第2部ー4
フローレンス姉様は微笑みながら言った。
「ローラさんのお兄さんが、どこの修道会にいるのかは、エドマンド義兄様が教えてくれたわ。そこの帳簿を見たの。ローラさんが失踪した時期に、地方からの修行僧が帝都に来ていて、それを接待していることがある帳簿には載っていた、でも別の帳簿では消されていた。どうにも不自然なのよ」
私は驚いて、フローレンス姉様に尋ねた。
「帳簿を見て、そこまで分かるの」
「私が発明した新型帳簿だと、一目瞭然なのだけど。生憎と旧型帳簿だったので、帳簿を調べるのに私でも手間取ったけどね」
フローレンス姉様は、自信満々に言った。
そう、フローレンス姉様は、修道院に入った後、まじめに宗教の道に(だけ)進むのか、と(私も含めた)周囲に思われていたのだが、フローレンス姉様は、別の道でも才能を発揮したのだ。
フローレンス姉様は、皇族として修道院に入る前から勉学に勤しまれていた。
皇族の女性として必要な音楽等、何でもござれの有能さ。
将来の皇后にふさわしい才能の持ち主だったが、もう一つの異能が実はあった。
それは、算数、経営等といった才能だった。
フローレンス姉様は、修道院に入って、しばらく聖書等、宗教関係の勉学に勤しまれたのだが、すぐに同年代でもトップと見られる学識を持つようになった。
そうなると、時間を微妙に持て余しているのが、周囲にも分かるようになる。
当時、修道院経営に苦しみ、猫の手も借りたいと思っていた修道院の上層部の1人が、フローレンス姉様に少しでも手伝ってもらえないか、と声を掛けたのが発端だった。
フローレンス姉様は、修道院の帳簿を一目見て、断罪したらしい。
「何でこんな帳簿を使っているのですか。私の考えたこの帳簿を使ってください」
フローレンス姉様曰く、複式簿記という方法を使った新型帳簿の使用を、修道院の上層部に、フローレンス姉様は勧めたのだ。
最初はどう使えばよいか、新型帳簿に慣れなくて混乱が経営の現場では起きたらしいが、新型帳簿の効力は絶大だった。
資金の収支のみならず、全体的な財産の状態と損益の状態が一目でわかるようになり、帳簿の不正がばれやすくなったのだ。
そして、実際に多数の不正が発覚した。
それもかなりの上層部が関与していたらしい。
らしい、というのは、フローレンス姉様の入られた修道会の会長が、責任を痛感して、会長を辞職し、隠棲生活に入ってしまわれたくらいだからだ。
余りにも事が重大すぎたので、教会全体が揺れてしまった。
しかも、事実上の告発者が皇帝の姪、フローレンス姉様であり、明々白々な不正会計なので、誰も事を隠そうにも隠せない。
教皇猊下自ら、皇帝陛下や民衆に対して、綱紀粛正を宣言せざるを得ない有様で、事なかれ主義で内部で馴れ合おうにも馴れ合えない。
むしろ、告発者のフローレンス姉様にすり寄ろうとする者まで出るくらいだった。
だから、外部の私には却って不正の真相が分からなくなってしまった。
フローレンス姉様曰く、
「ま、今の枢機卿の半分以上の首根っこは、私が押さえつけたわ。何れは教皇に私は就任できるわね」
と冗談なのか、本当なのか、うそぶく始末。
ちょっと待ってよ。
フローレンス姉様は、修道尼であって、司教にさえなっていないのよ。
下から順に、修道(尼)僧、司祭、司教、大司教、枢機卿、教皇と言う序列に教会はなっている。
一介の修道尼が、枢機卿の半数以上を押さえつけるなんて前代未聞もいいとこよ。
私の頭が、くらくらしてくる話を平然としないでよ。
私は嘘も大概にして、とこの件をフローレンス姉様から聞いた時は叫んだが、フローレンス姉様の傍にいた修道尼は黙って肯いた。
私は、怖くて仕方がない。




