異世界トリップ六日目その3
チョンルイは教えた通りに鶴を楽しそうに折っているが俺より綺麗に折っておりとても五歳には思えない手先の器用さ
「ケントちゃまにあげる」
折り上がった鶴を俺にくれるので俺の折った少し不格好な鶴をチョンルイに渡す。
「じゃあ 交換な」
「はいですの!」
本当に嬉しそうなチョンルイ
こんなトイレの紙で折った鶴を喜ぶなんてやっぱり子供だなと和む。
子供を遊ばせた事のない俺は幼稚園でやっていた遊びを思い出し、先ず思いついたのが折り紙でトイレの紙を使うのに少し躊躇したが丁度正方形で薄さも折り紙に最適だったので拝借した。
折り紙は俺の初恋の先生が得意で色んなのを教えてくれたがあまり覚えておらずオーソドックスな鶴ぐらいしか折れない。なにしろ子供の立場を利用して膝に抱っこして貰いながら頭に感じる先生の胸の感触を楽しんでいたのだ。俺はなんてエロガキだったと昔を懐かしむ
ガキだから出来る特典だったよな
しかし今の俺と言えば天使の様なチョンルイを膝にのせて立場が逆
嬉しそうに膝に乗るチョンルイは男の俺に抱っこされて何が楽しいんだか?
どうせならマッキーさんにこうやって手取り足とり教えたいと妄想していると
「お母しゃまとお父しゃまとミュンちゃんにも折るの」
「おっそれは良い考えだ。頑張って折れ」
「はいでしゅ!」
そして再び一生懸命折り始める
煩悩だらけな俺に対し純粋なチョンルイが眩しいぜ
「そういえば俺の世界には『鶴は千年、亀は万年』ていう諺があるんだ。長生きを祝ったり願う意味なんだがこの鶴を折ると寿命が延びるって昔から言われているらしいから 亀の神様のチョンルイが折った鶴だからすげえ御利益がありそうだな」
先生が教えてくれた事を思い出しフッと思った俺
「ならケントちゃまにもっと折りましゅ!」
「俺より先ず家族に折ってからな」
そう言うと益々張り切り折り出す。
当分これで時間が潰せそうだ……気分はまるで保父さん
昼は外でピクニックがてらに出掛けて湖畔で弁当
まさに保育園のシチュエーション
子供だから飽きやすいから十羽も折らないと高を括っていたがチョンルイは五、六十枚あった紙で全て鶴に折りあげてしまう
しかもどれも機械で折ったのと言うくらい正確さで角の鋭角さは皮膚に刺さりそう
子供でも立派な神様
何でもこなしてしまうのは当り前か
でも結構単調で退屈な作業で大人でも一気に折るのは飽きてしまう
「チョンルイは頑張り屋さんだな」
偉いな~と頭をなでなで
「ケントちゃまが長生きするように折ったの」
「チョンルイ……」
ジィ~~~~~ン~~~~
感動のあまりチョンルイを抱き締めてしまう
ガバーーッ
「ありがとう 超感動したぜ~~~~」
「ケントちゃま」
二人で感動の抱擁をしていると
「弟君様 お迎えに上がりました」
廊下からビーターの声が聞こえる。
どうやら昼のよう
「チョッと待って下さい。今行くんで」
チョンルイから体を離し立ち上がろうとすると
「チッ…」
「エッ!?」
今チョンルイが舌打ちしたか??????
まさかこんな可愛い子供が?
チョンルイの顔を覗きこむが
「今なんか言ったか?」
「? どうしたのケントちゃま」
訳が分からないような顔で首を傾げる仕草
「何でもない…気のせいか」
どうやら空耳だったようだ。
「それより昼は外で食べようぜ」
「お外でしゅか」
「した事ないか? 綺麗な風景を見ながら弁当を食べたら最高に美味いから」
「楽しそうでしゅ」
「そうだろ~ 日本じゃ花見っていうのがあって満開のピンクの桜の花が一斉に咲いてそれを見なが皆で宴会をするのが毎年の楽しみでさ…その頃に一度戻ろうかな~」
少しホームシックだな
「やだ! 帰っちゃいやなの」
可愛く引き留められるがどうせならマッキーさんに帰らないでと泣き綴られたい
「まだ当分ここにいるぞ。なにしろここには可愛い嫁さん捜しに来たんだから」
そう言うやいなや
「ダメ! お嫁ちゃまはダメ」
「へっ??」
「ケントちゃまは僕の」
僕の?
