第2部ー10
ローラさんの娘を育てているのは、バーフ大公家所縁の騎士らしい。
それをエドマンド義兄さまに教えられてから、私はあらためて数日、考え込む羽目になった。
どうやったら、ローラさんの娘を、エドマンド義兄さまと逢わせて、父と娘の名乗りを交わさせることが出来るのだろうか。
考えれば考える程、思考の迷路に陥ってしまう気がする。
こういう時、ヘレナ母さまやドミニク義父さまは当てにならない。
お二人とも、良くも悪くも物を深刻に考えない性格なのだ。
(だからこそ、フローレンス姉様が、あんな性格に育ったともいえるが。)
かといって、フローレンス姉様を単に頼るのも、自分が情けない気がする。
少なくとも、自分の考えを持ったうえで、フローレンス姉様に相談を持ちかけるべきだろう。
私はそう考えて、更に数日間、自分で考えることにした。
結局、10日余り考えた末に、私はフローレンス姉様の下に出かけた。
フローレンス姉様は、忙しい時間を割いて、私に会ってくれた。
「それで、どうなっているの」
フローレンス姉様は、私に問いかけた。
「かなり有力な手がかりまでは、見つかったのだけど、後一歩が踏み込めないの」
私は正直にフローレンス姉様に明かすことにした。
「バーフ大公家所縁の騎士が、ローラさんの娘を養っているらしいことは推測できた。でも、それが誰なのかが、私達には分からないの。バーフ大公家と私達とは微妙な関係だし」
私がそこまで語った時、フローレンス姉様は、私の言葉を遮った。
「何故、そこで、私達という言葉が出てくるの」
「えっ」
フローレンス姉様の言葉に、私は思わず絶句した。
そういえば、何で、「私達」という言葉を使ってしまったのだろう。
エドマンド義兄さまとバーフ大公家は微妙な関係だが、私とバーフ大公家はそうではない。
あれ?
私は思わず考え込み、暫く黙りこんでしまった。
「いい加減、素直に自分の心を鏡に映すように、自分で見たら。エドマンド義兄さまを、単なる義兄さまと見ていないから、私達と思わず言ったのでしょう」
余りにも長い間、沈黙する私を見兼ねたのか、フローレンス姉様は、私に語りかけた。
ああ、そうか。
エドマンド義兄さまには、ずっと私以外の女性の誰かが、傍に寄り添っているのが当然なのだ、と私は思って育ってきた。
かつて、エドマンド義兄さまには、イザベラ様という事実上の婚約者がいて、フローレンス姉様がいた。
そして、気が付けばタバサ様が、エドマンド義兄さまの傍に寄り添っていた。
だから、自分は、エドマンド義兄さまとずっと呼ぶことで、エドマンドさまのことを、義兄として考え続けることで、自分の本心から目をそらそうと。
私は、エドマンドさまのことを、義兄では無く、大好きな男性として本当は見てきていたのに、自分で自分の心を誤魔化し続けていたのか。
私は涙がこぼれるのを感じた。
フローレンス姉様は、黙って私の事を見つめ続けていた。
私が気を取り直すのを待って、フローレンス姉様は、あらためて私に語りかけた。
「それで、これからどうしたいの」
「ローラさんの娘に、エドマンド様と父娘の名乗りを交わさせたい。そして、私はエドマンド様の傍に義妹ではない立場で立ちたい」
それが、今の私に言える精一杯だ。
そもそも、エドマンド様が、私の事をどう思っているのか。
私の事は、単なる義妹とエドマンド様に言われたら、どうしよう。
私は、自分の心が不安に満たされるのを感じてしまった。
「じゃあ、あなたが、ローラさんの娘の義母になって、エドマンド義兄さまの第二夫人になるというのは、あなたにとっては、どうなのかしら」
フローレンス姉様は、意味ありげに笑いながら言った。
えっ、どういうことなの。




