第2部ー3
そんなことを私が内心で思っていることも知らぬ気に、フローレンス姉様は、私に声を心持ち潜めながら言った。
「エドマンド義兄様に、あなたから伝えて。ひょっとしたら、エドマンド義兄様とローラさんの子が見つかるかもしれない。エドマンド義兄様が、かなり頑張らないといけないけど。私は、修道尼だから、修道院から基本的に外出できない。あなたもエドマンド義兄様に協力してあげて」
私は驚きの余り、声が却って出なかった。
エドマンド義兄様とローラさんの子がいる。
ということは、ローラさんは自殺はしていなかったのか。
ローラさんは、エドマンド義兄様の愛人だった。
妊娠したことから、住んでいた邸宅から引っ越さねばならなくなり、エドマンド義兄様に引っ越し先を探してくれるように依頼した。
それを、フローレンス姉様は、嫉妬したことから妨害したのだが。
エドマンド義兄様が、ローラさんの引っ越し先を探している内に、ローラさんは失踪してしまったのだ。
「あの件では、幾つか不思議に思う点があって、私の気に留めていたのだけど。最近、他の修道会の帳簿を見る機会があって、そこで、偶然にも、ローラさんの葬儀の支出の記録を見つけることが出来たの。それを私が読んでいたら、ローラさんの遺品を子どもに渡したらしい、ことが分かったの。ローラさんの葬儀の時期から考えて、その子はエドマンド義兄様の子なのは間違いない。だから、エドマンド義兄様とローラさんの子が生きている可能性があるわ」
フローレンス姉様の話は続いていた。
私は、驚きから暫く声が出なかったが、余りにも意外な話なので、フローレンス姉様に、どこまで真実なのか、問いたださずにはいられなくなった。
「そもそも、何でローラさんは黙って失踪して、更に子どもが産まれたのに、エドマンド義兄様にローラさんは連絡を取らなかったのよ」
私の質問に、フローレンス姉様は、半ば首をすくめるようにしながら言った。
「妊娠うつから、産後うつになって、治らない内にローラさんは亡くなられたと私は診たてているわ」
「はあ。意味が分からないことを言わないでよ」
15歳の私にわかるように説明してよ、言外に私はフローレンス姉様に言ったが、フローレンス姉様には全く通じなかった。
「ま、この世界では、妊娠うつとか、産後うつとか、知られていないから仕方ないわね」
フローレンス姉様は、こんなふうに言って、時折、周囲を煙に巻く。
しかし、さすがにこれでは話が通じないままだと思ったのだろう。
フローレンス姉様は、説明をしてくれた。
「いい。妊娠すると、ものすごく不安になったり、気分が落ち込んだりするものなの。ローラさんとの関係をエドマンド義兄様に聞いたことがあるのだけど、妊娠が間違いなくなっても、ローラさんは、エドマンド義兄様に抱いて、とせがんできていたらしいの。所詮は愛人の身なので、自分は捨てられるのでは、とローラさんは不安で、しょうがなかったのでしょうね」
なるほど、何となく分からなくもない。
「そして、エドマンド義兄様からの連絡が数日に渡り、途絶えてしまった。ローラさんは、更に不安になってしまっていたのではないかしら。私が調べた限りだと、どうもローラさんのお兄さんが、その頃、こっそりと帝都に戻ってきていたらしいの。ローラさんが、お兄さんに自分の不安を訴えて、お兄さんがローラさんをどこかに引っ越させたのではないか、と私は睨んでいるわ」
フローレンス姉様の長広舌は一旦、終わった。
私に不思議に思った。
何で、そんなことがフローレンス姉様に分かるのだ。
私は疑問を姉に問いただすことにした。
「何でローラさんのお兄さんが、帝都にいたらしいと分かるの」




