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「ほら、エル?あーん♡」
「ははは!リゼは本当に僕のことが好きだなぁ♡」
王宮の一室。王国1のバカ夫婦と呼ばれる二人が仲睦まじく、ティータイムを行っている。
不意に、リゼリアは旦那にクッキーを渡す腕を止めた。
「ねぇ、エル。本当に王族会議に参加しなくていいの?」
「いいさ。どうせオースティンがどうにかしてくれるし…まあ、僕は、ほら…知ってるだろう?優秀だから実績だけで物を言わせるのさ」
「ふふっ。それもそうね」
そう言って、触れれば壊れてしまいそうな可憐な手で口を覆ってリゼリアは微笑む。
(本当に頭が回らないのね。1年に1回、王族全員が出席する会議に参加しなければ、元々無い信用が地に落ちるに決まっているのに)
ただし、隠された口は決して曲線になってはいなかった。
舞踏会の後、リゼリアの熟練の恋愛テクによってエリオットは見事に骨抜きにされ、3年の交際を経て見事に結婚へとゴールインした。普通、王族の結婚相手は王家によって選ばれた幼い頃から教育されてきた由緒正しい令嬢になるはずだが、エリオットがリゼと結婚しなかったら王宮に火を放つ、と本当にしでかしそうな雰囲気で宣言し、そもそもあのポンコツ王子をここまで大人しくさせて置ける令嬢が非常に貴重だったこともあり、2人の結婚が正式に認められた。
(そもそも、あの完璧王子がいる限り、このポンコツ王子に重要な仕事が回ってくるはずもないし、それは妃も然りでしょうからね)
心のうちに秘めた乙女の想いは、決して口に出すことはせずリゼリアはひたすらにエリオットとのお茶会を遂行する。
「わぁ〜!見て!可愛いいちごの乗ったマカロンよ!さぁ、エル、食べてみて!」
「1つしかないんだから、君が食べてくれよ。僕はこのブラッッックなコーフィーを飲んで…ぐ、ゴホッゴホッ」
(甘い物に目がないくせに、何言っているんだか。私はこんなあっっまいマカロンじゃなくて、今あなたが苦行のように飲んでるコーヒーが飲みたいって言うのに)
コン コン コン コ
エリオットに好きではないマカロンをどうにかして押し付けようとしていた時、部屋のドアから3回半のノックの音がした。
小さな4つ目の音を聞き逃さず、リゼリアは立ち上がる。
「あら。誰か来たようね。私、見にいってくるわ」
「え〜!どうせ使用人さ!部屋に入らせればいいじゃないか!」
そうやって口を尖らせるエリオットに、ここぞとばかりにマカロンを押し込む。
「使用人さんも疲れてるでしょうから、たまには私から会いにいってあげなきゃ…ね?いいでしょう?」
「ふぁ、ふぁあ…(あ、あぁ…)」
リゼリアの上目遣いにマカロンの甘さも相まってどこか夢見心地になっているエリオットをおいて、リゼリアは素早くドアの向こうに待つ使用人から封筒を受け取る。
「王族会議がもうすぐ終了します。今回、第一王子が使用人のための労働環境改善策を提出し、賞賛の声が上がっているそうです」
「まぁ。わざわざそれを伝えにきてくださったの?ありがとう」
王子に怪しまれないようにするため体面上の報告をした後、使用人は部屋を後にした。
(6歳で新しい天体を見つけ、8歳で未解決の数学の難問を証明し…最近では反乱軍の討伐までやってのけたのよね。第一王子の功績をエリオットが聞いたらまた拗ねてしまうわ…。…で、この封筒は…)
封筒の中身は、リゼリアの育て親にして、彼女の仕事の斡旋を行うボスからの手紙だった。エリオットとの接触命令以来、3年ぶりのボスからの手紙。大体の予想はついていた。
『時は来た。暗殺を遂行せよ』
(ようやく、きたのね)
この暗殺の依頼者は、第一王子派閥の筆頭、レブリン・カールズ。彼は愚かな王子を王座に座らせ政治の傀儡にしようと企む第二王子派閥を警戒し、もはや愚かでお荷物な第二王子など必要ない、そう判断した。
しかし、いくらポンコツであろうと相手は王族。警備は厳重でそう簡単に暗殺は不可能だ。そこで私が3年と言う長い月日をかけて彼に接近し、周りが油断をし切ったところで彼を、
殺す。
3年の時を経てやっと降りた暗殺命令。
丸く小さな頭で周囲を見渡す。リゼリア達の頻繁なイチャコラに呆れたのか、本来部屋の前に常駐しているはずの騎士達の姿は見えなかった。それに、長い廊下にも誰もいない。
(王族会議に人員が割かれた、今がチャンス…と言うわけね)
常日頃から携帯していた、太もものナイフの位置を確認した後、リゼリアは何事もなかったように笑顔でエリオットの所へと戻った。
「エル〜!お待たせ!さぁ、早くティータイムの続きをしましょう?」
「はは。リゼはせっかちだなぁ…ところで、さっきの使用人は何しにここへ?」
「そうね…今晩のデザートは、赤い…ベリーのタルトだそうよ」




