幕間ーエドマンド3
エドマンド視点の幕間になります。
私は、あの時の情景を時折、思い出すことがある。
「もう2度とこの家には戻らないから。エドマンド義兄さま、幸せになってね」
義妹のフローレンスは、そう私に言って、振り返らずに家から去って行った。
13歳になるか、ならないかの身空で、自分から生涯を神に捧げる修道尼になる。
よくあそこまで思い切れたものだ、とつくづく思う。
フローレンスに言わせれば、ローラを死なせてしまった罪を背負った自分への罰とのことだが、それを言うなら、私の方が罪が重い。
私こそ、修道僧になるべきだったのに。
だが、そうはならなかった。
イザベラが産んだ子は、男の子だった。
当然、皇位継承の資格を有することになる。
表向きは、伯父のウォルター皇帝陛下の第二皇子ということで披露され、真実は皇室の中でも数人しか知らない最重要機密になったが、私と、その子の処遇に機密を知る者、皆が頭を痛めた。
私は、生涯、修道僧になってもよいと思っていたが、私がイザベラを誘ったのではなかったことと、下手に私が修道僧になると、教会が政治に口出しするのでは、という懸念が機密を知る者の間に巻き起こったことから修道僧にはならなかった。
いや、修道僧にならせてもらえなかった。
私の秘密を教会が悪用する可能性がある以上は、それは避けるべきと言う意見が出るのは当然だった。
ドミニク父さんは、妙な悪知恵を発揮してくれた。
「タバサ大公妃殿下と私が結婚する」
ウォルター皇帝陛下から、その話を聞いた瞬間、私は愕然とした。
「うむ。お前の年齢に関しては勅許を与えるので問題ない。それから、お前の隠し子、サムエルを養子として与える」
ウォルター皇帝陛下の言葉は続いた。
「しかし、タバサ大公妃殿下は承知されるのですか」
私の反問に、ウォルター皇帝陛下は
「承知済だ」
と短く答えた。
タバサ大公妃殿下は、帝国上流貴族界では超有名人だった。
とある公爵家の長女で、それにふさわしい婚約を3度もされた。
何故、3度もしたのか。
初回と2回目は、婚約後、1年も経たない内に婚約者が急死したのだ。
そして、3回目でようやく、バーフ大公の後妻として結婚式を挙げることに成功したのだが、20歳以上年上のバーフ大公は、タバサ大公妃に遺腹の長男を遺して、またも結婚後1年も経たない内に急死されていた(その際にはタバサ大公妃の上で腹上死したという心無い噂まで出た。)。
ともかくバーフ大公家とその取り巻きは困ってしまっていた。
1歳程の幼児がバーフ大公家当主、その後見人となるべきタバサ大公妃殿下は、超曰くつきの不運な方である。
そこにドミニク父さんは目を付けた。
「30歳前の若さで孤閨を保たれるのはどうか、とドミニクが言ってな。お前と結婚すれば、バーフ大公家のバックに皇室が就くとタバサ大公妃殿下にささやいたところ、彼女はお前との結婚を承知したそうだ」
ウォルター皇帝陛下は言葉を継いだ。
酷い愛の無い政略結婚もあったものだ。
私は吐き捨てるような思いに駆られた。
自分は今、16歳、タバサ大公妃殿下は、私の記憶に間違いがなければ、28歳の筈だ。
本来なら10代で結婚するはずのタバサ大公妃殿下は、2回目の婚約に失敗した後、生涯独身生活を送るのか、と5年余りも苦しまれたはずだ。
そして、ようやく結婚に成功したものの、またも夫は急死されている。
そこで皇室は足下を見て、私とタバサ大公妃殿下を結婚させようというのだ。
しかし、自分に断るという選択肢はない。
「分かりました。タバサ様と結婚します」
自分の相手を、大公妃殿下と敬称を付けてまで呼ぶことはあるまい。
タバサ様と呼んで、構わないだろう。
せめて、温かい家庭生活を送りたいものだが。
私はそう願った。
分かりにくいと思うので、補足説明をします。
エドマンドが独身のままでは、表向きは第2皇子になるサムエルが、エドマンドの養子になる説明が付きづらい。
それで、エドマンドが30歳近い女性タバサ大公妃殿下と結婚する、30歳近い女性が妻では子どもができないかもしれない、だから、サムエルをエドマンドとタバサの養子にしてはどうか、とウォルター皇帝陛下が勧めて、それをエドマンドとタバサも承諾し、サムエルが養子になったという公式説明がなされたわけです。
どう考えても苦しい説明ですが、皇室の大醜聞を表立たさずに済ませるための方策です。
そして、タバサ大公妃殿下は、実子を無事に大公にするためには、皇室の意向に従わざるを得ず、苦汁に黙って顔をゆがめて、サムエルを養子に受け入れるしかないわけで。
そういうことから、エドマンドも酷い政略結婚と吐き捨てています。