遊び相手が盗られるのがいやなんだろう
「可愛い嫁さんが出来ても偶には遊んでやるよ」
「違うの!」
「いいからいいから~ それより弁当を食べいくぞ」
チョンルイを抱き上げると何か言いたそうだが大人しくなりそのまま歩き出した。
それから三人で景色の良い場所で敷物を敷いて美味しそうな五段重ねのお重を広げると色取り取りの美味しそうな料理が並んでおりチョンルイも物珍しそうに眺めているがビーターさんは座らず直立不動で少し離れて立っていた。
「ビーダ―さんもこっちで座って食べましょ」
昨日は一緒に食べてくれると言っていたのにさっきから様子が可笑しい
顔を青褪めさせ緊張している。
「滅相も御座いません。 丞相様の御子息様と同席などお許し下さい」
なにやら恐れている??
チョンルイのお父さんは余程の実力者なんだろう
最高官位と聞いたけど総理大臣の様なものかな
確かに怖そうな人だったし無理を言っては気の毒
「じゃあコレはビーダ―さんが食べて下さい」
もう一つの五段の重箱の包みを渡す。
「有難うございます。 なれど今は職務中なので後ほど戴かせて貰いますので」
「ケントちゃま お腹すいたのー」
「そうだな それじゃあ食べよう」
俺の手をひっぱり座らせると直ぐに膝に乗るチョンルイ
「コラ チャンと一人で座って食べなさい」
「やなの ここがいい」
「駄目 横に座れ」
ヒョイ
チョンルイの小さな体を持ち上げ横に座らすが不満そうに拗ねている仕草も可愛い
俺は箸をとって何やら野菜を肉で巻いたものを取ってチョンルイの口に持って行く。
「ア―ン 美味いぞ」
途端に嬉しそうに口を開けて咀嚼する。
まるで雛に餌を与えているようで面白いので次々食べさせる。
「好き嫌いはないのか?」
「お魚が嫌いでしゅ」
俺は少し悪戯心が働き焼き魚の切り身を摘んで突き出す。
「好き嫌いは駄目だぞ」
「うっう」
少し涙目になり俺を見るが
「これ食べたら一つ言う事聞いてやるから頑張れ」
そう言った途端
「分かりましたの!」
意を決したように目を瞑り魚を一口で口に入れるが眉を寄せいかにも不味そうな顔
うっすげ可愛い~~
良く俺も姉ちゃんに無理やり嫌いな物を突っ込まれたがこういう気分だったのかと初めて知る。
そしてチョンルイは魚をあまり噛まずに飲み込んでしまう
ゴックン
喉が詰まったのではないかと俺は水筒のお茶を急いで差し出すと小さな手で受け取り一気に飲み干す。
「良く噛んで食べないと」
「はいですの…」
「でもチャンと食べれたから何して欲しい」
「口付が欲しいでしゅ」
「はっ!? 口付とはキスか」
「ケントちゃまの世界ではキスっていうでしゅか」
「そうだけど……まぁ~いっか」
約束は約束だし
相手は子供で天使の様に綺麗で性別も気にならず顔をチョンルイに屈むと額にキスをする。
チュッ
男の俺にキスされて何が嬉しいのか理解に苦しむが
ガシャッン!!
側で何か落ちる音がするので横を向くとお弁当の包みを落してしまい慌てているビーターさん
「大丈夫ですか」
確りと包んであったのでバラけていなかったが中身がグチャグチャかもしれない
「驚かせて申し訳ありません。 お食事をお続け下さい」
かなりあたふたとしている様子
本当に今日のビーダ―さんは変
何時も落ち着いた人なのに?
もしかして今のキスで引いたのか
確かに大の男が幼児にキスは拙い
性犯罪者と誤解されたら嫌だ
「違うの」
「え?」
「口がいいの」
「口… 口は駄目。 俺が変態扱いされるだろうしそもそも嫌だから。それにチョンルイは好きな子がいるんだろー 俺の世界では初めての口付を捧げる相手と結婚すると幸せになるって言い伝えがあるんだぞ。 だから姉ちゃんも幸せな結婚生活を送っている」
おれは嘘八百を並べ誤魔化す。
「王妃様も初めてだったんでしゅか」
「そうだ。お義兄さんが全部初めてだ」
コレは絶対に事実
あの姉ちゃんだから確信がある。
チョンルイは暫らく考え込む……って考え込む事か??
