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「オースティン様。私も愛しています」
そう言って横にいるオースティンの首にふわりと腕を回す。腕だけでなく、体も感覚が戻ってきて、ただ痺れで動けない状態になってきた。あと少しで体全体が動くようになりそうだ。
(痺れがなくなるまではそこまで時間がかからないようね。だったら、それまでオースティンの気を引いて時間を稼がなきゃ。それに…)
リゼリアはドレスの左袖にある細い膨らみを確認する。太ももにつけていたナイフ同様携帯していた針だ。人間の首元にある神経回路を傷つける暗殺器具だが、今は腕の力が戻ったと言ってもまだ神経の位置を把握してさせるほどの感覚は戻ってきていない。失敗すれば終わり。だからこそリゼリアは慎重に事を進めようとした。
「私めにはすでにエリオットへの気持ちなど残っておりません。ですからどうか気をせかさず、ゆっくりと仲を深めていきませんか?」
オースティンと鼻がつくほどの距離で悪魔のような赤い瞳をおびえを見せる事なく、じっと見つめる。
するとオースティンは一瞬固まった後、先ほどより少し落ち着いた声で言った。
「あ、あぁ…!嬉しいよ!リゼと愛しあえて」
「うふふ…オースティン様ったら」
(リゼリア…耐えるのよ。ここで間違えたら、終わりよ)
笑顔の仮面を貼り付けるリゼリアを抱きしめて、そのままの優しい口調でオースティンが言った。
「ところで、リゼリア…その左腕に隠しているものは何かな?」
「…え?」




