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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第四章 | 【Forth Story of the Babies:《我等、人類を守る盾となり》】

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Episode 44 :【機械仕掛けの双眸に映るもの】

 ――見覚えがない天井。薬品の匂い。鳴り止まぬ機械音。柔らかなベッドの感触。


 すべてが、俺の五感を刺激する。


 どうやら、ここは病室のようだ。


 おそらく誰かが、ここへ運び込んでくれたのだろう。


 あれからいったい、どれくらいの時間が流れたのだろうか。


 俺が最後に放ったレーザーは、鳴宮に命中したのだろうか……。


 そんな風に思考を巡らせながら、辺りを見回すと――。


「…………」


「うおっ!?」


 額にサイバーチックなゴーグルを装着した白衣の男が、俺の顔を超至近距離で覗き込んできた。


 その眼鏡越しの翡翠色《ひすいいろ》の瞳に、思わず反射的に仰《の》け反《ぞ》ってしまう。


 すると、驚きの原因である眼前の男は、不服そうに口を歪ませた。


「……目覚めた途端に、失礼な子だね……。君を治療してあげたのは、僕なのにさ……。

 まあ正確に言えば、僕が改良した医療型フレンドが、だけど……」


 おそらくだが、このゴーグル男も、特殊構成員の一人なのだろう。


 雨津星さんや鳳紫さんが身に着けていたバッジ (おそらくは、組織のエンブレム)を、この男も白衣の胸ポケットに着けているからだ。


「……他の人達は? あれから、俺はいったい……?」


「この集中治療室は、特殊構成員しか、使用を許可されていない……。

 それだけ言えば、流石に分かるでしょ……」


 ため息交じりにそう語る、ゴーグル男。


 肩が凝《こ》っているのか、その痩《や》せ細《ほそ》った色白の手で、常に気怠《けだる》く首筋を撫《な》でている。


 その言葉通りなら――俺は正式に、特殊構成員に認められた……ということか。


 自分が関与しない間に事が進むというのは、なんとも言えない不思議な感覚だ。


 だが、今は努力が功《こう》を奏《そう》したことを素直に喜び、先の未来を見据えるとしよう。


「まあ、早いうちに意識が戻って、よかったよ……。

 君には、訊《き》きたいことがあったしね……」


「……!? おい、それは……!」


 ゴーグル男が気怠い動作で、〝何か〟を握り締めた右手を、ゆっくりと上げる。


 その何かを見て、俺は驚きを隠せなかった。


 なぜなら、奴が持っているのは――俺の相棒、《HERO(ヒーロー)》だったからだ。


 《HERO》のグリップには、掌紋《しょうもん》認証《にんしょう》機能《きのう》が搭載《とうさい》されているので、万が一敵に奪われたとしても、大丈夫ではあるが……。


 しかしそれでも、初対面の男が勝手に握っているというのは、あまり心地のいいものではない。


「これ、拳銃サイズにまで小型化されているけど、《電磁光砲(でんじこうほう)照射(しょうしゃ)装置(そうち)》だよね……? 

 なんだって君が、こんなものを持っているのか、どうしても気になってね……」


「それは……俺の恩師が、俺のために作ってくれたからだ」


 斎賀《さいが》先生の名前を出さなかったのは、余計な詮索を避けたかったからだ。


 たとえそれが、味方になり得る相手だとしても、先生に疑いの目を向けさせたくはない。


 ……だが、そんな思いは、通じなかったらしい。


 ゴーグル男は、大きく胸を張って伸びをし、肩甲骨をボキボキと鳴らし、言葉を続ける。


「《電磁光砲照射装置》っていうのはね、元々は反社会的武装組織の制圧や、軍需品のコスト削減、世界各地で稼働する〝フレンド〟が暴走した際の鎮圧《ちんあつ》などに、使用されていた兵器なんだよ。

 かつての《特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)》と同様にね」


 その口調からは、気怠さこそ変わらないものの、真剣さと威圧が滲んでいる。


「……それが、どうしたっていうんだ」


「話は最後まで聞きなよ……。

 それを、拳銃サイズにまで小型化させ、君みたいな子供にも使えるように改良した――そんな離れ業をやってのけた、君の恩師とやらに、物凄い興味があるね……色々な意味で、ね……」


 まるで腹の底を探るような、陰のある視線。


 男は言葉を言い終えると、おもむろに《二つ折り式携帯電話》を取り出した。


「例の新入り君、目を覚ましたよ……。

 僕はもう寝るから、あとはよろしく……」


 それだけ言って電話を終えると、俺に一言もなく、欠伸をしながら出口へ歩き始める――。


 ……かと思えば、「あ、言い忘れていた……」と、突然に俺の方を振り返った。


 なんというか、何を考えているか分からない上に、行動が読めない男だ。


「君の〝Future-Phone〟に、僕の連絡先を入れといてあげたから……。

 僕の昼寝を邪魔しない範疇《はんちゅう》なら、治療を受け持ってあげてもいいけど……。

 まあ、僕からの就職祝いってことで、大事にしておきなよ……。それじゃあね」


 こうして、ようやく名も知れぬゴーグル男は、病室を去っていった。


 ……大事な内容を、言い忘れすぎじゃないか? 


 というか、勝手に人の携帯電話に、連絡先を追加しないでくれ……。


 しかし、今の俺の脳内は、そんなゴーグル男のことよりも、ある疑念で満たされていた。


 ――「あの時に感じた、斎賀先生への恐怖心や猜疑心《さいぎしん》。あれは、あながち間違っていなかったんじゃないか?」


 詳しい事は分からないが、《特殊兵装》が選ばれし者しか使えない代物であることは、まず間違いない。


 俺はそれを、鳴宮《なるみや》との戦闘で、《《文字通り身に染みて》》、理解している。


 その《特殊兵装》と同等の扱いを受けていた、《HERO》の原型である、《電磁光砲照射装置》――。


 斎賀先生は、どうやってそのメカニズムを理解して、拳銃サイズに落とし込むことができたのだろう。


 それは、緻密《ちみつ》に設計された資料でもなければ、不可能なはず――。


 ……いいや、今は考えすぎるな。


 今の俺がこうして生きていられるのは、全て斎賀先生のおかげじゃないか。


 斎賀先生が何者であろうと、関係ない。


 もうこれ以上、恩義ある人を疑うのはよそう。


「――よし」


 そう自分に叩き込むように、俺は両頬《りょうほお》をパチンと叩いて、意識を切り替えた。


-----------

<次回予告>


「――おいっす、ナッチャン! 調子はどないな感じ?」


「歓迎の気持ちも込めて、土産を持ってきたぞ!」


≪……おそらく今の俺は、もの凄く申し訳なさそうな顔をしていると思う。≫


次回――Episode 45 :【見舞い品との激しい攻防戦(?)】

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