幕間ーローラの娘と周囲の人々
私はもうすぐ6歳になる。
私に両親はいない、私の傍にいるのは爺やと婆やだけで、山あいの一軒家に住んでいる。
爺やと婆やは、夫婦だとお互いに言うが、どうも違和感がある。
爺やは騎士で、昔は腕が立ったそうで、60歳に差し掛かろうとしている。
婆やは、40歳を少し越したくらい、えらい若い妻を迎えたものだ。
そして、私は子のいない夫婦である爺やと婆やに、事実上の養子として迎えられたと聞かされて育った。
ローラ様が亡くなられて、5年以上が過ぎたのか。
もし、生きておられたら、エドマンド殿下の愛人として、いや第二夫人として、時めかれていたろうに。
数日、エドマンド殿下からの連絡が途絶えたことから、ローラ様は不安になられ、半狂乱状態になってしまわれた。
そこにローラ様の兄、アルフ様が幸か不幸か諸国巡礼の旅の途中で、ご自宅に寄られてきたのだ。
ローラ様は、アルフ様に不安を訴え、アルフ様も軽率なことに、ローラ様を落ち着かせるために、ご自宅から連れ出すことを決めて、私に協力を求めた。
騎士として、いくらかの収入と貯えがあった私は、帝都近くの山あいの一軒家を、自分の所属する騎士団員が帝都で働く際の仮の宿として確保しており、そこへローラ様たちは移動することにした。
ローラ様の移動に付き添ったのは、アルフ様と私、それに侍女のポーラの3人で、秘密を保つためにそれ以外の下女や下男は、支度金を私から渡して、解雇した。
私やアルフ様は、ローラ様が落ち着かれたら、エドマンド殿下に連絡を取ろうと考えていたが、その後、エドマンド殿下は複数の愛人を作られる有様で、このような状況で、ローラ様の事をお伝えするのは、と私達がためらっている内に、ローラ様は、娘のオリヴィア様を無事に出産されたものの、妊娠中からろくに食事をとられていなかったためか、産後の肥立ちが悪く、回復されないまま、亡くなられてしまった。
私達は、途方に暮れてしまった。
ローラ様が亡くなられた今になって、オリヴィア様を、実父エドマンド様の所に連れて行ったとして、我が子として認めてくれるだろうか、私達は不安を覚えざるを得なかった。
こういう時、女の方が腹を括ってしまう。
ポーラは、とある男爵家の娘だったが、実家に対して、地方に私の好きな人が下るので、自分も下ることにしたと手紙を送って、それとなく実家との関係を断ってしまった。
更に私は、オリヴィア様を、生涯かけて育て上げてみせると言い、私に協力を要請した。
私は、ポーラに説得されてしまった。
アルフ様は、私とポーラに、姪のオリヴィアを託して、諸国巡礼の旅に赴かれることにした。
アルフ様にしても、姪が可愛くないわけではない。
だが、エドマンド殿下の態度が読めない以上、下手に自分が帝都近郊にいるとよくないことが起こるのでは、とアルフ様は深読みされて、帝都を離れられることにした。
確かに、アルフ様が帝都近郊を離れられてしまえば、オリヴィア様を、エドマンド殿下が探すことは極めて難しくなるだろう。
私は、オリヴィア様を、騎士団仲間に対しては、故あって引き取った戦友の忘れ形見だと言っている。
実際、私も若かりし頃は、戦場で勇名を馳せたことがあるので、騎士団仲間もそれ以上の詮索はしない。
こういう時、お互いに戦場の(身体のみとは限らない)古傷に触れないのは、騎士同士の礼儀だ。
「爺や」
オリヴィア様は、何も知らずに屈託無く、私に声を掛けてくる。
本当に、いつかはエドマンド殿下に、オリヴィア様のことをお知らせしなければならないだろう。
だが、バーフ大公家の事実上当主、タバサ様がエドマンド殿下の第一夫人であることを考えると、私は気が重くなるのを感じた。




