Episode 47 :【翼竜、襲来】
――ビビビビビーッ!! ビビビビビーッ!!
突然、喧ましいアラーム音が、治療室に鳴り響く。
そして直後、鶴亀を映したモニターが、空中に表示された。
その瞬間、くつろぎながら談笑していた2人の顔が、険しいものとなる。
『緊急速報……。
〈アフターエリア〉から、夥しい数の 《ネスト》が、お引っ越ししてきたよ……。
どうやら、電磁結界の緊急メンテナンス中に、突破されちゃったみたい……』
「えっ……!?」
驚きを隠し切れない俺とは違い、雨津星さんと鳳紫さんは、今もなお冷静だ。
「マジかいな。フレンドちゃん達は、大丈夫なん?」
『流石に《TYPE:D》が相手じゃ、分が悪過ぎるよ……。
まあ、ある程度は、すでに対処してくれているみたいだし、御の字っちゃあ御の字だけどね……』
「……《TYPE:D》?」
初めて聞く言葉に、思わず首を傾げる。
「《TYPE:DRAGON》の略。
そのまんま、ゲームとかで出てくるドラゴンによく似た《ネスト》……ってところや。
現在確認されている中で、最も手強い相手やで」
「ちなみに、君が倒した〝蜂の《ネスト》〟は、《TYPE:INSECT》――《昆虫のネスト》に該当する存在だな」
……成程。
そういえば〈狭間交信局〉に向かう際、「白髪の剣士が、巨大な鼠を倒した」というニュースが、掲載されていたな。
おそらくだが、そいつは《TYPE:哺乳類》とでも呼ぶべき存在なのだろう。
……そしてそれは、黒豹に変異した、音葉もまた――。
「それで、具体的な数は?」
『いちいち数えるのも面倒……。
見た感じ――あ、今、一つ減った……』
「……? 一つ減った?」
鶴亀が、何かの探知機能を見ながら会話しているのは、分かる。
だが、「一つ減った」という言葉の意味は、よく分からない。
この場にいない鳴宮か、それとも俺の知らない他の特殊構成員が、すでに対処していたということだろうか?
……いや、雨津星さんの話だと、「特殊構成員は、《《現在では》》、彼と鳳紫さんを含めた、4人だけ」だったはず。
その4人とは、雨津星さん、鳳紫さん、鳴宮、鶴亀……で間違いないだろう。
つまり俺は、現時点ですでに、特殊構成員全員と面識がある状態なのだ。
だとすれば、「他の特殊構成員が~」という可能性は、ないと断言していい。
とすると、治安維持型のフレンドが、すでに対処している……と考えるのが自然な流れだ。
……しかしそうなると、今度は目の前にいる2人の、《《その微妙な表情》》の説明が、つかなくなるのだが……。
『鳴宮君には、君達2人より先に伝えてはいたけど、こんなに早く対応できるとは思えないね……。
だとすれば、可能性として考えられるのは……』
「……やはり、《《あの少年》》か」
鶴亀が、まるで俺の考えを読んでいたかのように、呟いた。
雨津星さんも、続くように、ぽつりと零す。
「少年……?」
思わず聞き返すが、それを遮るかのように、鶴亀が続ける。
『詳細な数と位置情報は、もう2人の《ガラケー》に転送しといたから……。
仕方ないから、僕も出動するよ……。枕を高くして寝たいしね……』
鶴亀がそう言い終えると、空中モニターが、プツンと消える。
その後、《二つ折り携帯電話》を開いて情報を確認した2人は、そのまますぐに行動に移ろうとした――。
その時、思わず、声が出た。
「待ってください。俺も行かせてください」
……言った瞬間、自分の軽率さにハッとする。
あの時、鳴宮に言われた、「俺に勝てないようでは、《ネスト》の相手など務まらない」という言葉が、胸に突き刺さる。
そもそも、今の俺は、ただの負傷者だ。
最も手強い《ネスト》と称されている《TYPE:D》と戦ったとしても、足手纏いにすらならないだろう……。
「……夏神君。
君をスカウトした立場で、こんなことを言うのも、心苦しいが……それでも、聞いてくれ」
そんな俺の葛藤を察したのか。
雨津星さんは、戸惑いも呆れもせず、真剣な表情で、俺を見据えた。
「君は、『勇気と無謀の区別が付いていない』という、大きな欠点を抱えている。そのことを重く受け止め、充分に理解してほしい。
俺は君に、戦場で華々《はなばな》しく散ってほしくて――特殊構成員にしたわけじゃない」
冷徹な言葉が、心に突き刺さる。
今の雨津星さんに、先程までの温厚で柔和な雰囲気など、微塵も感じられない。
俺の目の前にいるのは、〈A.E.G.I.S〉の主任として……同時に、戦う使命を背負った戦士として、《ネスト》という怪物を倒す覚悟を決めた男だ。
しかし、雨津星さんのその言葉は、鋭くも優しいもので……自然と、すっと胸に入ってくるものだった。
「……あーっと。ほな、ナッチャン?
それならウチも、ちょっと言わせてもらうで?」
続いて鳳紫さんが、明るく笑いながら、口を開く。
「自分の未熟さや非力さを受け入れるっちゅーのも、成長するために大事やと、お姉さんは思うで。
まあとにかく、今日のところは、リュウさんとウチに任せとき。恥を忍んで人に頼るっちゅーのも、立派な強さやで?」
言葉のニュアンスや態度に違いこそあれど、俺のことを本気で思ってくれていることに、違いはない。
そんな2人に、そこまで言わせてしまったのなら、俺としては……もうこれ以上、何も言うことはない。
「……分かりました」
心の中にある迷いを押し殺し、俺は素直に従うことを選んだ。
雨津星さんも鳳紫さんも、完全に安心したわけではないみたいだけど――状況は、一刻一秒を争うものだ。
だから、2人はそれ以上何も言わず、風を切るように治療室を後にした――。
----------
<次章&次回予告>
≪まさに、《ヒューマネスト》の中で最強と言える、強靭無敵な翼竜。≫
『――なあ、リュウさん。ナッチャン、あれで納得してくれたんかな?』
(夏神君が無謀な行動をしてしまう前に、そして何より人々の犠牲を最小限に抑えるために、今すぐに――撃破しなければ)
次章――【Fifth Story of the Babies : 《特殊兵装、見参》】
次回――Episode 48 :【相対する、翼竜と応龍】
-----------
第四章、完結!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語を最後まで見届けてもらえたこと、心から感謝しています!
もし少しでも心に残ったものがあれば、
一言だけでもレビューや応援コメントをもらえたら、とても励みになります!
それでは、また次の章で、お会いしましょう!
「【T.F.B】の物語が、あなたの人生に、小さな輝きを届けられますように!」
----------
PS. 本作のキャラや世界観を表現するイメージソングやPVなどを、YouTubeで公開しています。
物語をもっと楽しみたいな、と思っていただけた方は、もしよければ、そっと覗いてみてくださいね!
Youtubeにて、
「トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ」
……と、検索してみてくださいね!




