Episode 34 :【辿り着いた目的地】
――空中道路を駆け抜けた果てに、ついに俺は〈A.E.G.I.S〉の本部へと辿り着いた。
そこは、政府直属という肩書に恥じない、巨大かつ豪華な外観の摩天楼。
戦闘組織の本拠地と言うよりかは、超高級ホテルを彷彿とさせる、威圧感と美しさを放つその姿に、思わず息を呑む。
屋上の専用ヘリポートに着陸した浮遊車から飛び降り、そのまま雨津星さんと鳳紫さんの後をついて、建物の中へと踏み入れた。
「せっかくだから、我らが本拠地を案内しようか!」
雨津星さんのその一言を合図に、〈A.E.G.I.S〉内の観光ツアーが始まった。
それは〈御門大江戸〉を見た時とは、また違った意味で、衝撃を受けるものだった。
まず、本部に導入されている、最新式エレベーターの性能だ。
扉が閉じたかと思えば、一瞬の内に目的の階へ。まるで瞬間移動だ。
それでいて、乗り心地は驚くほどスムーズだった。
内装もまた、外観に負けず豪華だ。
しかし、無駄に煌びやかなわけではなく、どこか落ち着きと品のある、〝静かな贅沢〟に包まれていた。
さらに、各特殊構成員の待機室は、さながらスイートルームのように広々としたもの。
専用の浴室に至っては、貸切温泉のようにくつろげる、解放的な空間になっている。
「……まるで、VIP並みの待遇ですね……」
思わず漏れた俺の言葉に、鳳紫さんが苦笑いを浮かべる。
「まーでも、これぐらいの見返りがないと、ウチらの仕事はやってられへんからなー。贅沢させてもろうてますで」
言葉の調子は軽いのに、その声色からは、どこか後ろめたさが滲んでいた。
察するに、自分達だけが特別扱いされていることに、葛藤を抱いているのだろうか。
確かに、普通に考えれば、不自然なまでの好待遇だ。
しかし、「《ヒューマネスト》という怪物と戦う組織の一員」なのだから、命の危険に対する対価と考えれば、納得できる話ではある。
……とはいえ、〈アフターエリア〉での生活水準を知っている身としては、手放しで喜ぶ気にはなれなかった。
――そうして本部を歩いていて、ふと気づいたことがある。
雨津星さんと鳳紫さん以外の人間と、一度も出会っていないのだ。
構成員であろう〝機械人形〟は、多種多様の型があちこち稼働しているというのに、2人以外の人間は、影も形も見当たらない。
そのことを疑問に思い、雨津星さんに尋ねてみる。
「……ああ、それについてか。
〈A.E.G.I.S〉に所属する人間は、現在では、俺と朱音君を含めた、4人しかいない。
それ以外は、全てフレンドだ」
淡々と語る雨津星さんの声には、どこか寂しげな感情が混じっていた。
「組織の方針として、人員の追加申請もしていない。
ここは文字通り、命懸けの職場だからな。気軽に募集するわけにもいかないさ。
だからこそ、我々は〝特殊構成員〟として扱われている、ということだ」
――「《《現在では》》」。
その言葉が、胸に引っ掛かった。
きっと以前は、もっと多くの仲間がいたのだろう。
彼らがどんな過去を歩んできたのか……それは、想像に難くなかった。
だからこそ、俺はそれ以上は、踏み込まなかった。
それ以上聞くことは、過去の傷に触れてしまうと思ったからだ。
「んまあ、要するにやな」
重くなりかけた空気を払うように、鳳紫さんが笑いながら、俺の肩に手を回してくる。
「そんな厳し~い審美眼をお持ちのリュウさんが、わざわざ自分からスカウトするくらい、君は期待されてるってコト!」
そう笑った鳳紫さんだったが、すぐに表情を曇らせる。
「……まあ、今の話を聞いた直後に言われても、ちっとも喜べへんかもやけど、ね……。
要は、期待されてる分だけ、前線に駆り出される可能性も、高いってことやし……。
ホンマ、君みたいな若い子に縋らなアカンくらい、情けなくてカッコ悪い大人で、ごめんな……」
「……いえ。元々そのつもりで、雨津星さんのお話を、受けたわけですから……。
むしろ、これまで死に物狂いで積み上げてきた努力を、そうやって認めてもらえることの方が……正直嬉しいんです」
俺の返事に、鳳紫さんは驚いたように目を丸くし、それから安堵の色を浮かべた。
……けれど、その笑顔は、どこかぎこちないものだった。
彼女は自分のことを「情けなくてカッコ悪い」と言っていたが、俺はむしろ逆だと思っている。
《ヒューマネスト》と、直接戦ったことのある俺だからこそ、人々の自由と平和のために、命を賭す覚悟で戦える――そんな彼らのことは、純粋に尊敬し、信頼できる相手だと、そう言い切れる。
……まあ実際には、初対面でいきなり《HERO》を突き付ける、なんて無礼を働いてしまったんだけどな。
その件は、今後も反省しなければいけないな。改めて、そう思った。
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<次回予告>
「……あの。本当に、ここで合ってるんですか?」
「おや? 凛太郎君。君は今日、半休のはずでは?」
「『出会ったばかりの少年を、新たな特殊構成員として、〈A.E.G.I.S〉に引き入れることになった』……。
そんな報せを受けて、無関心・無警戒でいられるほど、俺は愚かじゃない」
次回――Episode 35 :【紫煙と共に現れた男】




