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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第五章 | 【Fifth Story of the Babies : 《特殊兵装、見参》】

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Episode 51 :【私が、守りたかったもの】

《――「ねぇねぇ! おとーさん、おかーさん!

 朱音《あかね》ね、将来は、自衛隊になりたいな!」》


《――「えー? この間まで、『たこ焼き屋さんになりたい』って言ってたじゃない。いつでもたこ焼き食べられるからって」》


《――「自衛隊って、訓練とか大変なんだぞ?

 飽き性な朱音に、なれるかなぁ?」》


《――「むーっ! なるもん! 絶対なるもん!」》


 ――きっかけこそ、テレビに映る自衛隊員達の姿が、とても格好よく見えた……そんな、小さな憧れだったのかもしれない。


 しかし、次第に朱音は、誰かに命じられたわけでもなく、自己満足のためでもなく――心の底から、誰かを守りたいと願うようになった。


 幼い頃、目の前で友達を危険から庇ったあの日の鼓動が、今でも忘れられなかった。


 災害で家を失った人々をニュースで見たとき、「何もできない自分」が、どうしようもなく悔しかった。


 そんな彼女にとって、自衛官という仕事は、まさに天職と言えるものだった。


 だからこそ、自衛隊時代の厳しすぎる規則も、過酷な訓練の日々も、彼女にとっては、決して苦などではなかった。


『この努力の日々が、きっと、誰かの明日へと繋がるんだ』。


 そう思えば、笑って乗り越えることができたのだ。



 ――そうして時が流れていくにつれて、朱音は一人前の陸上自衛官として、認められていくようになった。


 特に射撃訓練では、目覚ましい才能を発揮し、「射撃の女神様」と称賛されるほどの実績を残していた。


 だが、周囲が何よりも尊敬していたのは――被災地における、その健気で直向きな救助活動だ。


 どうしても間に合わず、救えなかった命が数多く存在する。


 その現実に胸を痛めながらも、今生きている人達を救うことを最優先に、己の全てを犠牲にしてでも、任務を全うした。


 彼女は、自らに課せられた任務の枠を超えて、炊き出しや生活支援に全力を尽くした。


 そして、自らコミュニティの中心となって、温かく安心できる食事の場を、提供し続けた。


 朱音も、所詮は、ただの人間だ。


 自衛官であろうと、正義のスーパーヒーローであろうと、救えない人間の方が、どうしたって多くなる。


 だが、彼女のおかげで、喪失感という名の苦しみから救われた人間は、間違いなく存在した。


 朱音という人間は、肩書や制服だけでなく、魂の奥底まで、立派な自衛官だったのだ。



 ――しかし、どれだけ立派で、どれほど優秀な自衛官であったとしても。


 当時の朱音では……いや、当時の兵士や軍隊《ぐんたい》では、《ヒューマネスト》という怪物に対抗することなど、到底不可能であった。


 朱音は、死に物狂いで戦い続けた。


 全身が傷と血にまみれた、無様なほど痛々しい姿になりながらも、なおも銃を構え続けた。


 しかし、《ヒューマネスト》に、そんな彼女の銃弾《とうし》は、一切通じなかった。


 絶体絶命の窮地に陥った、その瞬間。


 彼女を救ったのは、一機の戦闘機だった。


 ……しかし、その戦闘機は、《ヒューマネスト》を攻撃するために現れたのではなかった。


 機体からは黒煙が立ち上り、操縦もままならない状態で、それでも戦闘機は――《ヒューマネスト》の元へと、一直線に、突っ込んでいったのだ。


《――「……っ……!?

 待って、駄目っ!!」》


 朱音の叫びは、届かなかった。


 そのパイロットは、最後の一矢を報いようとしたのだろう。


 損壊した戦闘機を何とか動かし、自らの命と引き換えに――特攻を選んだ。


 ――ドガガアアアアンッ!!!


 戦闘機の爆発と、《ヒューマネスト》死亡時に発生する爆炎。


 その2つが重なった爆炎が、一瞬で朱音の視界を覆い――。



 ――次に朱音が目を覚ました時、そこに命は……一つもなかった。


 残っていたのは、全身に火傷跡を残した、朱音ただ一人だけだった。


《――「……なんで……私、が……私、だけがっ……!!

 うわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」》


 朱音は、一人でも多くの人を助けようと、全力を尽くした。


 気高い志を掲げ、命懸けで抗った。


 だが、彼女が得られたのは、「たかが一人の人間が抗ったところで、状況が打破できるわけもない」――そんな、残酷な現実だけだった。


 訓練を共にした仲間達が、呆気なく、散っていった。


 己の人生を捧げてでも守りたいと願った人々も、彼女の目の前で、《ヒューマネスト》に、無惨に喰い殺されていった。


 ――『平凡だけど、確かな幸せがある日常。そんな誰かの幸せを守ってあげられるような人になりたい』。


『もし誰かが挫《くじ》けてしまった時、自分が少しでもその人の力になれるのなら、迷わず手を差し伸べたい』――。


 そう心から願っていた朱音は――結(・)局(・)、(・)何(・)一(・)つ(・)、(・)守(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。(・)


 彼女の目の前に広がるのは、笑顔が溢《あふ》れる、幸せな光景ではなかった。


 飛び散った肉片、焼け焦げた亡骸――それが、全てだった。



 ――だからこそ。


 朱音は、特殊構成員の一員として選ばれた時、心に誓った。


「今度こそ、人々をこの手で守ってみせる」。


「何もできず、ただ見ているしかなかった自分には、もう戻らない」――。


 そう、決して消えない火傷跡に、刻み込んだ。


 あの時救えなかった、数多くの命に、強く誓った。


 そんな朱音の決意は、鮮血のように赤く染められた、その髪に宿っていた。


 風になびく その赤髪は、いつだって朱音の耳元で、囁《ささや》いている。


「あの惨劇《さんげき》と、無力だった自分を、一瞬たりとも忘れるな」と――。



《――「じえーたいのお姉ちゃん! 見て見て!」》


《――「おおっ! 可愛いシュシュやなぁ。誰に貰ったん?」》


《――「ううん、あたしから! これ、お姉ちゃんにあげる!」》


《――「ええっ!? そ、そんなぁ……! 嬉しいけど、もらえへんよぉ!」》


《――「ダメなの……? あたしの、お礼のきもちなのに……」》


《――「ぐぅっ……あ、あはは、そっかそっか……。

うん、わかった! お姉ちゃん、大事にするからな!」》


 ――いつかの救助活動の時、仲良くしていた女の子から貰った、黄色のシュシュ。


 朱音は、そのシュシュで、赤い髪を束ねる。


 朱音にとっては、それこそが――「今日も生きる」という、小さな祈りだった……。


----------


 「離れていても、君の涙を拭いたい」と 願うから

 大空を飛翔《かけ》る鳥のように 私は大地を蹴り 風を切る


 「この手で、君の笑顔を守りたい」と 願うから

 紅く煌めく焔《ほのお》のように 私の闘志は 熱く燃え上がる


(鳳紫(ほむら) 朱音(あかね))


-----------

<次回予告>


≪――そして今、朱音は絶体絶命の窮地に追い込まれながらも、決して諦めることなく立ち上がる。≫


≪朱音にとって、ここで生き延びることを諦めることは、あの時守れなかった全ての命と、その無念を踏み躙ることになる。≫


「いくで……!」


次回――Episode 52 :【不屈の灯火(たましい)】

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