Episode 42 :【貴女様こそ、〝崇高〟で〝偉大〟な大天使様】
「ご覧ください、彼の動きを。
俊敏で無駄のない身のこなし、正確で鋭い判断……どれをとっても、即戦力になり得る原石だ。
しかも彼は、補助スーツなしで、ここまでの動きを繰り出せているのです。
それに、彼の持つ光線銃も、強力なもので――」
『はいはい、それは凄いわね。
じゃあ、その餓鬼のヒーローごっこには、《特殊兵装》なんて必要ないじゃない。
というわけで、これでこの話は終わりねン』
ガブリエルは、まるで会話を終える合図のように、龍雅の言葉を勝手に切り捨てる。
その高慢な態度が、ついに、龍雅の堪忍袋を切り裂いた。
「……だから俺は、そんな彼の力を、より引き出すためにと……!」
『ハア? 何よ、その言い方。アテクシの決定に、ケチ付ける気?』
怒りを堪えきれず漏れた声を、恐ろしいほど冷ややかな言葉が遮る。
「……失礼しました。しかし、私は――」
『まさかとは思うけれど、《特殊兵装》云々ってのは、命令のつもりかしら?
従順さだけが取り柄のアナタが、アテクシに物申そうと言うの?』
龍雅は、笑顔を崩さず、穏やかな口調で応じる。
だが、その内側に渦巻く激情――怒りや憎しみは、隠しようもなかった。
事実、ガブリエルは、その繊細な変化を見逃さない。
語気の強さ、笑顔の裏にある刃――それを、鋭く察知している。
『〈御門大江戸〉を守る電磁結界、《E・A・E》の活性化を抑制する〝機械化手術〟、《特殊兵装》……。
それら全てが、いったい誰のおかげで、生み出されたものだと思っているの?』
「……ガブリエル、様です」
龍雅は俯き、絞り出すような声で、そう答える。
『そう。アテクシは名実ともに、この〈御門大江戸〉を統べる、絶対王者よ。
そして、アテクシのこの指は、魔法の指。一度鳴らせば、アナタをクビにするどころか、ライフラインや社会インフラを、壊滅させることだってできる。
もしそうなってしまったら、アナタはどうするの?
「自分の我が儘で、皆様から安全な生活を奪ってしまいました」って、弁明するつもり?
ハッ、そうなればアナタは、歴史に残る大罪人決定ねン!』
ガブリエルの、嘲笑交じりの罵倒。
その嘲りが、龍雅が必死に抑え込んでいる激情を、より燃え上がらせる。
「ッ……! どの口が――」
『「これ以上、〈A.E.G.I.S〉に《特殊兵装》は、必要ない。
それは、創設当初からの方針であり、未来永劫、変更するつもりは一切ない」。
これが、アテクシからの、最後通牒よ』
冷酷無比に響く、ガブリエルの言葉。
それはもはや、言葉以上の意味を持っているものだった。
まさしく最後通牒の言葉通り、ガブリエルはこの言葉で――龍雅を、殺すつもりなのだ。
『反論したければ、どうぞご自由に?
だけど、次に口を開いた瞬間、華麗な指パッチンが響き渡るわよン?』
「っ…………!!」
生命の自由と、尊重。それを人質に取った、卑劣極まりない脅迫。
『己の全てを犠牲にしてでも、人々の自由と平和を守る』。
それこそが本懐であり、使命である――そんな龍雅にとって、これ以上効果的な脅し文句はないだろう。
そして、ガブリエルもまた、それを理解している。
だからこそ、この最後通牒が、絶大な効力を発揮する。
傲慢で身勝手。しかし、その実力も才覚も本物。
それこそが、〈MESSIAH〉の最高幹部〝大天使〟の一人、ガブリエル・シンドウという存在なのだ。
「……了解しました。この話は、一特殊構成員の戯言として、聞き流してください。
貴女様の貴重なお時間を無駄にさせてしまい、本当に申し訳ございません。
私、雨津星龍雅は、どのような処分でも受ける所存です」
龍雅にとって、ガブリエルは、敬うべき存在などではない。
むしろ――怒りと憎しみ、何より失望の象徴だ。
しかし龍雅は、今この瞬間だけは、服従の道を選ぶ。
それこそが、人類の平和を保ち続ける、唯一の道だと信じているから。
だから龍雅は、不自然なほどの笑顔を浮かべ、自分を納得させる。
……ガブリエルは、最前線に立ったことはこれまでに一度もなく、全ての業務を、特殊構成員達に押し付けている。
龍雅達が命を懸ける中、クラシックに浸り、ワインを傾ける――〈A.E.G.I.S〉の最高司令官とは、その程度の存在なのだ。
それでも、ガブリエルの言葉は、その全てが絶対の決定として下される。
だから、龍雅が不用意な発言をしてしまえば、主任の座を追われ、《特殊兵装》の使用も禁じられかねない。
そうなってしまえば、先に戦場で散っていった仲間達にも、救えるはずだった多くの命にも、報いることができなくなってしまう。
だからこそ龍雅は、心を押し殺して、耐える。
現状維持――それは、不本意で、情けない言葉かもしれない。
しかし、今の彼にとっては、それこそが最優先すべき〝任務〟なのだ。
『フンッ! アナタ最近、思い上がりが過ぎるんじゃないかしらン?
主任なんてショボすぎる肩書、アテクシからすれば、さながら汚物に集る羽虫!
そんなもので自尊感情を満たそうとするなんて……本当にアナタは、幻滅するほどに器が小さい男!
そんなアナタに、このガブリエル様が、誠実に対応してあげた恩義! しみじみと噛み締めるように、その胸にしまい込みなさいよねン!』
「……はい。ありがとうございます、ガブリエル様」
『フンッ、まったく……報告は以上かしらン?
それなら、あとはアナタ達で勝手にやりなさい。では、失礼』
やっと解放されたと言わんばかりの声色でそう言い放つと、ガブリエルは一方的に通話を切ってしまう。
その瞬間、龍雅の笑顔が、ふっと消える。
「……本当に、どこまでも、自分勝手な御仁だ」
そう呟く声と、俯く表情には、乾いた怒りと、諦念の感情が滲んでいた。
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<次回予告>
≪龍雅が持つ《AS・GP》から、軽快な着信音が鳴る。≫
「朱音君! 夏神君の容体は?」
『――それにしてもな、リュウさん! ウチ、ビックリしたで!』
次回――Episode 43 :【今はまだ眠る、応龍の希望】




