Episode 46 :【好物と、ゴーグルと、仲間の過去】
「――うん! いつも変わらず、この店のイチゴ大福は美味い!」
「うんうん! うまいうまい!
あー美味しいなー! 1人で食べても美味しいなー!」
「……なんか当てつけのように聞こえるんですけど」
最初は落ち込んでいた、雨津星さんと鳳紫さん。
だけど、手元に持っていた大好物を食べ始めたら、すぐに復活してくれた (内心ホッとしたのは、ここだけの話だ)。
「まあ、っていうのは冗談やけど……。
ナッチャンは、何か好きなもんとかないの?」
「……あまり、思いつかないですね。食には、そんなに興味がない方なんで」
……半分は本当だが、半分は嘘だ。
俺の一番の好物――それは、母さんが作ってくれる、だし巻き卵。
だけどもう、何年も食べていないので、味も忘れてしまった。
母さんがいなくなってしまった今、二度と食べることもできない。
だから……俺に、好物と言えるものは、もう存在しない。
「ふーん、そっかー。
これから長い付き合いになるかもやから、色々とナッチャンのこと知りたかったんやけどなー。残念、無念」
「まあ、焦る必要は無いさ。
今は、新たな仲間の加入を、純粋に祝おうじゃないか」
「……仲間……」
イチゴ大福を飲み込んだ雨津星さんが、何気なく口にした「仲間」という言葉。
その言葉に、胸が温かくなる……と同時に、一つの疑問が浮かび上がる。
「そういえば……さっきこの部屋にいたゴーグル男って、〈A.E.G.I.S〉の構成員なんですか? お二人と同じバッジを付けていましたが」
先程の男――額のゴーグルと眼鏡が特徴的な白衣の男。
彼もまた、俺の予想通りなら、仲間と言える存在のはず。
だからこそ、そんな男の詳細を、2人に尋ねてみる。
「ゴーグル男……? ああ、センマン殿のこと?
なんや、妙な呼び方するから、一瞬 誰のことかと思ったわ」
「……センマン殿?」
「本名は、鶴亀怜仙。〈A.E.G.I.S〉が誇る、天才科学者やで。
特殊構成員になるには、戦闘部門か技術部門、どっちかの選抜試験をクリアしないとアカンのやけど……それをストレートで合格した、唯一の逸材なんやで」
ポテチをパリパリと食べながら、そう解説する鳳紫さん。
そんな彼女に続いて、雨津星さんが口を開く。
「表立って戦場に出ることは少ないが、〈A.E.G.I.S〉が戦闘組織である以上、彼の支援や技術力は、なくてはならないものだ。
組織における重要性で言えば、主任の俺よりも、圧倒的に彼の方が上とさえ言えるな」
「……そうなんですか」
――鶴亀怜仙。
猫背で弱々しい風貌とはかけ離れた、やたら縁起の良さそうな、物珍しい名前。
どうやらそれが、双眼鏡男の正体らしい。
試験の内容は分からないので、それを一発合格したという事実に関しては、いまいちピンとは来ないが……。
それでも、雨津星さんや鳳紫さんが、真剣な面持ちで評価していることから、その頭脳や技術力は本物なのだろう。
……まあ、それはともかく。
「ところで、俺の〝ゴーグル男〟よりも、鳳紫さんの〝センマン殿〟の方が、よっぽど妙な呼び方だと思いますけど……」
「えっ、そう?
まあでも、『鶴は千年、亀は万年』って言うし? 縁起ええ感じするじゃん?」
「……それが由来なんですね」
「リュウさん」や「リンリン」とは、ネーミングの法則が変わっている気がするが……。
「でも、ああ見えてセンマン殿、元々はリュウさんと同じ、警察官やったらしいんやて。
確か、サイバー犯罪対策課、やったっけ?」
「メインは、だな。
実際には、その頃から博識多才な故に、八面六臂の活躍をしていた。
人付き合いが苦手で、気難しい性格ではあるが、その根の善良さは、元相棒の俺が保証するぞ!」
(※「八面六臂」→仏像などが、8つの顔と6本の腕を持っていることから、多方面で目覚ましい活躍をすること)
《《あの鶴亀》》が、元警察官だという事実。
それには驚かされたが、雨津星さんもまた警察官だったという事実には、どこか納得できる自分がいた。
あの鋭い洞察力や、《HERO》を前にしても動じない強靭な精神力は、警察時代に培われたものだった……ということか。
「あ、ちなみにウチは、元陸上自衛官!
スカウトされてから、選抜試験を受けて、それからも紆余曲折を経て、今現在に至るというわけやで~」
「……そうなんですね」
そうなると、もしかすると、あの鳴宮も、何かしらの特殊な経歴の持ち主なのかもしれない。
「ちなみに、彼が着けているゴーグルは、少々特殊なものでね。
機械化した両目と組み合わせることにより、対象を視認するだけで、スパコン並みの演算処理能力による識別を、可能にしているらしい!」
「よーやるよなぁ、目ぇにメス入れるなんて。おぉ怖っ! ウチなら絶対ムリやわぁ~。
やっぱウチみたいに、機械化するんなら胃やろ、胃! 鉄の胃袋って言葉があるくらいやしな~」
「……そういうノリで機械化するもんなんですか?」
雨津星さんの両腕、鳳紫さんの胃 (?)、鶴亀の両目――。
そうなると、鳴宮も、肉体のどこかを機械化しているのだろうか。
思い当たる節はある。
鳴宮はあの時、投げ飛ばした俺を瞬時に追いかけ、そして俺が反撃するよりも先に、間合いに入ってみせた。
あそこまでの俊敏さは、ただ跳躍力を鍛えるだけで繰り出せるものじゃない。
おそらく、鳴宮が機械化しているのは――両足。
そう仮定すると、前述の俊敏さだけでなく、蹴り技主体の奴の戦闘スタイルの説明にもなる。
……まあ、だから何だと言えば、それまでなんだけどな。
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(鶴亀 怜仙)
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<次回予告>
≪突然、喧ましいアラーム音が、治療室に鳴り響く。≫
『緊急速報……。
〈アフターエリア〉から、夥しい数の《ネスト》が、お引っ越ししてきたよ……』
「……《TYPE:D》?」
次回――Episode 47 :【翼竜、襲来】




