Episode 44 :【機械仕掛けの双眸に映るもの】
――見覚えがない天井。薬品の匂い。鳴り止まぬ機械音。柔らかなベッドの感触。
すべてが、俺の五感を刺激する。
どうやら、ここは病室のようだ。
おそらく誰かが、ここへ運び込んでくれたのだろう。
あれからいったい、どれくらいの時間が流れたのだろうか。
俺が最後に放ったレーザーは、鳴宮に命中したのだろうか……。
そんな風に思考を巡らせながら、辺りを見回すと――。
「…………」
「うおっ!?」
額にサイバーチックなゴーグルを装着した白衣の男が、俺の顔を超至近距離で覗き込んできた。
その眼鏡越しの翡翠色の瞳に、思わず反射的に仰け反ってしまう。
すると、驚きの原因である眼前の男は、不服そうに口を歪ませた。
「……目覚めた途端に、失礼な子だね……。君を治療してあげたのは、僕なのにさ……。
まあ正確に言えば、僕が改良した医療型フレンドが、だけど……」
おそらくだが、このゴーグル男も、特殊構成員の一人なのだろう。
雨津星さんや鳳紫さんが身に着けていたバッジ (おそらくは、組織のエンブレム)を、この男も白衣の胸ポケットに着けているからだ。
「……他の人達は? あれから、俺はいったい……?」
「この集中治療室は、特殊構成員しか、使用を許可されていない……。
それだけ言えば、流石に分かるでしょ……」
ため息交じりにそう語る、ゴーグル男。
肩が凝っているのか、その痩せ細った色白の手で、常に気怠く首筋を撫でている。
その言葉通りなら――俺は正式に、特殊構成員に認められた……ということか。
自分が関与しない間に事が進むというのは、なんとも言えない不思議な感覚だ。
だが、今は努力が功を奏したことを素直に喜び、先の未来を見据えるとしよう。
「まあ、早いうちに意識が戻って、よかったよ……。
君には、訊きたいことがあったしね……」
「……!? おい、それは……!」
ゴーグル男が気怠い動作で、〝何か〟を握り締めた右手を、ゆっくりと上げる。
その何かを見て、俺は驚きを隠せなかった。
なぜなら、奴が持っているのは――俺の相棒、《HERO》だったからだ。
《HERO》のグリップには、掌紋認証機能が搭載されているので、万が一敵に奪われたとしても、大丈夫ではあるが……。
しかしそれでも、初対面の男が勝手に握っているというのは、あまり心地のいいものではない。
「これ、拳銃サイズにまで小型化されているけど、《電磁光砲照射装置》だよね……?
なんだって君が、こんなものを持っているのか、どうしても気になってね……」
「それは……俺の恩師が、俺のために作ってくれたからだ」
斎賀先生の名前を出さなかったのは、余計な詮索を避けたかったからだ。
たとえそれが、味方になり得る相手だとしても、先生に疑いの目を向けさせたくはない。
……だが、そんな思いは、通じなかったらしい。
ゴーグル男は、大きく胸を張って伸びをし、肩甲骨をボキボキと鳴らし、言葉を続ける。
「《電磁光砲照射装置》っていうのはね、元々は反社会的武装組織の制圧や、軍需品のコスト削減、世界各地で稼働する〝フレンド〟が暴走した際の鎮圧などに、使用されていた兵器なんだよ。
かつての《特殊兵装》と同様にね」
その口調からは、気怠さこそ変わらないものの、真剣さと威圧が滲んでいる。
「……それが、どうしたっていうんだ」
「話は最後まで聞きなよ……。
それを、拳銃サイズにまで小型化させ、君みたいな子供にも使えるように改良した――そんな離れ業をやってのけた、君の恩師とやらに、物凄い興味があるね……色々な意味で、ね……」
まるで腹の底を探るような、陰のある視線。
男は言葉を言い終えると、おもむろに《二つ折り式携帯電話》を取り出した。
「例の新入り君、目を覚ましたよ……。
僕はもう寝るから、あとはよろしく……」
それだけ言って電話を終えると、俺に一言もなく、欠伸をしながら出口へ歩き始める――。
……かと思えば、「あ、言い忘れていた……」と、突然に俺の方を振り返った。
なんというか、何を考えているか分からない上に、行動が読めない男だ。
「君の〝Future-Phone〟に、僕の連絡先を入れといてあげたから……。
僕の昼寝を邪魔しない範疇なら、治療を受け持ってあげてもいいけど……。
まあ、僕からの就職祝いってことで、大事にしておきなよ……。それじゃあね」
こうして、ようやく名も知れぬゴーグル男は、病室を去っていった。
……大事な内容を、言い忘れすぎじゃないか?
というか、勝手に人の携帯電話に、連絡先を追加しないでくれ……。
しかし、今の俺の脳内は、そんなゴーグル男のことよりも、ある疑念で満たされていた。
――「あの時に感じた、斎賀先生への恐怖心や猜疑心。あれは、あながち間違っていなかったんじゃないか?」
詳しい事は分からないが、《特殊兵装》が選ばれし者しか使えない代物であることは、まず間違いない。
俺はそれを、鳴宮との戦闘で、《《文字通り身に染みて》》、理解している。
その《特殊兵装》と同等の扱いを受けていた、《HERO》の原型である、《電磁光砲照射装置》――。
斎賀先生は、どうやってそのメカニズムを理解して、拳銃サイズに落とし込むことができたのだろう。
それは、緻密に設計された資料でもなければ、不可能なはず――。
……いいや、今は考えすぎるな。
今の俺がこうして生きていられるのは、全て斎賀先生のおかげじゃないか。
斎賀先生が何者であろうと、関係ない。
もうこれ以上、恩義ある人を疑うのはよそう。
「――よし」
そう自分に叩き込むように、俺は両頬をパチンと叩いて、意識を切り替えた。
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<次回予告>
「――おいっす、ナッチャン! 調子はどないな感じ?」
「歓迎の気持ちも込めて、土産を持ってきたぞ!」
≪……おそらく今の俺は、もの凄く申し訳なさそうな顔をしていると思う。≫
次回――Episode 45 :【見舞い品との激しい攻防戦(?)】




