二人きりの世界の会話を、私達の横でしていた。
「本当にローラの面影がある。きっと、ローラに似た女性に育つでしょう」
エドマンド様が涙を浮かべながら言うと、マルコムさんも肯きながら言った。
「諸国巡礼の旅をしているので、そう姪に逢うことができないのですが、逢う度に妹に似てきます」
ふーん、オリヴィアはローラさんに似ているように見えるのか、その言葉が聞こえてきた私は口に出さずに、そう思った。
私には、そうは思えなかった。
オリヴィアは、どう見てもエドマンド様に似ている。
首の傾げ方、歩き方、一緒に育ってはいないのに、どうして、一つ一つの仕草がエドマンド様に似ているように私には見えるのだろう。
血は水よりも濃い、という金言があるが、その言葉をオリヴィアは体現しているように見えて、私にはならなかった。
そんな私の内心を知らないかのように、オリヴィアは、私達に近づき、マルコムさんに尋ねた。
「伯父様、たびたび来てくださって、ありがとう。始めて来られた方もいるけど、どなたなの」
皇族として、その言葉遣いはどうなの、と私は思わず突っ込んだが、幾ら何でも突っ込み過ぎというものだろう、何しろオリヴィアは6歳だし、皇族として育てられたわけではない。
マルコムさんの代わりに、エドマンド様が答えて、話しかけた。
「オリヴィア、君がオリヴィアなのかい」
「はい。ローラの娘、オリヴィアと申します」
オリヴィアは、簡素ながら、頭を下げ、礼儀正しい挨拶をした。
6歳としては充分か、それに頭もそう悪くないようだ、これならエドマンド様の娘、皇族としての教育をするのに苦労しなくても済むのでは、私は更にそう見立てた。
気が早すぎるかもしれない。
だが、アーサー皇帝陛下がやつれつつある、という話がある。
そうなると、もしものこと(アーサー皇帝陛下が崩御されるということ)が起こったら、オリヴィアは皇帝の長女としての立居振る舞いを当然、求められることになる。
そうなると、これからオリヴィアの母代となる私としては、そういったことを頭に置かざるを得ない。
そう言ったことを考えていた私は、ハタと気づいた。
いけない、いけない、私は頭を思わず横に振った。
うーん、エドマンド様と結婚式も上げていないのに、妻としての感覚に目覚めるより先に、エドマンド様の娘オリヴィアの母としての感覚に目覚めるのは、どうなのだろう。
私は15歳なのよ、恋人として、妻としての感覚に目覚めないと、と自分自身を思わず叱った。
私がそう言ったことを考えている間に、オリヴィアを巡るエドマンド様とマルコムさんの話は、いつの間にか私を半ば置いてけぼりにして、まとまっていた。
「それでは、数日後にオリヴィアを私が迎えに来ます。そして、ジェーンが母代りとして、今後は私と一緒にオリヴィアの面倒を見ます。いいよね、ジェーン」
エドマンド様に話しかけられて、私は肯きながら言った。
「ええ、構いません」
「オリヴィア、これから私達が両親だ」
エドマンド様は、そうオリヴィアに話しかけられた。