そもそも好きな子は女の子なのか疑惑が湧いて来る。
「ゴメンなさい キスはあの子としましゅ」
何故か残念そう??
「そうそう 大事な初めてのキスはその子に取っておくんだぞ!」
俺なんか…… 俺なんか……
大事なファーストキスをあの男に奪われたのだ!!!
どうせならマッキーさんに捧げたかった……
「はいでしゅ」
それから俺達は綺麗な風景を楽しみながら美味しい弁当を食べるのだった。
それから腹ごしらえがてらにチョンルイと手を繋ぎ散歩するがまるで親子のようだな~っと思ってしまう。
出来ればマッキーさんと結婚してこんな可愛い子供が生まれたらこうやってピクニックを楽しみ子供が遊んでいる隙にイチャイチャしたり~と妄想を繰り拡げていると
「抱っこ」
「もうか」
まだ5分と歩いていない
「眠いの…」
目を擦り眠たげ
「そっかー 子供は昼寝をしないとな」
幼稚園の昼寝を思い出す……中々寝ないと添い寝をしてくれさりげなく胸にタッチしてた。 今思えばあの頃が一番女性と縁があったよな…
眠そうなチョンルイを抱き上げ屋敷に戻るがあっという間に寝息を立て寝てしまう
「お子様は寝るのが早いな」
スヤスヤと寝息を立てながらの寝顔は穢れの無いまさに天使
しかしこの天使は生身で眠った途端にずしりとした重みが掛かって来る。
「うっ 結構重いもんだな」
「大丈夫ですか」
後ろからお弁当の包みを持ちながら付いて来るビーダ―さんが声を掛けてくる。
「疲れたら替わって貰えます」
結構屋敷から離れた場所だったのは失敗
「そっそれは…… 私が触れてはならないお方ですので……」
「チョンルイってそんなに偉いんだ」
「なにしろ次期亀王と目されてる程のお方で神力は凄まじく私のような低い神力の者では畏れ多く近づく事さえ困難を伴います」
へー 本当に王様候補なんだとビックリ
「困難?」
「神圧が違いすぎ押しつぶされるような圧迫感があるのです」
「へーー でも俺は何も感じないけど」
そう言えばおばちゃんも怖くて部屋に入れないと言っていたのを思い出す。
「私にも分りかねますが恐らく異界のお方だからではないでしょうか」
「そっか……」
人間の俺が考えても分からないのでそう言う事にする。
それから寝室まで送って貰い重いチョンルイを運び疲れた俺はベッドの上に寝かせてその横に俺も潜り込む。
「子守りって結構疲れるな」
どうせする事もないのでチョンルイに添い寝をして惰眠を貪るのだった。
――― ビーターグゥイの呟き ―――
今日の弟君様も愛らしかったっと思いながらも疲労困憊している私
どうやら丞相様の若君様の神力に中てられたようだ。
まさか丞相様の若君様が御出でになるとは
しかも自ら瞑道を開けるなど凄まじい神力!!
玄武国でも瞑道を使えるのは亀王陛下と丞相様のみ
それが御誕生して間もない筈の幼少の身でありながら……噂どうり亀王陛下を凌駕する王になられる資質
容姿も崋山に住まう神々に引けを取らないもの
会う全ての者達を魅了してしまうだろうが私の様な未熟者では恐ろしさが先立ってしまう
威圧するかのような神力が肌を差しもっと距離を置きたいが護衛の任務もあるが弟君様の側にいたい
私は弟君様の方に魅了されてしまう
何故だろう
丞相様の若君様が羨ましい
弟君様の手から食べさせて貰えるなど…もし若君様が来なければ私がして貰えたのではないかと不遜な事を考えてしまい
その上に額に口付をされるなど……思わず自分がと想像し体がカッとしてしまい手に持っていた弁当を落してしまう失態を犯してしまった。
寝てしまった若君様を寝かしつける為に寝所に入って行くのを見送りながら若君様になりたいと思ってしまった愚かな私
何と分を弁えない畏れ多い事を考えるのだと自分を叱咤する。
次期亀王と謳われる若君様になりたいなどと
私は所詮身分が低く神力も低い
ただ弟君様に名を呼ばれるだけで幸せなのだ。
それに明日は二人っきり
剣を教えて欲しいと請われ私に出来る事がありどんなに嬉しかったか
あの方の為に今自分にできる事に誠心誠意努めようと思うのだった。
だが少しぐらい触れたい……