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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第四章 | 【Forth Story of the Babies:《我等、人類を守る盾となり》】

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Episode 43 :【今はまだ眠る、応龍の希望】

 ――ピロリロリ。ピロリロリ。


 龍雅《りゅうが》が持つ《AS(アーマードシステム)・GP(ガラパゴスフォン)》から、軽快な着信音が鳴る。


 《特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)》の管理機能も備えた、二つ折り式の多機能端末機。


 艶やかでメタリックな輝きを放つそれは、細かい擦り傷で汚れている。


 それは、龍雅が積み上げてきた戦場での日々を、確かに連想させるものであった。


 その端末を開く前から、龍雅は、発信相手が朱音《あかね》だということを察していた。


 そしてその要件も、彼女の声色や口調まで浮かんでくるほどに、想像ができている。


「朱音君! 夏神《なつみ》君の容体は?」

『あっ、リュウさん!

 幸い、命に別状はないらしいで!

 もう治療も済んだみたいで、安静にしてれば、夜には目ぇ覚ますって』


 焦りと不安が入り混じりながら問うた龍雅の声に、朱音は相変わらずの、明るい関西訛りの言葉で答える。


「…………そう、なのか」


 龍雅の表情には、安堵が浮かぶ。


 胸の奥に積もっていた黒い塊のような感情が、少しずつ溶けていくような感覚。


 しかし、どうやら龍雅は、完全に腑《ふ》に落ちたわけではなさそうだ。


(……あれほどまでに叩きのめされていたというのに……そんな短時間で、そこまで回復するものなのか)


 龍雅の脳裏には、夏神が徹底的に凛太郎《りんたろう》に叩きのめされ、血まみれで地に伏していたあの光景が、強く焼き付いている。


 それ故《ゆえ》に龍雅は、夏神が回復したという事実を、心から喜んでいると同時に、信じがたい思いも抱えていた。


 彼からすれば、最新医療の力を以《も》ってしても、もはや奇跡的というか、現実味のない話とさえいえるものだったからだ。


『――それにしてもな、リュウさん! ウチ、ビックリしたで! 

 治療を受けさせるに当たって、ナッチャンの服を預かったんやけどな?

 これがもう、ごっつハイテクなものやったんや!』


「……? ごっつハイテクなもの?」


『繊維の隅々に、ナノマシンみたいな電磁《でんじ》結界《けっかい》発生《はっせい》装置《そうち》が組み込まれててな? 

 要は、常時バリアー服ってやつやで、これ!』


「ああ、確かに凛太郎君が、そんなことを言っていたな」


 龍雅は顎《あご》に手を添えながら、思い返す。


 凛太郎が、ボソッと呟くように口にしていた、電磁結界発生装置の存在。


 それを今、朱音の言葉で改めて、認識したのだ。


『別に疑ってたわけやないけど、実物を見たら、ビックリ栗ご飯やで!

 あのレーザーガンといい、もしかしてナッチャンって、結構メカに強い子なんちゃう?』


 朱音の推察通り、夏神の衣服には、衝撃を緩和する電磁結界発生装置――平たく言えば、バリアー機能が組み込まれている。


 一つ一つはナノマシンのように超小型でありながら、全ての装置を稼働させれば、従来の結界装置と変わらぬ効果を発揮する。


 繊維に組み込まれたその装置は、常に作動しており、夏神の肉体を守っている。


 だが、そんな改造を施したのは、夏神本人ではない。


 《HERO(ヒーロー)》と同様、夏神の恩師である斎賀《さいが》天寿郎《てんじゅろう》からの、贈り物である。


 その恩恵によって、夏神は《特殊兵装》を装備した凛太郎の攻撃を受けても、致命傷を免れたのだ。


「そうなのか。なら綺麗に縫合《ほうごう》してやらないとな。

 ……いや、そんな高性能な服、下手に触らない方がいいだろうか?」


『〝センマン殿〟なら、その辺も上手くやってくれるんちゃうか? 

 ウチみたいな女子力皆無の人間より、ずっと適任やで』


「確かに、彼に任せておけば安心だな」


 張り詰めていた糸が緩むように、龍雅の口元に笑みが浮かぶ。


「それなら俺は、パトロールがてら、手土産にイチゴ大福でも買ってくるとしよう!

 朱音君、留守番を頼んだぞ!」


『それはええけど……あれぐらいの男の子って、イチゴ大福貰(もろ)うても、喜ぶんかしら?』


「俺は貰ったら嬉しいぞ?」


『……そりゃリュウさん、あんたの好物やもん』


 端末越しに響く、朱音の呆れ声。


 そんな風に冗談を交わしつつ、互いに小さく笑い合った後、通話は静かに終了した。


 室内に再び訪れる、静寂。


 龍雅の胸の内には、確かな温もりが宿り、その表情は、心からの自然な笑みが戻っていた。


 ――『愛する両親が犠牲となった世界を、受け入れたくない。だから、自分がこの世界を変えてみせる』。


 悲惨な現実や過酷な運命にも屈せず、愚直と呼べるほど真っ直ぐに、向かうべき道をただひたすらに突き進む。


 そんな夏神の姿や、彼が掲げる理想は、龍雅にとって、希望の象徴そのものだった。


 だからこそ、夏神が無事だと知った時、龍雅は――自分自身でも驚くほど、幸せだと思えた。


 ――「今日は俺にとって、素晴らしい日になりそうだ」。


 自分で言っておきながら、大袈裟な表現だなと思う言葉。


 しかし、今の心情を表す言葉として、これ以上相応(ふさわ)しいものはない。


 それはまるで、呟いた言葉が、現実になったかのように――。


(……もう30代も後半だというのに、こんなことを考えているようでは……また「キザな台詞だ」と、夏神君に呆れられてしまうな)


 苦笑を浮かべながら、龍雅は《AS・GP》をポケットにしまい、最高司令官室を後にする。


 扉が静かに閉じる音が響き、残された部屋は再び、無音に沈んだ――。


 ----------

<次回予告>


≪――見覚えがない天井。薬品の匂い。鳴り止まぬ機械音。柔らかなベッドの感触。≫


「……目覚めた途端に、失礼な子だね……。君を治療してあげたのは、僕なのにさ……」


「まあ、早いうちに意識が戻って、よかったよ……。

君には、訊《き》きたいことがあったしね……」


次回――Episode 44 :【機械仕掛けの双眸《そうぼう》に映るもの】

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