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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 33 :【彼の者に蘇る、義憤《いかり》】

《――『ごめんなさいねェ~。アナタ達が、無駄に人生を浪費している間に、この国は変わったのよン。

 お気の毒だけど、東京都……いや、今や〝新国家〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉〟では、アナタ達のような劣悪《れつあく》分子《ぶんし》に、居場所なんてナッシング! ゴミはゴミ箱にお行きなさい!』》


 ……忘れもしない、その姿、その声。


 機械音声が混じる甲高い響きも、傲慢《ごうまん》に嗤《わら》うその口調も。


 何より――あいつが俺と母さんに勝手に下した、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で一方的な判決《ジャッジ》を。


 俺の脳裏と深層心理に刻まれた、奴に纏《まつ》わる全ての記憶は、一瞬たりとも消えたことなどない。


 そして同時に、奴を見た瞬間に燃え上がった、この憎悪《ぞうお》の炎も、未だ鎮まることはない。


「……すみません。窓、開けてもらえますか」


「えっ? 雨で濡れちゃうよ?」


「構いません。お願いします」


「そ、そう? それなら、別にええんやけど……」


 鳳紫《ほむら》さんに車窓を開けてもらうと、ビル群に反響する、奴の演説が耳に飛び込んできた。


 あの時と違って、口調こそ丁寧に整えられている。


 だが――気味の悪い仕草と、その加工された声は、あの頃から一切変わってはいなかった。


『皆さん。今日は、《2050(ニーゼロゴーゼロ・)DD(ディザスター・デイ)》の惨劇《さんげき》から、5年の歳月《さいげつ》が流れた日。

 我々人類が受けた傷は、未だ癒えぬものです。

 ですが、我々は確かに未来へと歩んでいます。今日という尊い一日が、明日へと繋がる糧となるのです。

 さあ、今日も一日、頑張りましょう!

 これすなわち、努力は報われ、いずれ花咲く!』


 ……綺麗事を並べただけの、上っ面で薄っぺらい、聞くに堪《た》えない演説。


 その雑音を聞いた瞬間、憎悪の炎が、さらに激しく燃え上がる。


 ……何が……何が、「努力は報われ、いずれ花咲く」だ。


 ふざけるな。


 この〈御門大江戸〉に蔓延《はびこ》るのは、多くの犠牲《ぎせい》を踏《ふ》み躙《にじ》って手に入れた、偽りの平和じゃないか。


 お前の……お前のせいで、母さんは死んだんだ。


 それなのになぜ、お前はのうのうと生きている。


 赦《ゆる》せない。赦《ゆる》してなるものか。絶対に――。


「……な、ナッチャン?

 どないしたん、そない怖い顔して……」


 ルームミラー越しに、俺のただならぬ形相《ぎょうそう》を目にした鳳紫さんが、恐る恐る声をかけてきた。


「……あの鎧《よろい》野郎《やろう》。あいつは、いったい何者ですか?」


「よ、鎧野郎って……。

 あのお方はな、〝人類存亡(じんるいそんぼう)最終防衛(さいしゅうぼうえい)機構(きこう)〈MESSIAH(メサイア)〉〟の最高幹部の一人、ガブリエル・シンドウ様っちゅうんやで。

 まあ簡単に言うと、今の〈御門大江戸〉で一番偉い人……って感じやな」


 鳳紫さんの解説に続けて、雨津星さんが口を開く。


「〈MESSIAH〉とは、生物兵器や環境汚染、エネルギー問題など、生態系のあらゆる脅威から人類を守る、国際連合直属の組織だ。

 その組織なくしては、我々はとっくに、今日という日を失っていたことだろう」


 ――さらに詳しく話を聞いてみると、そのガブリエル・シンドウこそが、「電磁《でんじ》結界《けっかい》による主要都市の隔離《かくり》」と、「機械化手術による《E.A.E(イー・エー・イー)》対策」を最初に提唱、実行に移した、張本人だという。


 《DD(ディー・ディー)》の惨劇(さんげき)によって、日本政府が壊滅状態に陥(おちい)った混乱の中、奴はその功績で国の実権を掌握し、実質的な管理者に収まった。


〈MESSIAH〉という組織の名の通り、まさにこの世界の救世主……というわけだ。


 〈御門大江戸〉という新国家を築き上げたのも、ガブリエル。


 新しい年号である〝黎明《れいめい》〟を発案し、定めたのも、ガブリエル。


 そして、この国の絶対君主にして――選ばれたものだけが生き残る絶望郷(ディストピア)を築き上げたのも、ガブリエルだった。


「……壊滅状態だった、かつての日本政府に、国民全員を救う力はなかった。

 だからこそ、選ばれた人間のために、それ以外の人間を切り捨てた。

 ……それは、国益のための、致し方ない犠牲……そう、判断された」


 雨津星さんは、静かにそう語った。


 しかし、その声色《こわいろ》からは、『納得がいかない、理解できない』という感情が、滲み出ていた。


 鳳紫さんも、険しい顔のまま、黙り込んでいる。


 ――2人のそんな姿を見て、俺の中で、確信が生まれた。


『やっぱり、この世界は、変えなければいけない』。


 誰かの犠牲という前提ありきで、この世界は成り立っている。


 国益だなんだというが、結局は体《てい》のいい人柱《ひとばしら》を用意して、自分達の安寧を守ろうとしているだけだ。


 選ばれし者だけが平和に嗤う、都合のいい地獄《せかい》。


 そんなものを、俺は絶対に受け入れない。


 絶対に、抗ってみせる。


 改めて俺は、そう強く、深く、心に誓った――。


----------


挿絵(By みてみん)

(ガブリエル・シンドウ》)


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<次回予告>


「せっかくだから、我らが本拠地を案内しようか!」


「……まるで、VIP《ヴイアイピー》並みの待遇ですね……」


「んまあ、要するに、そんな厳し~い審美眼をお持ちのリュウさんが、わざわざ自分からスカウトするくらい、君は期待されてるってコト!」


次回――Episode 34 :【辿り着いた目的地】

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