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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第四章 | 【Forth Story of the Babies:《我等、人類を守る盾となり》】

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Episode 42 :【貴女様こそ、〝崇高〟で〝偉大〟な大天使様】

「ご覧ください、彼の動きを。

 俊敏《しゅんびん》で無駄のない身のこなし、正確で鋭い判断……どれをとっても、即戦力になり得る原石だ。

 しかも彼は、補助スーツなしで、ここまでの動きを繰り出せているのです。

 それに、彼の持つ光線銃《レーザーガン》も、強力なもので――」


『はいはい、それは凄いわね。

 じゃあ、その餓鬼《ガキ》のヒーローごっこには、《特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)》なんて必要ないじゃない。

 というわけで、これでこの話は終わりねン』


 ガブリエルは、まるで会話を終える合図のように、龍雅《りゅうが》の言葉を勝手に切り捨てる。


 その高慢な態度が、ついに、龍雅の堪忍袋を切り裂いた。


「……だから俺は、そんな彼の力を、より引き出すためにと……!」


『ハア? 何よ、その言い方。アテクシの決定に、ケチ付ける気?』


 怒りを堪えきれず漏《も》れた声を、恐ろしいほど冷ややかな言葉が遮る。


「……失礼しました。しかし、私は――」


『まさかとは思うけれど、《特殊兵装》云々ってのは、命令のつもりかしら?

 従順さだけが取り柄のアナタが、アテクシに物申そうと言うの?』


 龍雅は、笑顔を崩さず、穏やかな口調で応じる。


 だが、その内側に渦巻く激情――怒りや憎しみは、隠しようもなかった。


 事実、ガブリエルは、その繊細な変化を見逃さない。


 語気の強さ、笑顔の裏にある刃――それを、鋭く察知している。


『〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉を守る電磁《でんじ》結界《けっかい》、《E(イー)・A(エー)・E(イー)》の活性化を抑制する〝機械化手術〟、《特殊兵装》……。

 それら全てが、いったい誰のおかげで、生み出されたものだと思っているの?』


「……ガブリエル、様です」


 龍雅は俯き、絞り出すような声で、そう答える。


『そう。アテクシは名実ともに、この〈御門大江戸〉を統べる、絶対王者よ。

 そして、アテクシのこの指は、魔法の指。一度《ひとたび》鳴らせば、アナタをクビにするどころか、ライフラインや社会インフラを、壊滅させることだってできる。 

 もしそうなってしまったら、アナタはどうするの?

 「自分の我《わ》が儘《まま》で、皆様から安全な生活を奪《うば》ってしまいました」って、弁明するつもり? 

 ハッ、そうなればアナタは、歴史に残る大罪人決定ねン!』


 ガブリエルの、嘲笑交じりの罵倒。


 その嘲りが、龍雅が必死に抑え込んでいる激情を、より燃え上がらせる。


「ッ……! どの口が――」


『「これ以上、〈A.E.G.I.S(イージス)〉に《特殊兵装》は、必要ない。

 それは、創設当初からの方針であり、未来永劫、変更するつもりは一切ない」。

 これが、アテクシからの、最後《さいご》通牒《つうちょう》よ』


 冷酷無比に響く、ガブリエルの言葉。


 それはもはや、言葉以上の意味を持っているものだった。


 まさしく最後通牒の言葉通り、ガブリエルはこの言葉で――龍雅を、殺すつもりなのだ。


『反論したければ、どうぞご自由に? 

 だけど、次に口を開いた瞬間、華麗な指パッチンが響き渡るわよン?』


「っ…………!!」


 生命の自由と、尊重。それを人質に取った、卑劣極まりない脅迫。


『己の全てを犠牲にしてでも、人々の自由と平和を守る』。


 それこそが本懐であり、使命である――そんな龍雅にとって、これ以上効果的な脅し文句はないだろう。


 そして、ガブリエルもまた、それを理解している。


 だからこそ、この最後通牒が、絶大な効力を発揮する。


 傲慢で身勝手。しかし、その実力も才覚も本物。


 それこそが、〈MESSIAH(メサイア)〉の最高幹部〝大天使〟の一人、ガブリエル・シンドウという存在なのだ。


「……了解しました。この話は、一特殊構成員の戯言として、聞き流してください。

 貴女様《あなたさま》の貴重なお時間を無駄にさせてしまい、本当に申し訳ございません。

 私、雨津星龍雅は、どのような処分でも受ける所存です」


 龍雅にとって、ガブリエルは、敬うべき存在などではない。


 むしろ――怒りと憎しみ、何より失望の象徴だ。


 しかし龍雅は、今この瞬間だけは、服従の道を選ぶ。


 それこそが、人類の平和を保ち続ける、唯一の道だと信じているから。


 だから龍雅は、不自然なほどの笑顔を浮かべ、自分を納得させる。


 ……ガブリエルは、最前線に立ったことはこれまでに一度もなく、全ての業務を、特殊構成員達に押し付けている。


 龍雅達が命を懸ける中、クラシックに浸り、ワインを傾ける――〈A.E.G.I.S〉の最高司令官とは、その程度の存在なのだ。


 それでも、ガブリエルの言葉は、その全てが絶対の決定として下される。


 だから、龍雅が不用意な発言をしてしまえば、主任の座を追われ、《特殊兵装》の使用も禁じられかねない。


 そうなってしまえば、先に戦場で散っていった仲間達にも、救えるはずだった多くの命にも、報いることができなくなってしまう。


 だからこそ龍雅は、心を押し殺して、耐える。


 現状維持――それは、不本意で、情けない言葉かもしれない。


 しかし、今の彼にとっては、それこそが最優先すべき〝任務〟なのだ。


『フンッ! アナタ最近、思い上がりが過ぎるんじゃないかしらン? 

 主任なんてショボすぎる肩書、アテクシからすれば、さながら汚物に集《たか》る羽虫! 

 そんなもので自尊感情(プライド)を満たそうとするなんて……本当にアナタは、幻滅するほどに器が小さい男! 

 そんなアナタに、このガブリエル様が、誠実に対応してあげた恩義! しみじみと噛み締めるように、その胸にしまい込みなさいよねン!』


「……はい。ありがとうございます、ガブリエル様」


『フンッ、まったく……報告は以上かしらン?

 それなら、あとはアナタ達で勝手にやりなさい。では、失礼』


 やっと解放されたと言わんばかりの声色でそう言い放つと、ガブリエルは一方的に通話を切ってしまう。


 その瞬間、龍雅の笑顔が、ふっと消える。


「……本当に、どこまでも、自分勝手な御仁だ」


 そう呟く声と、俯く表情には、乾いた怒りと、諦念の感情が滲《にじ》んでいた。


----------

<次回予告>


≪龍雅が持つ《AS(アーマードシステム)・GP(ガラパゴスフォン)》から、軽快な着信音が鳴る。≫


「朱音《あかね》君! 夏神君の容体は?」


『――それにしてもな、リュウさん! ウチ、ビックリしたで!』


次回――Episode 43 :【今はまだ眠る、応龍(おうりゅう)の希望】

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