第2部ー2
フローレンス姉様は、私を笑顔で出迎えてくれた。
「久しぶりね。ジェーン」
私に、そう声を掛けてくれる姉様の美貌は、女性である私でさえ虜にしそうな輝きを放っていた。
帝国の女性の華は、10代後半とされている。
だからこそ、10代後半で多くの女性が結婚するのだ。
20代になっても独身だと、嫁ぎ遅れ、と陰口が出だすくらいだ。
だからこそ、今、私の義姉となっているタバサ様は、本音としては、エドマンド義兄さまと再婚したくはなかった。
30歳近くになって、10代の男と結婚するのは、幾ら皇室から声を掛けられたとはいえ、外聞が悪いとタバサ様は考えられていた。
だが、政治的な状況が、タバサ様を再婚へと奔らせた。
今、帝国の政治体制は、帝室独裁体制と言ってもよいが、細かく言うと綻びがある。
建国以来の諸事情から、貴族が一致団結さえすれば、帝室の行動を制約しようとすれば、全く不可能と言う訳ではないのだ。
だが、貴族の旗頭となるべき筆頭貴族が分裂していることが、帝室独裁体制を招いている。
そもそも帝国の筆頭貴族は大公家だった。
だが、100年ほど前、大公家は後継者争いが起こった。
そして、帝室はそれを煽って、大公家を3つに分裂させた。
バーフ大公家、ノーマ大公家、サート大公家の3家である。
バーフ大公家が本来から言えば、正嫡の地位を主張できるが、100年ほど前に2代に渡り当主が若くして急死したため、叔父等が幼い当主の後見人となり、その後見人の子が、更に大公位に就いて、ノーマ大公家やサート大公家を分立させるという事態を招いてしまった。
だから、幼い乳飲み子の当主コナンを抱えたタバサ大公妃殿下は苦慮することになった。
また、叔父や従兄弟といった存在を後見人にしたら、大公家がまた分裂しかねない。
かといって、自分が後見人では、貴族社会で圧しが効かない。
今でさえ、かつての分裂騒動の影響から、バーフ大公家が、大公家の中で、最も財産が少ない事態となっている。
下手をすると、後見人にバーフ大公家は、更に財産を奪われて、分裂されかねなかった。
そこを見た私の伯父、ウォルター皇帝陛下は、私の義兄エドマンドをタバサ大公妃殿下と結婚させ、幼いバーフ大公家の当主コナンの後見人にすることを提案した。
確かにこの方法ならば、バーフ大公家がかつて引き起こされたように、後見人の子によって更に分裂するという事態を避けることが出来るように、タバサ大公妃殿下には思われた。
それ故、タバサ大公妃殿下はエドマンドと再婚されたのだが、そこにウォルター皇帝陛下は、サムエルを養子としてすぐに押し込んだ。
自らの立場上、タバサ大公妃殿下は、この養子を断ることはできない。
もし、断れば、皇室と言うバックを失うのが見え見えだからだ。
だが、このことはエドマンドとタバサ夫婦の仲を一度に冷え込ませてしまった。
タバサ大公妃には、サムエルがバーフ大公家乗っ取りの魁に思えたのだ。
エドマンド義兄様は、コナンをバーフ大公家の後継者として立てており、コナンを自らの実子のようにかわいがっているのだが、タバサ大公妃にすれば、それさえも演技に見えるらしい。
疑ってかかれば、何でも疑わしく見えるとはいえ、タバサ大公妃の疑いは余りに酷いと私には思える。
そのために、エドマンド義兄様は、結婚当初は、タバサ大公妃と仲を深めようと努力していたのだが、疲れ果ててしまわれ、愛人を作られ出したらしい。
本来の実家である私のいる家にも、5日に1度は泊りに来られる有様だ。
冷たい妻と添い寝するくらいなら、一人寝した方がマシと実家の中とはいえ公言されている。
私の目からすれば、エドマンド義兄様が、お気の毒でしょうがない。




