第2部ー16
「マルコムと申します。貴族の地位を捨て、一介の修道僧として諸国巡礼のたびをしております。この私に御用とは何事でしょうか、と尋ねる必要は無さそうですな」
ローラさんの兄、マルコムさんは、この場に集っている面々を見てそう言った。
予め、誰がこの場に来るのかは、フローレンス姉様が、マルコムさんに言われている。
エドマンド様がこの場に来る、というだけで、マルコムさんは話の内容を察しておられた。
「ローラが亡くなった。そして、娘が生きているというのは、本当ですか」
エドマンド様が問いかけると、マルコムさんは肯きながら言った。
「最初から申し上げた方がよろしいでしょう。私が旅の空で、私の兄が亡くなったとまず聞きました。一人で遺されている筈のローラが、私には気になりました。それで、諸国巡礼の旅を中断し、帝都に一度、私は戻ることにしたのです。そして、ローラに会ったところ、ローラは、申し上げにくいのですが、エドマンド殿下から連絡が途絶えたとして、半ば狂乱しておりました」
マルコムさんは、そこで一息入れた。
それを聞いたフローレンス姉様が、黙って唇をかみしめるのが、私には分かった。
この時、フローレンス姉様は、ローラさんの存在を全く知らなかったし、そんな事態が引き起こされるとは、誰にも分からなかっただろう。
でも、この時からいろいろな歯車は狂っていってしまったのだ。
「私は、ローラと一緒にいた侍女や騎士と相談し、お腹の子のためにも、帝都から少し離れた地で、ローラをしばらく落ち着かせた方がよい、と考えました。それに、狂乱した妹の姿をエドマンド殿下にお見せしては、妹がエドマンド殿下に愛想を尽かされてしまうのではないかと心配で、エドマンド殿下にお見せしたくなかったのです」
今度は、エドマンド様が口を挟みたそうにした。
でも、口を挟むべきでないと考えられたのだろう、そのまま黙られた。
「ローラを、騎士が持っていた帝都に近い家に移動させ、私達3人でローラの面倒を見ました。家から離れた山間の静かな地で静養すれば、ローラはすぐに良くなると私達は思っていたのですが、ローラの病状は一進一退と言ったところで、食事もろくに摂りませんでした。そして、半年余りが過ぎ、ローラは娘を産みましたが、体が弱っていたためか、産後の肥立ちが悪く、回復することなく亡くなりました」
マルコムさんは、そこで頭を下げた。
「本当はすぐに、ローラの娘、オリヴィアが産まれたことを、実父であるエドマンド殿下にお知らせすべきでしたが、私どもは躊躇ってしまいました。よりにもよって、エドマンド殿下が、私達にとって恩義のあるバーフ大公家の後見人に事実上なられたからです。ローラは亡くなっていますし、オリヴィアがエドマンド殿下に娘として認めていただけるかどうか。そして、エドマンド殿下がどうもいろいろと問題を起こされたことから、タバサ大公妃殿下と結婚を強いられたという話を小耳に挟みました。そのため、帝国上層部の問題に巻き込まれたくないと、私達は相談の上、私は諸国巡礼の旅にそのまま出て、ローラと一緒にいた侍女と騎士が、オリヴィアを育てていくことにしたのです」
マルコムさんの長い話は終わった。
「それで、オリヴィアは生きているのですか」
エドマンド様が尋ねられると、マルコムさんは肯かれた。
「健康そのもので生きております。この場に来る一日前に、オリヴィアに直接、私が逢っております」
その言葉を聞いた私達の間に安堵の空気が広がった。
ローラさんの娘、オリヴィアは元気に生きていた。
ローラさんが亡くなられていたのは、私達にとってとても哀しいことだが、オリヴィアは生きているのだ。




