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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 36 :【判決は、煙草の吐息と共に】

「――それで? これが例の少年か。

 質《たち》の悪い冗談かと思ったが、実物を見たら、余計にそう思わざるを得ないな。

 こんな青臭い餓鬼《ガキ》を、本気で引き入れると?」


 煙草《タバコ》の煙の代わりに、ため息を吐きながら、淡々とそう言葉を並べる鳴宮《なるみや》。


 確かに鳳紫《ほむら》さんの評価通り、その言葉からは陰鬱《いんうつ》で、かつ冷酷《れいこく》な印象を受ける。


「君の意見はもっともだが、夏神《なつみ》君の実力は、本物だ。

 〈A.E.G.I.S(イージス)〉が所有する対《たい》異能生《いのうせい》命体《めいたい》特殊《とくしゅ》装備《そうび》と、彼の天性の戦闘センス。

 その2つを組み合わせれば、充分戦力として活躍することが期待できる。

 主任として、俺はそう判断したんだ」


 雨津星《あまつぼし》さんの主張に、鳴宮は冷たい視線を返す。


「立派な主張だな。だが、説得力は、まるで皆無だ。

 仮に貴様が言うように、実力が申し分ないものだとしても、この少年には、実戦経験が欠け過ぎている。

 未熟な戦士など、足手まといでしかない」


「……ちょっと待て。

 どうして俺の実戦経験が乏しいと、勝手に判断するんだ」


 黙って聴くつもりだったが、流石に聞き捨てならない言葉を言われたので、我ながら沸点が低いなと思いながらも、反論する。


 そんな俺に、鳴宮は「そんなことも分からないのか」と言わんばかりのため息を、はーっと吐き出した。


「気付いていないのか? 貴様が今、雨津星の間合いに入っていることに。

 少しでも妙な動きをすれば、秒で両腕を折られる状況だぞ」


 ……言われて、ハッとする。


 確かに、俺と雨津星さんの距離は、1メートルもない。


 この距離なら、熟練の兵士ならば、一瞬で制圧することができる。


 俺も、対人戦の訓練を積んできたからこそ、それを確かに実感できる。


 しかも、雨津星さんは先程、鳴宮の煙草を、一瞬で奪ってみせた。


 肉眼で捉えることはできたが、即座に対応できるかどうかは……正直、かなり怪しい。


 しかし……そんなことは、決してないだろう。


 雨津星さんは、初対面にも関わらず、あれだけ俺のことを深く理解し、心からの笑顔を見せるほどに、俺のことを信頼してくれた。


 そんな雨津星さんが、そこまで警戒しているとは思えない。


 そう思いつつも、雨津星さんの方を見てみれば――気まずそうに目を逸らされた。


 ……そういうことか。


 〈狭間(はざま)交信局(こうしんきょく)〉で俺に《HERO(ヒーロー)》を突き付けられた時、あんなにも冷静だったのは、「俺を信じていたから」じゃない。


「引き金を引かれる前に、無力化できる自信があったから」――それだけだったんだ。


 ……仕方がないとはいえ……まだ信頼されていないんだな、俺は……。


「いや、夏神君、君のことは、確かに信頼しているんだぞ!?

 ただ、組織の主任としては、一応、最悪のケースも想定して……」


「ああ、はい……大丈夫です、分かってますから……」


「そ、そんな顔には見えないが!?」


 慌てている様子の雨津星さんを見かねてか、鳳紫さんが仲裁に入る。


「まあまあまあ!

 ナッチャンかて、ちょっちビックリしちゃっただけで、ホンマにショック受けてるわけやないやろ?」


「……まあ」


 割とショックを受けたことは、黙っておこう……。


「うんうん、それなら万事オッケーやな!

 リュウさんも、あんまナッチャンを怖がらせへんこと! ええね!」


「め、面目ない……」


 鳳紫さんの尻に敷《し》かれ、しゅんとしている雨津星さん。


 その姿が、なんだかおもしろくて、俺は思わず笑みを零《こぼ》していた。


「……茶番はもういいか?

 貴様らがなんと言おうと、俺はこの少年を仲間にするつもりなどない」


 和やかな雰囲気になりつつあった場に水を差すように、鳴宮が冷徹な口調で言葉を続ける。


「この少年は、典型的な、試験の結果がいいだけの、優等生気取りだ。

 自分の力を過信し、現実が見えていない。おまけに、他人を簡単に信用するお人好しと来ている。

 そういう輩は、実際の戦場では何も為《な》せず、呆気なく死ぬだけだ」


 鳴宮の視線の先が、雨津星さんから俺に変わる。


「少年。貴様に相応《ふさわ》しい未来は――無力な子供として、分相応に、ただ生き長らえるだけの、人生だ。

 それだけは、理解しておくんだな」


「ちょっと、リンリン! いくらなんでも、そんな言い方……!」


「いいんです、鳳紫さん」


 俺を思ってか、身を乗り出そうとした鳳紫さんを、俺は制止する。


 ……成程。鳳紫さんの言っていた評価が、今なら嫌というほど理解できる。


 この男の言葉には、悪意は一切ない。


 ただ自分の経験と考えに基《もと》づく意見を、冷徹に突き付けてくるだけだ。


 だからこそ、その言葉は、痛いほど重く響く。


 気に食わないが、鳴宮の言葉が的を射《い》ているのは、紛れもない事実だ。


 ……だけど、そんな言葉で、俺の決意が揺らぐはずがない。


 父さんが消えたあの日、俺はその場に項垂《うなだ》れることしかできなかった。


 母さんにだって、結局、最期《さいご》の最期《さいご》まで、何もしてあげられなかった。


 だからこそ、俺は決めたんだ。


 こんな世界を変えるために、強くなると。


 だから、何年もかけて、ようやくたどり着けたこの瞬間を、今更引き下がるなんて――ありえない。


 -----------

<次回予告>


「俺は、恐れを知らぬ戦士として、命を捨ててでも、最期の一瞬まで戦う――その覚悟は、もうできている……!」


「……さて、凛太郎君。

 君はどうする? やはり、意見は変わらないか?」


「一発だ。その銃を、一発でも俺に当ててみせろ。

 そうすれば、貴様のことを、少しは認めてやってもいい」


 次回――Episode 37 :【たった一つの提案】

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