Episode 38 :【《特殊兵装》、《雷轟麒麟》】
「――――なっ……!!?
な、なんだ、その姿は……!!?」
閃光が弱まり、視界が戻った瞬間――俺は目を疑った。
なぜなら、鳴宮が――稲妻の意匠が刻まれた、漆黒の鎧を纏った姿へと、変身していたからだ。
「電子を自在に操る超能力、〝ヴォルトキネシス〟。
その力を、《異能生命体》との戦闘に最適化するまで、昇華したのが――《雷轟麒麟》。
最新鋭の科学技術が生んだ、俺専用の《特殊環境適応兵装》だ」
淡々と告げる鳴宮の、その感情の宿らぬ瞳は、鎧越しに俺を一直線に射抜いている。
「……さあ、少年。
貴様の覚悟と、持ち得る力の全てを、俺にぶつけてみせろ。
でなければ――死ぬぞ?」
――ドゴォオオオオンッ!!!
順次に姿を消した鳴宮の、その重く速い飛び蹴りが、俺の腹部に炸裂する。
内臓が潰れるような激痛。
そのまま俺は、悲鳴や呻き声を上げることもできず、蹴り飛ばされた。
「ナッチャン!!」
「待て、朱音君!! 君も巻き込まれるぞ!!」
「で、でも……!!」
――カツゥンッ!!
鳴宮が鋼鉄の蹄で地面を踏みつけると、バチバチィという轟音と共に、雷撃が発生。
それが濡れた地面を伝って、俺に追い討ちを掛けた。
「ぐあああああああああああああっ!!!」
全身を走る激痛に、断末魔の如き叫びを上げる。
だが、暴風雨によって、それは簡単に掻き消されてしまった。
「リュウさん!!
このままじゃあの子、ホンマに死んでまう!!」
「くっ……! 止むを得ない!!」
霞む視界の先、鳴宮のものと酷似したバックルを取り出し、装着する雨津星さんが見えた。
間違いなく、俺を助けるためだろう。
――だが。
「手を、出さないでください!!」
俺はそんな雨津星さんを、敢えて拒絶した。
嵐と緊張が吹き荒れる中、崩れそうな身体を無理矢理立たせ、震える両足に力を込める。
「俺は……俺はッ、この世界を変えるために、ここへ来た!!
あなたに助けてもらうぐらいなら――刺し違えてでも、この男に認めさせる!!
それぐらいの覚悟がなければ……俺は、英雄になんてなれないんだ!!」
――鳴宮の言っていた通りだ。
俺は心のどこかで、自分のことを過信していた。
巨大蜂の《ネスト》を単独で撃破した実績に、驕っていた。
だけど、それはただ――《HERO》という強力な武器を持っていたからにすぎない。
俺はまだ、斎賀先生に託された力を持っているだけの、ただの子供だ。
そして、今度は雨津星さんに、情けをかけられ、助けてもらおうとしている。
それでは、虎の威を借る狐と、何が違うというんだ。
今の俺に必要なのは、借り物の力でも、情けや慈悲でもない。
『この不条理な世界を変えてみせる』という、強き信念だ。
それを以って、鳴宮という強敵を、乗り越えてみせる。
そうでなければ、雨津星さんや鳳紫さんの隣に立つ資格なんて、ない――!!
俺は闘志だけで、すでに限界を迎えている身体を動かし、体勢を整える。
そして、《HERO》を構え、レーザーを乱射した。
ただ闇雲にではなく、冷静かつ正確に、様々な行動パターンを読みながら。
だが、掠りもしない。
鳴宮は、まさに稲妻の如き瞬間移動で、それら全てを回避していたのだ。
「遅い」
――ドゴオオオッ!!
急接近した鳴宮の回し蹴りが、脇腹に炸裂する。
……だが、痛みはなかった。
正確には――脳が、痛覚の処理を放棄していたのだ。
地面を転がる時に跳ねる雨水の冷たさすら、今の俺は、もうすでに感じ取れなくなっていた。
「……ゴチャゴチャと、大言壮語を並べたかと思えば、結局はその程度か?
俺に一発も当てられない程度の力量で、《ネスト》を相手するつもりだったのか?
思い上がりも、ここまで来ると賞賛に値するな」
鳴宮が、俺を見下し、淡々と侮辱の言葉を吐き捨てる。
しかし、今の俺には、生意気な台詞を返す力も残っていない。ただ虚ろに、濡れた地面を見つめるだけだ。
鳴宮は、そんな俺にトドメを刺さんと、爪先が天を向くほど大きく片足を上げる。
「精々、あの世で両親に慰めてもらえ」
そして、感情のない声で、死刑宣告を無感情に下した――。
――やはり、思った通りだ。
俺を蹴り飛ばした後、奴は必ず〝踏み付け雷撃〟でトドメを刺しに来ると思っていた。
いくら高圧的に振る舞っていようと、鳴宮は、俺の《HERO》を警戒している。
照準が合いさえすれば、確実に命中する光線銃は、奴にとって脅威なんだ。
そして、今の鳴宮は、完全に油断している。
もう俺に成す術などないと高を括り、先程よりも大きく足を上げているのが、その証拠だ。
それはつまり、鳴宮は――自分から、唯一の隙を作ったということだ。
鳴宮が地面を踏みつけるよりも先に、俺は《超新星》モードを起動。
残された力を全て振り絞り、奴に照準を定める。
そして、引き金を――力強く引いた。
【SUPER NOVA.】
――バシュゥウウウウウウウウッ!!!
「何っ……!?」
《HERO》の銃口から迸るレーザービームが、兵装越しの鳴宮の顔を、驚愕に染めた――。
――その瞬間の光景は、確かに俺の目に焼き付いている。
しかし次の瞬間、視界がブラックアウトした。
満身創痍の身体では、とても《超新星》の反動に耐え切れなかったのだ。
その後、放たれたレーザーは、奴に命中したのか。
それともあっさり避けられたのか――それすらも、分からない。
今はただ、消えゆく意識の中で、願う。
もう一度、目を覚ませることを――。
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《次回予告》
「……まさか、こんな必殺技を隠し持っていたとはな……。食えない少年だ」
「……おいたが過ぎるで、リンリン。
なんの罪もないナッチャンを、こない一方的に……」
「その必要はないだろう。
ここには、そこらの病院より、高度な治療施設がある。……違うか?」
次回――Episode 39 :【雷雨が去りて】




