助かったと思ったのに
コスプレのような恰好をした男性に、ニヤニヤ笑われて生きたいか死にたいかなどと問われて、暫し呆然としてしまう。
何を言っているのだろう、この人は? しかも、どこから現れた?
そう思って周囲を見回してみると、辺りは何もない真っ白な空間だった。
私は確か、公園にいたはず……。そう思うが遊具も植木も何もない。
それどころか私を暴行していた従妹もその友達の姿もない。
コスプレ男だけが目の前にいる現状。
そんな状況に愕然としていると、男性は痺れを切らしたかのように『返事は?』と声を荒げてきた。
その勢いに、私はビクッと体を跳ねさせる。
「死んでもいい、と思って、いましたが、叔父家族に遺産が渡るのは、嫌、なので、生き、たいです」
動揺を隠せず、またもや目をキョロキョロさせる。
挙動不審になりながらもどうにか気持ちを吐露すると、男性は面白そうな顔をした。
『じゃあ、生き返らせてやろう』
ニカッと笑ってそんな言葉を吐いた男性に、私は目を丸くする。
「え? あの……。生き返らせるという事は、私は死んで、今ここは天国なのですか?」
怯えながらも疑問を口にすると、男性は眉を寄せた。
『お前、やっぱりいい性格してるな。自分が死んだら天国に行けると思っているんだ?』
半眼でそんな事を言われてしまい、慌てて両手を左右に振る。
「ち、違います。でもここはどう見たって地獄には見えないし、生き返らせるなんて事は地獄では出来ないだろうと思って……」
『天国でも出来ねえよ、そんな事』
「え、でも……」
フンッとそっぽを向く男性に、どうしていいか分からなくなる。
『まあ、僕様が神様なのは確かだけど、ここは天国でも地獄でもない。僕様が作った異空間だ。お前は地面に倒れた際、頭を石にぶつけて死の境を彷徨っていた。死ぬのは時間の問題だったから僕様がお前の体ごと、ここに連れて来たんだ。そんでお前の意思を聞こうと思った。生きたいか死にたいか、どっちだろうとな」
男性の説明に、私はキョトンとしてしまう。
え、この人、神様だったの? それは少しも想像出来なかった。しかも一人称が僕様って……。
見渡す限り真っ白な空間という現実ではありえない場所で、天国か地獄かと考えはしたものの、目の前にいるこのコスプレ男がまさか神様だとは、胡散臭過ぎて思いもよらなかったのである。
私の複雑な表情を見て男性は恐れ入ったかとふんぞり返るが、正直どう反応したらいいのか分からない。
ありがたがればいいのかな?
私が躊躇っていると、男性はパンッと手を叩いた。
『ともかく、生きたいという事だから生き返らせてやるよ』
「あ、待ってください」
簡単に生き返らせようとする男性に、私は慌ててストップをかけた。
「その、このまま生き返らせてもらっても、また同じような事がある、と思うのです」
『まあ、お前の今の現状ならそうだろうな』
どうやら男性は私の状況を把握しているらしい。神様というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
私はそれならば、と勇気を出して訊いてみた。
「あの……神様でしたら、その、何か変える事は出来ますでしょうか?」
『ん、どういう意味だ?』
私の質問に、神様が器用に片方の眉を上げる。
「その、図々しいかもしれませんが、例えばおばあちゃんも一緒に生き返らせてくれたりとか、叔父以外に親族がいたりとか……」
『本当に図々しいな』
「あ、やっぱり出来ないですよね。すみません」
私のお願いに神様が頬をピクリと動かしたので、慌てて謝罪する。が、その言葉にも気を悪くしたようで『ああ~ん⁉』と凄まれてしまった。
この自称神様、感情の起伏が激し過ぎて、怖い。
『お前を生き返らせる事が出来るぐらいだぜ。ババアの一人や二人、一緒に生き返らせるのなんて訳ないし、親族をでっちあげる事ぐらい屁でもない』
「あ、あの、それでしたら……」
思いもよらず神様が下品……コホン、出来ると言ってくれたので、私はその言葉に縋ってしまう。
おばあちゃんがいてくれたら、私は叔父家族と住む必要がなくなる。
それに何より、あの優しいおばあちゃんとまた会えるのだ。
目をキラキラさせて神様を見上げると、彼は私の表情に口角を上げた。
『だが、出来るからと言ってどうして僕様がわざわざそんな事をしないといけない?』
「え?」
『お前を生き返らせてやろうとしているのも、ただ単に僕様の気まぐれだ。それなのにそれ以上の事を何故、叶えてやらないといけないんだ?』
神様の言葉に、私は呆然としてしまう。
『お前が僕様に何かしてくれるのか? 僕様を楽しませてくれるのか?』
顔を近付けてきて、そんな事を問う神様に泣きそうになる。
「わ、私には、神様を楽しませる事なんて何も……。あの、でしたら、どうしてわざわざこんな場所に連れて来たのですか?」
『だから気まぐれだって言っただろう。お前のそれ、それに惹かれた』
「え?」
そう言って指差した先には、母の形見のブルーサファイアのネックレスが光っていた。
『僕様の眼の色と同じ色だ。お前の世界を見ていたら、ふとそれが視界に入った。それの代わりにお前を生き返らせてやってもいいかと思ったんだ』
私はネックレスを神様から隠すように、両手で握りしめた。
「私、あげるなんて言ってません。これは母の形見です。渡せないです」
『お前が渡すかどうかなんて、どうでもいい。それは僕様のだ。対価としてお前を生き返らせてやるんだから文句ないだろう』
そうして神様が人差し指をクイッと上にあげると、ネックレスが私の手と首からスルッと抜けて、神様の手の中に収まってしまった。
「な、何するんですか⁉ 返してください」
神様に手を伸ばすが、スイッと体を避けて離れてしまう。
『そんなに大切な物なら、そうだな。少しだけギフトを与えてやろう。神様からの贈り物だ。嬉しいだろう』
ニカッと笑う神様に、私はとうとう泣いてしまった。
「返してください。生き返らせてくれなくてもいいから、それは返して!」
『煩いなぁ。何だよ、ネックレス一つで生き返れる上にギフトももらえるってのに、何の文句があるんだよ』
「だから、それは私にとっては命より大事な物なの。だから返して」
泣き喚く私に神様は、ううん、こんな奴、神様なんかじゃない。ただのコスプレ俺様男だ。そのコスプレ俺様男は、苛立ったように空に浮かび上がった。
『あー、もう煩い。だったら違う場所に生き返らせてやる。それで文句ないだろう』
「え?」
コスプレ俺様男がそう言って手を振ったかと思うと、私の足元がフニャリと歪み視界は真っ暗になった。
そして再び目を開けると、そこは元いた公園ではなく、柱や壁が全部石造りのだだびろい場所で足元には何かの図形のような物が描かれていた。
そして周囲には金、銀、赤、青などといったカラフルな髪と瞳の堀の深い西洋風の顔の人々が、昔テレビかなんかで見たダルマティカと呼ばれる法衣だったと思うけど、それに身を包んだ人や、黒いローブやマントを羽織った人、そして中世ヨーロッパ時代のようなファンタジー要素溢れる煌びやかなチェニックやブリオーを着た男性やドレスに身を包んだ女性などが、全員でジッと私に視線を向けていたのである。




