Episode 48 :【相対する、翼竜と応龍】
――《TYPE:DRAGON》。
ファンタジーの物語や、ゲーム作品などで登場し、広く知られる怪物、ドラゴン。
その翼竜を彷彿とさせる、巨大な翼と長い尾が特徴的な、《ヒューマネスト》の一種だ。
その巨体は、優に10メートルを超え、強靭な体躯から繰り出される攻撃は、高層ビルを積み木のように、いとも容易く崩してしまう。
さらに、口腔内で生成され、大砲のように吐き出される火炎弾は、圧倒的な熱量と破壊力を兼ね備えた、恐ろしい武器だ。
鱗に覆われた肉体の、その頑丈・強靭さもまた、《TYPE:D》の厄介さの一つである。
戦車に搭載された、120mm滑腔砲――人類が誇る陸戦兵器の主砲でさえ、できることはほんの一瞬だけ、怯ませることのみ。
戦術ミサイルによる絨毯攻撃ですら、確実な撃破に至ることはなかった。
そんな、たった一体の怪物に、数え切れぬほどの兵士が、無惨に殺されていった。
まさに、《ヒューマネスト》の中で最強と言える、強靭無敵な翼竜。
そんな《TYPE:D》が、
『〈御門大江戸〉を防衛する電磁結界が、緊急メンテナンス中』
という一瞬の隙を衝き、住宅街へと侵入した。
雨雲に覆われる空の下で鳴り響くのは、緊急避難のサイレンと、恐れ、涙する人々の悲鳴。
安息を約束されていたはずの〈御門大江戸〉の住民達が、突然の来訪者の手によって、呆気なくその命を奪われていく。
この事態に対処するべく、〈御門大江戸〉内を警邏する〝治安維持型フレンド〟が、それぞれの装備を構え、各地に展開する。
〝駆除型〟は、最新式かつ高出力の科学兵器を、捕縛型は強力で頑丈な電磁ワイヤーを両腕に装備し、《TYPE:D》に立ち向かう。
目的は、住民の避難と、特殊構成員達の到着までの、時間稼ぎ。
一体、また一体と破壊されながらも、自分達が稼いだ時間が、より多くの命を救うと信じて、彼らは戦い続けている――。
――集中治療室を離れた龍雅と朱音は、それぞれ別の浮遊ワゴン車へと飛び乗り、《TYPE:D》の活動が特に活発な場所へと、急行する。
(っ……。すまない、みんな……あともう少しだけ、耐えてくれ……)
車窓の向こう側で広がる景色に、龍雅は唇を強く噛み締め、渦巻く感情を押し殺す。
――ピロリロリ。ピロリロリ
その道中、龍雅の《AS・GP》から、軽快な着信音が鳴り響いた。
その相手は、本日何度目かの通話となる、朱音であった。
『――なあ、リュウさん。ナッチャン、あれで納得してくれたんかな?』
「……どうだろうな」
不安を含んだ朱音の声に、龍雅は短く答える。
夏神は、意思が鋼のように強く、たった一言の忠告で大人しくなるタイプではない。
内心、龍雅は、そう考えていた。
《2050DD》の惨劇が起きる前、龍雅は、警視庁刑事課に所属する、優秀な警察官だった。
その仕事柄、人と接する機会が人一倍多かった、龍雅。
彼はその経験から「正義感や己の使命に駆られるあまり、自分の命を顧みない傾向が強い」という、夏神が抱えている危険性を、見抜いていたのだ。
『あの子、間違いなく、大人しく引き下がっている柄じゃないやろ……?
そんなこと言ってる場合じゃないって、分かってるんやけど、やっぱり心配やわ……』
そう考えていたのは、どうやら朱音も同じだったようだ。
その声色からは、仲間を想う優しさと、戦場に立つ者としての葛藤が、入り混じっていた。
そんな彼女の心中を察しながらも、龍雅は短く息を吐き、口を開く。
「……君の気持ちは分かるが、いずれにしても、今は《TYPE:D》の迎撃が、先だ」
自分を納得させるように呟く龍雅。
その言葉に、朱音も『……せやね』と、静かに返した。
「――さて、行くか」
目的地へと到着した龍雅は、電磁浮遊するワゴン車の高度を少しずつ下げていき、飛び降りるように着地する。
張り詰めた空気が顔を切りつけ、硝煙と金属の匂いが鼻を刺す。
彼の目の前には、治安維持型の電磁ワイヤーで身動きを封じられている、《TYPE:D》の姿が。
強靭で巨大な体躯を守る、毒々しい色彩の鱗。
引き裂かれた口元でチラついて見える、血の滴る鋭利な牙。
そして、無数の目玉が埋め込まれ、妖しく動く巨大な翼……。
まさに、異形の怪物という言葉が相応しい翼竜が、そこにいた。
(夏神君といえど、この《TYPE:D》が相手では、成す術もないだろう。
夏神君が無謀な行動をしてしまう前に、そして何より人々の犠牲を最小限に抑えるために、今すぐに――撃破しなければ)
一刻一秒を争う状況下、今の龍雅の最優先事項は――確実かつ迅速に、《TYPE:D》を撃破すること。
だからこそ龍雅は、何ら躊躇することなく、《アーマードバックル》――《特殊兵装》を装着する際に必要な、長方形かつ金属製の道具を取り出し、構えた。
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<次回予告>
【《紺碧応龍》――迸る激龍を、我が剣に。】
≪水色に輝く刃の大剣と、渦潮模様の巨大な盾を携え、科学技術で再現した〝アクアキネシス〟 (水を操る超能力)を駆使して戦う、激流の騎士。≫
【《狂瀾怒濤海龍斬》――発動。】
次回――Episode 49 :【悲劇を断ち斬る、激流の刃】




