Episode 37 :【たった一つの提案】
「……俺は、この腐り切った世界を変えたい。その糸口が欲しかった。
だから、それを掴み取るために、強くなると誓った。
そして、今ようやく……やっと、ここに辿り着いた。
ここで引き下がること以上に、愚かで情けないことなんてない。
俺は、恐れを知らぬ戦士として、命を捨ててでも、最期の一瞬まで戦う――その覚悟は、もうできている……!」
ホルスターから取り出した《HERO》を固く握り締め、一寸の迷いもない瞳で、鳴宮を見据える。
鳴宮は「何を餓鬼が戯言を」と言わんばかりの、呆れと軽蔑を秘めた表情を見せる。
だけど、そばにいた雨津星さんは、俺の肩に手を置き、力強く頷いてくれた。
「……成程なぁ。
リュウさんが君を見初めた理由が、なんとなーくやけど分かったわ。
ウチは、リュウさんの選択に従う。改めて歓迎するで、ナッチャン!」
満面の笑みを浮かべ、勢いよく手を突き出す鳳紫さん。
俺は言葉の代わりに、そんな彼女の手を強く握り返した。
「……ああでも、一つだけ言っておくで?」
その笑顔の奥に、ふっと一瞬だけ、冷気のようなものが混ざる。
「『命を捨てる覚悟』なんて言葉、軽々しく使わんといてな。
そんなの、漫画やアニメの中でしか、美談にならへんから。
それだけは、重々承知してーな?」
「……善処します」
殺気に近い空気に、思わず背筋が凍った。
雨津星さんといい、鳳紫さんといい……人当たりのよさの裏には、想像もつかないような〝何か〟が眠っているようだ。
その一面を、垣間見た気がした。
「……さて、凛太郎君。
君はどうする? やはり、意見は変わらないか?」
「知れたことだ」
――ガシッ。
突然、鳴宮に胸ぐらを掴まれたかと思えば、そのまま背負い投げの要領で、乱暴に放り投げられる。
「ッ……!?」
咄嗟に受け身を取って着地するも、次の瞬間には、鳴宮が俺の間合いに入っていた。
奴が刀を持っていれば、すでに俺の首を斬り落としていても、おかしくない距離だ。
そのまま鳴宮が、おもむろにパチンと指を鳴らす。
すると突然、虚無しか広がっていなかった空間に、凄まじい暴風と横殴りの雨が、ゴオオッと吹き荒れ始めた。
その、嵐の真っ只中にいるような暴風が、俺の髪と服を激しく靡かせ、襲いかかる雨が全身を濡らす。
「ちょ、ちょっとリンリン! いきなり何してるんや!?」
「見ての通り、悪天候という条件下での、模擬戦だ。
戦闘とは、スポーツの大会とは、まるで違う。常に想定外のことは起こりうるものだ。
それでも貴様は戦士として、戦うことができるのか。それを俺に示してみろ、少年」
鳴宮は腕を上げ、人差し指を天に向けて突きつけながら、言葉を続ける。
「一発だ。その銃を、一発でも俺に当ててみせろ。
そうすれば、貴様のことを、少しは認めてやってもいい」
その言葉は、驚くほど鋭く、静かで、感情を宿さぬものだ。
「だが、俺は相手が子供だろうと、容赦などしない。
ただ、目の前にいる敵として――貴様を叩きのめす」
身も凍るような冷酷な言葉を放った、その次の瞬間、鳴宮がスーツの内ポケットから、何かを取り出す。
それは、長方形かつ金属製の――見たこともない道具だった。
――キシューイン……。ガチャッ……!!
【〝ナルミヤ・リンタロウ〟――認証完了。】
鳴宮がそれを腰部に宛てがうと、側面から蛇腹状のベルトが勢いよく飛び出し、瞬時に鳴宮の身体に巻き付いた。
「なっ!? リュウさん、まさかリンリン……!」
「ああ、そのまさかだ……!
凛太郎君!! この状況下で〝それ〟を使うことは、許可していない!!」
明らかに動揺している様子の、雨津星さんと鳳紫さん。
だが鳴宮は、2人の声に耳を貸すことなく、今度はズボンのポケットから、手の平サイズの何かを取り出す。
その物体は、小学生の頃、歴史の授業で一度見た記憶がある。
何十年か前に使用されていたという、二つ折り式の携帯電話だ。
だが、あの二人の慌てようから――ただの古い電話端末ではなさそうだ。
俺は後方に跳躍しつつ、《二つ折り電話》を撃ち落とさんと照準を定め、レーザーを照射する――。
しかし。
――バシュウッ、バシュウッ!!
「なっ……!?」
命中する直前に、目に見えない電磁結界に防がれてしまう。
「残念。もう少し早く対処すべきだったな、少年」
鳴宮は《二つ折り電話》の画面をパカッと開き、ベルトのホルスターから引き抜いたカードを、上画面のケースに差し込む。
【《アーマード・システム》、始動。】
そして、スナップを効かせて画面を閉じると、端末が眩い光を放ち、同時に電子音声を奏でる。
そのまま鳴宮は、《二つ折り電話》をベルトのバックルに装填した。
その一連の動作は、まるで――特撮ヒーローにでも変身するかのようだった。
【《雷轟麒麟》――荒れ狂う力、霹靂の如く。】
――ガシュン、ギシュイィン!!
瞬間、鳴宮の周囲に分解された特殊な鎧が展開され、奴を覆い尽くすように纏いつく。
そして装着を完了したと同時に、鳴宮の身体が雷光のように激しく光り、俺の視界を奪った――。
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<次回予告>
「――――なっ……!!?
な、なんだ、その姿は……!!?」
「《雷轟麒麟》。
最新鋭の科学技術が生んだ、俺専用の《特殊環境適応兵装》だ」
「……さあ、少年。
貴様の覚悟と、持ち得る力の全てを、俺にぶつけてみせろ。
でなければ――死ぬぞ?」
次回――Episode 38 :【《特殊兵装》、《雷轟麒麟》】




