Episode 50 :【たとえ、窮地に追い込まれようと】
――龍雅が《紺碧応龍》を装着し、強烈な必殺技・《狂瀾怒涛海龍斬で、異形の翼竜を粉砕した――。
それと時を同じくして、朱音もまた、《TYPE:D》と対峙していた。
(……これは……かなーりマズい状況やな……)
しかし、龍雅が圧倒的勝利を飾ったのとは対照的に、朱音は――まさに絶体絶命の窮地に追い込まれていた。
今の朱音は、《特殊兵装》を装着することができておらず、生身での戦闘を強いられていた。
そのせいで、端正な顔立ちは血と傷で、スーツも至る所が破れてしまっている。
そんな彼女のすぐ近くには、醜悪と呼ぶに相応しい翼竜が――《《2体》》。
つまり今、朱音は《TYPE:D》に、挟み撃ちをされている状況なのだ。
なぜ、そんな絶体絶命の状況に、朱音は追い込まれてしまったのか。
答えを知るには、時計の針を、少し巻き戻す必要がある――。
――〈A.E.G.I.S〉本部から発進した朱音は、物の数分もしない内に、目的地へと到着。
浮遊ワゴン車から飛び降り、戦場へと降り立った。
眼前にいたのは、大樹のような腕で、まるで積み木を崩すかのように、ビル群を薙ぎ倒す《TYPE:D》。
すぐさま朱音は、自らの《特殊兵装》を装着するため、スーツの内ポケットから《アーマードバックル》を取り出そうとした――。
その時、悲劇は起こった。
【ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!】
上空から、別個体の《TYPE:D》が、凶悪な咆哮を上げる。
そしてそのまま、口腔内で生成した火炎弾を、朱音に向かって発射してきたのだ。
「なっ――!!?」
――ドオオオオンッ!!!
上空からの奇襲に気付いた朱音は、全力で跳躍。
なんとか直撃は免れたが、至近距離で爆炎に巻き込まれた結果、紙屑のように吹き飛ばされてしまう。
「ぐうっ……!!」
爆炎による火傷、爆風によって生じた衝撃波、アスファルトを転がされたことによる激痛――。
その全てのダメージを、しかも同時に負ってしまったことにより、朱音の生命活動力は、著しく衰弱してしまう。
それだけでも散々な状況だというのに、朱音の不幸は、まだ終わらない。
なんと、火炎弾の爆発によって、持っていた《アーマードバックル》を、手放してしまったのだ。
「くっ……!!」
朦朧とする意識の中、手探りで周囲を探す朱音。
だが、どこにもバックルは見つからない。
どうやら、かなり遠くまで吹き飛ばされてしまったようだ。
【グギギィ……!! グギャギャギャアアアアアアアアッ!!!】
追い打ちをかけるように、上空から火炎弾を発射してきた《TYPE:D》が地に降り立ち、勝利を確信したかのような雄叫びを上げる。
《特殊兵装》が使えない上に、満身創痍。
そして、ただでさえ脅威的な翼竜を、しかも2体も相手しなければならない。
これを絶体絶命の窮地と呼ばずして、なんだというのか。
(……エネルギー節約のために、ギリギリまで生身でいようとしたのが、こうも裏目に出るとはなぁ……。
おバカキャラが、策士ぶるもんやないな……)
――《特殊兵装》こと、《対異能生命体特化型・特殊環境適応兵装》。
その名の通り、〈A.E.G.I.S〉が誇る、対用の強化スーツ型戦闘兵器。
《特殊兵装》には、最大の特徴である〝科学技術で再現された超能力〟の他にも、多種多様な機能が組み込まれている。
〝装着者が受ける、物理的ダメージの軽減〟。
〝身体能力の強化や補強〟。
〝組み込まれた超能力の出力増強〟。エトセトラ……。
それらの機能は、装着時に自動的に発動する。
そして、装着が解除されるまで、あるいは稼働に必要なエネルギーが尽きるまで、発動し続ける。
この〝稼働に必要なエネルギー〟とは、ズバリ、《AS.GP》のバッテリー。
そのバッテリーから供給される電力を、腰部に装着した《アーマードバックル》が常時変換・放出を行い続けることによって、《特殊兵装》の本領は発揮される……という仕組みなのだ。
つまり、《GP》のバッテリーが尽きれば、《特殊兵装》を使用することはできない。
そうなると手元に残るのは、無駄にメタリックで分厚いだけの、金属の塊だ。
そして《特殊兵装》はその性質上、ただ装着しているだけでも、稼働に必要なエネルギーを消費してしまう。
安全性や確実性を考慮すれば、戦闘時には常に《特殊兵装》を装着し続けるのがベストなのだが、それは最大持続時間を急速に削ってしまう行為でもある。
なので朱音は今回、「必要最低限の範囲内でしか使用できない」という作戦を、事前に立てていた。
……しかし結果的に、その作戦は、失敗に終わった。
それを、「結果論だから仕方ない」と擁護するか、「愚策が招いた結果」と非難するか……。
少なくとも朱音は、最初から《特殊兵装》を装着する判断をしなかった、過去の自分を呪っていた。
(ああ、もう……ナッチャンの前で、あんなカッコつけておいて、この様かいな。
今のウチ、いいお笑い種やなぁ……)
《アーマードバックル》がなければ、《特殊兵装》を装着することなどできない。
力なく、乾いた笑みを浮かべる朱音。
しかし、その朱色に輝く瞳の奥底には、強き意思と決意が燃え上がっていた。
朱音はまだ、生き抜くことを、諦めてなどいない。
足元が覚束なくても、傷と血にまみれても――朱音は立ち上がり、2体の翼竜を睨みつける。
(でも、悪いけどな……ウチは、こんなところで終われる人間じゃ、ないんよ)
破れたスーツの胸元に、そっと手を添える朱音。
首元から鎖骨を赤黒く染める、時間でさえ癒せなかった、痛々しい火傷痕。
その傷は、彼女にとって、「目の前の命を守れなかった」という、罪の象徴。
そして――「それでも、なお生きる」と誓った、希望の灯火であった。
<次回予告>
《――「ねえねえ! おとーさん、おかーさん!
朱音ね、将来は、自衛隊になりたいな!」》
≪朱音という人間は、肩書や制服だけでなく、魂の奥底まで、立派な自衛官だったのだ。≫
≪朱音にとっては、それこそが――「今日も生きる」という、小さな祈りだった……。≫
次回――Episode 51 :【私が、守りたかったもの】




