Episode 41 :【それは、救世主か、はたまた悪魔か】
――〈A.E.G.I.S〉の特殊構成員達が扱う、強化スーツ型の戦闘兵器・《特殊兵装》。
正式名称――《対異能生命体特化型・特殊環境適応兵装》。
最新科学の結晶体であるその鋼鉄の鎧は、普段は特定の場所に厳重に収納されている。
〈A.E.G.I.S〉の場合は、本部地下の〝戦闘兵器格納施設〟で管理されている。
だが、《AS・GP》というデバイスを用いることで、瞬時に使用者の周囲に転送。
そして自動的に装着され、その使用を可能とする仕組みになっている。
その姿は、神話上の生物を意匠に取り入れたもので、異形そのもの。見る者を圧倒し、畏怖さえも抱かせるものだ。
そんな《特殊兵装》は、世界各国においても、ほんの一握りの、選ばれた人間しか使用を許可されていない。
なぜなら、《特殊兵装》は、この世界を救う救世主となるか、あるいは破滅を呼ぶ悪魔となるか――。
扱いを間違うだけで、この世界の未来を大きく傾けてしまう、そんな危険性を孕んだ、諸刃の剣だからだ。
元々 《特殊兵装》は、反社会的武装組織の制圧や、軍需品のコスト削減、世界各地で稼働する〝人類貢献用機械人形〟(通称〝フレンド〟)が暴走した際の鎮圧などに使用されていた。
悪意ある組織のハッキングにより、システムが暴走したフレンド達が、一夜にして街を炎に包み、多くの死体と焼け跡を残した……そんな事件が、過去にあった。
しかし、鎮圧に投入された《特殊兵装》は、たったの一機。
その一機だけで、何十体というフレンドを、しかも戦闘に特化した型を、瞬く間に鎮圧してしまった……という記録がある。
この事実は、確かに人々を危機から救った英雄譚として――《《だけではなく》》、《特殊兵装》の存在の恐ろしさを如実に表したエピソードとして、深く焼き付くことになった。
――《特殊兵装》の誕生には、〝人類存亡最終防衛機構〟〈MESSIAH〉の存在が、密接に関係している。
〈MESSIAH〉は、〝発火能力〟や〝念動力〟などの、いわゆる超能力と定義される未知の力を、10年以上にも わたる研究を重ね、ついに科学技術で再現することを可能にした。
既存の電力を消費するだけで、兵器として運用できる程のパワーを持つ超能力を、出力できるのだ。
しかし、その原理やメカニズムを知る者は、ごく数人。
開発プロジェクトの最高責任者によって、徹底的に秘匿されているため、ブラックボックスの中身は、今も闇のままだ。
加えて、《特殊兵装》は、誰にでも装着できるわけではない。
装着時に発生する全身への負荷は、常人ならば即座に気絶するほどに、強烈なもの。
訓練された兵士ですら、3分と持たず、膝を折るほどだ。
さらに各《特殊兵装》は、認定された使用者の遺伝子情報を読み取り、最適な出力を算出する、〝個別最適化システム〟を搭載している。
そのため、製造技術を持つ者も、適合できる人間も、極めて限られている。
結果として、現存する《特殊兵装》は、特殊構成員達が扱うものを含め、機にも満たない。量産など、夢のまた夢だ。
――しかし、それでも、「《《魔法という名の科学兵器》》が誕生した」、と言っても過言ではない《特殊兵装》の持つパワーは、凄まじいものである。
今現在では、更なるアップグレードを重ねたことによって、《ヒューマネスト》という人智を超越した怪物にも匹敵するにまで、飛躍的にスペックが向上した。
まさしく、人類の希望の象徴と呼べる兵器、《特殊兵装》。
その強大すぎる力の矛先は、今は《ヒューマネスト》にだけ向けられている。
だが、もしもそれを悪用する者が、現れてしまったら――人類の行く末は、さらに過酷で凄惨な地獄へと、容易く転げ落ちる。
ガブリエルは、そんな破滅の未来が来ることを、恐れている。
だからこそ、不必要に《特殊兵装》を使用する者が現れぬよう、今まで幾度となくあった龍雅の申し出を、徹底的に却下しているのだ。
そのせいで、過去に何人もの特殊構成員が殉職してしまったことや、救えるはずだった人々が犠牲になってしまったことは……もはや、自明の理と言うほかないだろう。
それでも――ガブリエルは、一切、躊躇わなかった。
「……ッ……ですが、ガブリエル様」
怒りか、動揺か。龍雅の震える声が、張り詰めた空気が満ちる空間に伝播する。
「夏神君が自ら記録した、彼の戦闘映像を見れば、私がなぜここまで彼にこだわるのか……その理由を、貴女様なら、理解してくださるはずです」
ガブリエルの反応を伺うこともせず、龍雅は言葉を重ねる。
その声色は穏やかなままだが、内に秘めた熱量は、隠し切れていなかった。
「彼が《特殊兵装》を装備すれば、まさに鬼に金棒です。即戦力になれます。
――ですが、それだけではありません」
龍雅は、一歩前へ出るような勢いで、言葉を続ける。
「優れた才を見抜き、その才を遺憾なく発揮できるよう、適材適所の環境を作る……それこそが、上に立つ者の責務だと、自分は考えています」
そして彼は、静かに視線を上げる。
湧き上がる感情を抑え、言葉を選びながら、最後に一呼吸置いて――。
「……この〈御門大江戸〉という理想郷を築き上げた貴女様なら、夏神君という優れた逸材を、快く歓迎するはずです。
もし、そうでなければ……貴女の掲げる理想とは、道理が合わない」
『……ハア?』
ガブリエルが、加工音声混じりに、小さく息を漏らす。
その声色には、呆れ、怒り、嘲り――その全てが入り混じっていた。
まるで嵐の前の静けさのような、不穏な空気。
しかし龍雅は、それに一切動じることなく、空中に手をかざし、静かにディスプレイを映し出す。
そこに映し出されているのは、巨大蜂の《ヒューマネスト》を華麗に撃破する、夏神の勇姿であった。
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<次回予告>
「ご覧ください、彼の動きを。
俊敏で無駄のない身のこなし、正確で鋭い判断……どれをとっても、即戦力になり得る原石だ」
『じゃあ、その餓鬼のヒーローごっこには、《特殊兵装》なんて必要ないじゃない』
『まさかとは思うけれど、《特殊兵装》云々ってのは、命令のつもりかしら?』
次回――Episode 42 :【貴女様こそ、〝崇高〟で〝偉大〟な大天使様】




