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第1部ー8

 皇室の緊急会議の翌日、私は伯父のウォルター皇帝陛下に呼ばれた。


「フローレンス、正式に婚約を交わしていなかったのに言うのも何だが、アーサー皇太子との婚約は破棄とする。理由は、私から言わなくても分かっているだろう。今回のエドマンドとイザベルとの密通の原因となった一件、エドマンドの愛人ローラが失踪した件に関し、自分のしたことに申し開きの余地はあるかね」

 ウォルター皇帝陛下の言葉に、私は黙って頭を下げるしかなかった。

 

 私は知らなかったんです、ローラの事なんて、その上、妊娠していたなんて、勝手に断罪しないで。

 そう泣き叫ぶのが、前世だったら、当然だったろう。

 だが、ここは異世界だ、男女交際の慣習が違う。

 エドマンド義兄さまの愛人ローラが妊娠したことを私が知ったら、すぐにエドマンド義兄さまに協力してしかるべき世界だった。

 それなのに、私は。


 ウォルター皇帝陛下の訓戒は続いた。

「フローレンス、君を皇太子妃にして、将来、皇后にしたら、何が起こると思う。おそらく君は、皇貴妃や皇妃を苛め抜くのではないかね。それが、帝国の皇后にふさわしい態度かね」

 そう、この世界では、皇帝は第二夫人の皇貴妃、更に複数の皇妃、愛人が持てるのだ。

 原作漫画で、私は皇后である以上、皇貴妃や皇妃を自分は苛めて当然と行動していた。

 アーサーが私を厭うようになるのも当然だった。

 原作漫画を読むとき、私は前世の感覚で皇后に味方していたが、この世界ではそうではない。

 帝国の皇后たる者、いわゆる後宮の女の支配者として振る舞わねばならない。


「ともかく、フローレンス、アーサー皇太子との婚約は破棄とさせてもらう。今後の事について希望はあるかね」

 ウォルター皇帝陛下からの問いかけに私は答えた。

「生涯、修道院に入りたいと思いますので、伯父上、その許可を頂けますか」

 私は皇帝の姪、皇族の一員である以上は、修道院に入るには、皇族の家長、ウォルター皇帝陛下の許可が必要になる。

 ウォルター皇帝陛下は驚き、優しい伯父の顔になった。


「そこまで自分を責めなくてもいい。ローラの妊娠を知らなかったのだろう。だから、そこまでのことはしなくても」

 ウォルター皇帝陛下は、私に優しい言葉を掛けて下さったが、私にも皇帝の姪、皇太子の婚約者としての誇りがある。

「私に、皇太子に捨てられた女として、俗世で生き恥を晒せと言うのですか」

 実の伯父とはいえ、皇帝陛下に対して不敬極まりない言葉だった。

 でも、私はそう叫んだ。

 そうでもしないと私の内心で荒れ狂いだしたいろいろな想いが吹きこぼれて、言葉が止まらなくなりそうだったからだ。


「分かった。修道院に入る許可を与える。書面をすぐに作ろう」

 ウォルター皇帝陛下は、それ以上の言葉を掛けることは、私の誇りをさらに傷つけることだと察したのだろう。

 そういって、私が自分の前から下がる許可を与えた。

 私は、頭を下げて、ウォルター皇帝陛下の前を下がった。


「フローレンス姉さま、本当に修道院に生涯、入られるの」

 妹のジェーンが、修道院に入る準備をしている私に声を掛けた。

「ええ。だから、この家にはもう戻らないわ」

 そう、妹に返答しながら、私は思った。


 ああ、12歳で小学校卒業どころか、俗世卒業、今回の人生でも婚活に失敗しちゃった。

 私は自虐的な想いを抱いた。

 うーん、ま、あんな男と結婚するくらいなら、独身で生涯を送った方がマシよ、マシ。

 内心で号泣しつつ、あえて、私は前を向いた。


「いい。ジェーン。エドマンド義兄さまを、しっかり支えてあげてね。実の従兄なのだしね。修道院に入った私には、エドマンド義兄さまを支えられないから」

 私は、ジェーンに後を託し、家を出て行くことにした。

第1部の終わりです。

この後、エドマンド視点の幕間を1話挟んだ上で、第2部になります。

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