第2部ー6
そう考えて、フローレンス姉様の下に、双方の都合が合い次第、私は向かって相談したのだが、フローレンス姉様の返答は、私の予想に反して、冷たいものだった。
「まずは自分で考えて行動しなさい。私も忙しいの」
フローレンス姉様は、私の相談が一区切りついた後、即座に私の相談事、ローラさんの遺児がどこにいるのか探すのを協力してほしい、をそう言って切って捨てた。
ええ、フローレンス姉様が冷たい。
フローレンス姉様はため息を吐きながら、自分が抱えている問題を、私に説明してくれた。
「いい。私は修道尼として、まだまだ神学の勉強をしないといけない。そうしないと司教や大司教、枢機卿へと私は任命されはしないわ。そして、例の帳簿の使用方法を周囲に教えないといけないし、更に私の所属している修道会の経営の実権を私は握った存在でもあるの。体が2つも、3つも欲しいくらいなの」
そう言う事情があったのか、私は何となく得心した。
一時、生活に困った庶民が、僧侶になって脱税を図ったことが社会問題になったことがあった。
また、貴族出身だからと言って、ろくに聖書を読んだこともないのに大司教になった例さえあった。
そういったことから、今では、修道(尼)僧は、勉学に励まねばならないとして各自が所属する修道会が厳格な規律を作っているし、司教や大司教、枢機卿に任命されるには、神学についてかなりの素養があるのが必要不可欠とされている。
フローレンス姉様も、そういった事情から神学の勉強に勤しんでいるのだが、フローレンス姉様には他にも忙しくなる事情がある。
フローレンス姉様は、自らの言う複式簿記を活用した新型帳簿を他の修道会が採用するように働きかけていて、他の修道会も新型帳簿の利点から採用が進んでいるのだが、どうしても新型帳簿への切り替えとなるといろいろと指導が必要で、フローレンス姉様自らが指導しないといけないことが多発しているらしい。
また、フローレンス姉様は事実上、自分の所属する修道会の経営を自らで握ってしまった。
フローレンス姉様曰く、
「月に3分も利息を取るなんて、借り手が困るだけよ。借り手も貸し手も儲からないといけないわ。月に2分あれば充分ね」
そう言いつつ、保証人や担保をきちんと確保することで返済を確実化し、帳簿を改善すること等により必要経費を削減し、と自らの辣腕を縦横に振るって、自分の所属する修道会経営を大幅に黒字化して、更に修道会が福祉に回すお金を増やしてしまった。
こうなると、誰も文句を言えなくなる。
そもそも、それぞれの修道会の多くが金融業を副業として営んでいるのは、寄付金だけでは修道会を維持し、更に貧民等の救済を行う福祉に回すお金が、中々確保できないからだ。
寄付金を利用して、金融業を営むことで、多くの修道会の経営は、事実上維持されている。
そうは言っても、所詮は素人の副業の悲しさ、金融業に失敗して、解散に追い込まれた修道会が幾つあったことやら。
だから、フローレンス姉様の修道会の経営の才能は大したものだ、と衆目は一致した。
実際に利益を上げて、福祉に回すお金を増やされては、何も言えるわけがなかった。
だが、逆にそう言ったことから、フローレンス姉様は激務に励むことになり、身動きが取れなくなった。
そうは言っても、それだけ言って、私を突き放すのは冷たすぎると、フローレンス姉様は考えられたのか、暫く考え込まれた末に口を開いた。
「仕方ないわね。幾つか教えてあげるから、そこから更に考えなさい。ローラさんが失踪した後、教会を頼ったらしいというのは言ったわね。でも、私の情報網に、ローラさんの子の情報が入ってこないの。どうしてだと思う」




