Episode 39 :【雷雨が去りて】
――〈A.E.G.I.S〉の、イメージトレーニングルーム。
立体映像実体化技術によって再現された嵐が吹き荒れる、実戦を想定した訓練所。
その空間を覆い尽くしてしまうような、一筋のレーザービームが照射された。
その標的は、《雷轟麒麟》を纏った男――鳴宮凛太郎だ。
だが凛太郎は、蹄で地を踏みつけて雷撃を発生させ、同時に両腕をクロスさせて、防御の姿勢を取る。
そうすることで、咄嗟にレーザーの威力を軽減させ、受けるダメージを最小限にしたのだ。
しかし、それでもノーダメージとはいかず、両の籠手はひどく損傷し、熱波と煙が噴き出していた。
「……まさか、こんな必殺技を隠し持っていたとはな……。食えない少年だ」
二つ折り式携帯電話――《AS・GP》をバックルから取り出し、ガラスケースに挿入されたカードキーを引き抜くことで、《特殊兵装》の装着を解除。
そんな凛太郎が、意識を失って倒れている夏神に、称賛の言葉を贈る。
それは、軽蔑や皮肉でもない、率直な評価だった。
そのまま凛太郎は、使い古されたライターを取り出し、蓋をキンッと開ける。
すると、先程まで吹き荒れていた嵐が、嘘のように、ピタリと止んだ。
――ガチャッ……。
その直後、凛太郎の後頭部に、重たく冷たい鋼鉄の感触が伝う。
銃身に炎の意匠をあしらった《特殊なライフル銃》が、押しあてられていたのだ。
それを構えていたのは、鳳紫朱音だった。
「……おいたが過ぎるで、リンリン。
なんの罪もないナッチャンを、こない一方的に……」
「奴の服には、人一人を守るには過剰すぎるほどの、電磁結界発生装置が組み込まれていた。それぐらいの知恵は働くようだな。
しかし、手加減している俺を相手にして、気絶しているようでは……やはりまだ、力不足と言わざるを得ないな」
銃口を突き付けられているにも関わらず、凛太郎は煙草を1本取り出し、火を点ける。
「……装置が組み込まれていたからって……!
ウチが言いたいのは、そういうことちゃう!」
次の瞬間、凛太郎は銃口をその手で握り――わざと、自分の額に突き付ける。
そして、朱音が息を呑む中、冷静に言葉を続ける。
「そう思うのなら、もっと早くこうするべきだったな。
本当に俺が、この少年を殺そうとしていたとしたら――仲間に銃を向ける覚悟が、お前にはあったのか?」
その鋭い眼差しが、真っ直ぐ朱音を射抜く。
まるで、言葉以上に、朱音を糾弾しているかのようだった。
「その甘さが、お前の弱さだ。自分でもそう思わないか、鳳紫」
「……アンタのそういうとこ、ホンマ……大嫌いやわ」
朱音は苦々しい表情を浮かべ、どこか観念したかのように、ライフルの銃口を下げる。
そんな朱音に対して、凛太郎は何を感じるわけでもなく、平然と紫煙を吐く。
火花が散るような空気。
だがそれは、一触即発の緊張か、それともただの〝家族喧嘩〟か。
そんな両者の空気に、夏神の容態を確認していた雨津星龍雅が、声を上げた。
「二人とも、今は揉めている場合じゃない!
一刻も早く、夏神君を病院に――」
「その必要はないだろう。
ここには、そこらの病院より、高度な治療施設がある。……違うか?」
相変わらず無機質な声色の、凛太郎の言葉。
そんな何気ない言葉に、龍雅と朱音は、驚きを隠し切れなかった。
凛太郎の言葉通り、〈A.E.G.I.S〉の治療施設は、最新鋭の医療器具が導入されている。
しかしそこは、特殊構成員しか、入室や使用を許可されていない場所なのである。
だからこそ、凛太郎のその言葉が、何を意味するのか……それを、2人は理解したのだ。
「その言葉……! 夏神君の加入を、認めてくれるんだな!」
「認めざるを得ないだろう。
『一発でも当てたら認めてやる』、その条件を提示したのは、この俺だ」
「それなら話は早い! 君も、夏神君の手当を手伝って――」
「断る。ここから先は、俺の管轄外だ」
「なっ……」
動揺する龍雅と朱音を前に、凛太郎はなおも冷酷な口調で続ける。
「心配しなくとも、その少年は、生死を彷徨うような重症ではない。直接戦った俺が言うことだから、間違いはない。
故に、緊急を要する案件ではないので、俺はこれで失礼させてもらう」
そう言い終えると、凛太郎は何食わぬ顔で、その場を去っていった。
「なんやあいつ……! 血も涙もないんか、ホンマ……!」
「文句は後にしよう!
俺はまず上に行って、ガブリエル様に、今回の件を報告しなければならない!
その間に君は――」
「『ナッチャンを治療室に運んでほしい』、やろ? 分かっとるで!」
「ああ、その通りだ! 君の察しの良さには、いつも助けられる!」
朱音との阿吽の呼吸を見せた後、龍雅は、雨と血で濡れた夏神の顔に手を添える。
「よく頑張ったな、夏神君。もう君は、正真正銘、俺達の仲間だ。
痛い思いをさせて、すまない。しばらくの間、ゆっくり休んでくれ」
そして、辛うじてか細い呼吸をしている夏神に向けて、笑みを浮かべる。
それは、〈A.E.G.I.S〉の主任としてではなく、一人の大人としての、優しい眼差しを秘めたものだった――。
----------
放たれたその一撃は 轟く落雷の如く
何より光速く 何より強く 全てを貫く
誰に何を言われようと 構わない
敵に刻み込む その軌跡こそが
確かに俺が歩んできた 歴史の証明
(鳴宮 凛太郎)
----------
<次章&次回予告>
「――ガブリエル様!
ご報告したいことがあり、ただいま参上いたしました!」
『うるッッさいわねッ!! アナタの声は、いちいち耳障りなのよ!!』
『……それで? 結局のところ、アナタの要件は何なのよ』
次章――【Forth Story of the Babies:《我等、人類を守る盾となり》】
次回――Episode 40 :【〝大天使様〟の御前】
-----------
第三章、完結!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語を最後まで見届けてもらえたこと、心から感謝しています!
もし少しでも心に残ったものがあれば、
一言だけでもレビューや応援コメントをもらえたら、とても励みになります!
それでは、また次の章で、お会いしましょう!
「【T.F.B】の物語が、あなたの人生に、小さな輝きを届けられますように!」
----------
PS. 本作のキャラや世界観を表現するイメージソングやPVなどを、YouTubeで公開しています。
物語をもっと楽しみたいな、と思っていただけた方は、もしよければ、そっと覗いてみてくださいね!
Youtubeにて、
「トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ」
……と、検索してみてくださいね!




