第2部ー7
私は暫く考え込んだ。
確かに不思議だ、ローラさんの子が教会の施設にいるのなら、フローレンス姉様の情報網に、全く引っかからないというのは、幾ら何でもおかしい。
ということは、ローラさんの子は教会の施設にはいない。
ここまではいい、では、どうやって幼児が生きていける?
誰か頼れる大人がいて、その人がローラさんの子を養っているのは間違いない。
しかし、私が以前、エドマンド義兄さまに聞いた話だと、ローラさんの身内といえるのは兄だけで、それ以外の親族、伯父、叔母とか、従兄弟とかとは、ローラさんは絶縁状態だった。
そして、お兄さんは諸国巡礼の修道僧だ。
そんなお兄さんが幼児を連れ歩いているわけがない。
ということは、ローラさんの身内が、ローラさんの子を養っているわけがない。
あれ?
何か私の考えが間違っている?
私は自分の考えが、だんだん混乱してくるのを覚えた。
余りにも長い間、私が黙って考え込んでいるのを見兼ねたのか、それとも早く別の用事に取り掛かりたいのか、フローレンス姉様は助け舟を出してくれた。
「ローラさんが失踪した時、家には誰もいなかったと、エドマンド義兄様が言っていた。その際に一緒にいなくなった人の誰か、またはその身内が、ローラさんの子の面倒を今は見ている可能性が強い、と私は睨んでいるわ」
そうか、ローラさんは失踪する前、それなりに生活は困窮していたはずだ。
それなのに、そんなローラさんを見捨てずに、ローラさんの傍には人がいた。
つまり、その人達は長年に渡り、ローラさんやその父、兄と縁があり、恩も被っていたから、ローラさんと共にいたのだ。
その中の誰か、又はその身内が、ローラさんの子と一緒にいて面倒を見ているのか。
フローレンス姉様の話は続いた。
「だからこそ、ローラさんの兄は諸国巡礼の旅を続けていられるの。名前からして、多分、ローラさんの子は娘ね、姪を預けてある人は信頼できると、少なくともローラさんの兄は考えているのよ」
なるほど、確かにそうでないとローラさんの兄が、諸国巡礼の旅をしていられる説明がつかない。
それにしても旅から旅を続ける諸国巡礼の修道僧は、その旅路の厳しさから数少ない存在だ、そんな荒行をよくローラさんの兄は続けられるものだ。
私の感心は妙な方向に向かったが、フローレンス姉様は私の心が読めたのか、読めなかったのか、私の感心を続きの言葉で台無しにしてくれた。
「ま、ローラさんの兄が、諸国巡礼の旅を続けているのは、エドマンド義兄さまの追及を逃れるためでしょうけどね。妹を勝手に失踪させたというのが、エドマンド義兄さまにばれたら、エドマンド義兄さまがどれだけ怒り狂うか、ローラさんの兄に誤解されていそうだから」
フローレンス姉様、私の感心を台無しにするのはお止め下さい。
私は気を取り直して、フローレンス姉様に自分の考えを話した。
「つまり、ローラさんと一緒に失踪した人の中の誰かが、ローラさんの子を匿って養っている」
「それが正解だと思うわ。でも、注意してよ。ローラさんの子は、エドマンド義兄さまの子でもある。つまり、れっきとした皇族として扱われるべき存在なのよ。もし、アーサー皇帝陛下にもしものことがあって、エドマンド義兄さまが皇帝にでも即位したら」
その先は言わなくても分かるわよね、という目でフローレンス姉様は私を見据えた。
私は、背中が冷たくなった。
ローラさんの娘は、皇帝の長女として扱われることになる。
つまり、私よりも地位が上の存在になるのだ。
下手な捜索はできない、もし、偽の皇女事件等ということになってしまったら、帝国の大醜聞になってしまうのは必死だ。
これは秘密裡にかつ迅速に行わなければ。




