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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 35 :【紫煙と共に現れた男】

 ――こうして、雨津星さんに案内されるまま、いくつもの部屋や施設を巡り歩いた末に、俺はようやく〈A.E.G.I.S(イージス)〉本部観光ツアーの終着点へと辿り着いた。


 ……なのだが、目の前に広がる光景を見た瞬間、俺は言葉を失った。


 なぜなら、そこには――本当に、何もなかったからだ。


 無機質でサイバーチックな壁に囲まれた、異様なまでに広い閉鎖空間。


 例えるなら、オアシスのない砂漠。


 あるいは、虚無《きょむ》という言葉が相応《ふさわ》しい場所だ。


「……あの。本当に、ここで合ってるんですか?」


 目の前の光景が信じられず、雨津星《あまつぼし》さんと鳳紫《ほむら》さんに尋ねてみる。


 だが、2人は「そうだけど?」と言わんばかりに、ポカンとした表情を浮かべていた。


 どうやら、場所を間違えたわけではなさそうだ。


「ここは、〈A.E.G.I.S〉が誇る立体映像《ホログラム》実体化《じったいか》技術《ぎじゅつ》を用いた、〝イメージトレーニングルーム〟だ!

 《ネスト》と対峙した場面を想定し、実戦さながらの訓練を積む場所だ!」


「……《ネスト》?」


「いちいちフルネームで呼ぶのは面倒だからな! 俺はそう呼んでいる!」


「あ、はいはい。ウチも呼んでますわ」


 名前の略し方に、妙な一体感を見せる2人。もしかして、公式的な略称なのか?


 ともかく、どうやらこの場所は、本当に何もないような、空っぽの部屋というわけではなさそうだ。


 ――ウィイーン……。ガコンッ。


 直後、向こう側のエレベーターのドアが開いた。


 そこから現れたのは――黄色いネクタイが目を引く、無表情で煙草《タバコ》を咥えた、スーツ姿の男。


 石膏像のように白く無機質な顔で、まるで幽霊のように生気を感じさせず、不気味な印象を受ける。


 そんな男が、まるで吟味《ぎんみ》するかのように、俺をジッと睨みつけながら、ゆらりゆらりと近付いてくる。


「おや? 凛太郎《りんたろう》君。君は今日、半休のはずでは?」


「ああ。貴様のせいで、台無しにされたがな。

 『出会ったばかりの少年を、新たな特殊構成員として、〈A.E.G.I.S〉に引き入れることになった』……。

 そんな報《しら》せを受けて、無関心・無警戒でいられるほど、俺は愚かではない」


 現れて早々、雨津星さんに悪態をつく男(雨津星さんは〝りんたろう〟と呼んでいた)。


 いきなりの登場でも驚かれないのだから、〈A.E.G.I.S〉関係の人間であることは、間違いない。


 ……しかし、態度のトゲが強すぎて、仲間というより、もはや敵の方が近い。


「ナッチャン、ナッチャン。

 あの辛気臭い男は、鳴宮《なるみや》凛太郎《りんたろう》っちゅーんやけどな?

 無表情で鉄仮面みたいな顔しとるけど、中身はロジハラ大好きな、ヒエヒエキーンな冷たい奴なんやで。気をつけなっ」


 すぐそばの鳳紫さんが、こっそり耳打ちしてくる。


 その瞬間、ふわりと漂った、柔らかな香りが、鼻先をくすぐった。


 香水のような刺激はなく、洗濯したての布団のように、どこか温もりを含んだ優しく穏やかな香りに、思わず脈動が少しだけ速くなる。


「いちいち煩《うるさ》い女だ。

 生まれも育ちも関西ではないクセに、耳障りなニセ方言をベラベラと」


「あぁん!? なんやて!?

 この関西弁が、ウチのチャームポイントやっちゅーねん!」


「学生時代は、それでよかったかもしれないが、いつまでも過去に縋《すが》るのは情けないな。

 とても、30歳を目前にした女とは思えない」

「むっかーっ! 言わせておけばなんやねん!」


 歯に衣着せず、言葉のナイフを投げつけまくる鳴宮に、鳳紫さんが勢い任せに突っかかる。


 その様子から察するまでもなく、2人は犬猿《けんえん》の仲らしい。


 ……俺からすれば、「どちらも大人げないな」としか思えないのだが。


 こんな人達と同じ職場で、俺はこの先大丈夫なのか? 少し不安になった。


「つーか、ナッチャンはまだ未成年なんやから、今くらいは煙草吸うのやめときや!」


「断る」


「即答!?」


「俺は指示待ち人間ではないからな。自分の行動くらい、自分で――」


 ――ヒュオッ!


 風を切る音。


 次の瞬間、鳴宮の手から、煙草が消えていた。


 ……見えた。いや、はっきり目に映った。


 それは鳴宮も同様だったようで、異変に動じることなく即座に反応し、視線をある一点へと向ける。


 その、感情が宿っていない、濁《にご》った瞳の先にあったものは――代わりに煙草を持つ、雨津星さんだった。


「……何のつもりだ」


「ハハハッ、油断したな! 凛太郎君!

 とりあえず、これは没収!

 喧嘩《けんか》両成敗《りょうせいばい》ということで、ここは一件落着! なっ、朱音《あかね》君!」


「……両成敗っちゅーのは、ちょっと引っ掛かるけど……まあ、それでええよ」


 雨津星さんは豪快に笑いながら、手の中の煙草を握り潰した。


 パチッと火が消えると同時に、場の空気もすっと落ち着いたように感じた。


 ……成程。


 まだ漠然《ばくぜん》とはしているが、この組織における人間関係や力関係などが、少しずつ読み取れてきた気がした。


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挿絵(By みてみん)

(鳴宮(なるみや) 凛太郎(りんたろう))


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<次回予告>


「――それで? これが例の少年か」


「仮に貴様が言うように、実力が申し分ないものだとしても、この少年には、実戦経験が欠け過ぎている。

 未熟な戦士など、足手纏《あしでまと》いでしかない」


「この少年は、典型的な、試験の結果がいいだけの、優等生気取りだ。

 自分の力を過信し、現実が見えていない。おまけに、他人を簡単に信用するお人好しと来ている」


次回――Episode 36 :【判決(ジャッジ)は、煙草の吐息と共に】


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