Episode 31 :【紅一点、鳳紫朱音、参上】
――「迎えが来るまで、しばらく待ってもらえないか」。
雨津星さんにそう言われたので、俺は〈狭間交信局〉の入り口前で、雨宿りをすることに。
その間、せっかくだからと、俺は雨津星さんに、一つ質問をすることにした。
「俺は今後、〈A.E.G.I.S〉の特殊構成員として、どう動けばいいのでしょうか?」
「長期的には、抑制薬の服用と定期検査が、メインになるかな。
だが、有事の際には、戦力として活躍してもらうかもしれない。
その判断は、主任の俺が、その都度 決める。君の実力を判断した上で、な」
「……貴重な被験体だから、みすみす死なせたくはない……ってことですか?」
……我ながら、意地の悪い質問だと思う。
実際、雨津星さんは驚き、苦笑する。
だが、すぐにその表情は、真っ直ぐで信念のあるものへと変わる。
「君は、『生きること』に意味がある存在だ。何も、怪物をたくさん倒すことだけが、活躍じゃないさ。
然るべき時が来たら、君も貴重な一戦力として、頼りにする。
だから、それまでは、まだ大人に守られる子供でいてほしい」
屈託のない笑顔でそう言われてしまえば、もう俺から言うことはない。
俺は渋々、「……分かりました」と頷いた。
――そうやって待っていること、十数分。
電磁浮遊式のワゴン車が、上空から音もなく接近してきた。
青白いライトを地面に落としながら、静かに着陸する。
「お待たせ~!
いやいやー、すんまへんなぁ、待たせてしもうて!」
車窓が下がり、赤い髪をシュシュでまとめた女性が、ひょいと顔を出す。
髪色と同じくらい鮮やかな朱色と、その整った顔立ちは、雨に濡れる景色の中でも、とてもよく映えるものだった。
「おっ! キミが例の、新入り候補くんやな! よろしゅう!」
彼女が俺に向かって、グイッと手を差し出してくる。
戸惑いながらも握手に応じると、その手は思ったよりも熱く、分厚いものだった。
「おおっ! 結構鍛えてる、ええ手やんか! よろしいよろしい!」
何やらご機嫌な様子で、俺の手を握ったままブンブンと振りながら笑う彼女。
結んだ髪がぴょこぴょこと揺れ、その度に朱色の光がちらちらと踊るのが、妙に目に残った。
(……この人が、迎えってことか)
女性に疎い俺ですら、彼女が、外見も性格も〝華やかなタイプ〟だということは、すぐに分かる。
だが、俺の率直な感想は……『その割に、中身はオッサン臭い』、だ。
違和感のある関西弁もそうだが、俺の手を握る右腕が、アスリートのように筋肉質なので、余計にそう思う。
「うん! 素直に謝る、その潔さ良し!
だが、客人を待たせるのは、あまり感心しないな!」
「いやー、〈A.E.G.I.S〉以外の人間と会うんやから、もうメイクも『水商売かいな』ってくらい、張り切りたくなるってもんやろ!
《《リュウさん》》は、乙女心を分かってへんな~」
……そう言っている割には、そこまで濃い化粧には見えないが。
「そういうものだろうか?
おっと、紹介がまだだったな。
夏神君。彼女こそ、〈A.E.G.I.S〉の紅一点! 鳳紫朱音君だ!」
「おいっす! 鳳紫朱音です!
年上だからとか気にせず、仲良うしてーな♪」
「……こちらこそ、よろしくお願いします。鳳紫さん」
雨津星さんに勝るとも劣らない、快活な笑顔。親しみやすさも抜群。
……だけど、あまりに距離感が近くて、少し戸惑う。
そんな彼女――鳳紫朱音さんへの軽い挨拶を済ませた俺は、彼女が操縦する浮遊ワゴン車に同乗した。
――フウィーッ……。
機体は静かに浮かび上がり、都市の空中道路を滑るように、目的地へと進み始める。
雨粒がぶつかる音が車内に響く中、車窓に映る街のネオンが、濡れた窓越しに、鳳紫さんの横顔を照らし出す。
「――にしても、今日は雨、ひどいなぁ。ちょっと前に、一回止んだのが、ウソみたいやね~。
まあでも、雨の中のドライブって、なんかロマンチックやない?♪」
「浸るのは構わないが……運転には注意してくれよ?
君の腕は、俺が保証しているが……」
「ふふん♪ 今日は大事な客人くんを乗せとるからね~。
朱音ちゃんタクシーは、いつも以上に張り切っておりますよ!♪」
「ハハハッ! それはよかった!
……あっと、夏神君? 俺はいつも、彼女を運転手代わりにしているわけではないからな? たまたまだからな?」
道中、そうやって雨津星さんと鳳紫さんが談笑する中で、俺は景色を眺めていた。
……正直、会話に入るタイミングが掴めない。
できるとしたら、本当に短い相槌だけだ。
「そういや、夏神くん……やったっけ?
せっかくやし、《《ナッチャン》》って呼んでもええ?
そんで、君はなんで、〈御門大江戸〉に来たん?」
「えっ? あ、いや……」
突然に話題を振られるが、咄嗟に反応できなかった。
「世界を変える、という目的のためだ!
なんでも、〝世界を浄化する地獄の花〟……? とかいうのを名乗っているらしい!」
そんな俺の事情を察したからなのか、雨津星さんが代弁者を務めてくれた。
……だが、最後の一文まで加えてしまうと、俺がとてつもなく痛い奴だと、彼女に思われかねない気が……。
内容自体は、特に間違ってるわけでもないので、口出しするのも憚れるし……。
「……へ、へー。最近の子は、えらいスケールでかいなぁ……」
実際、バックミラー越しに見える鳳紫さんの表情は、分かりやすすぎるくらい引き攣っていた。
「こらっ、朱音君! 茶化すのはよくないぞ!
確かに妙な言い回しだが、良いじゃないか!
頑張って考えたんだろう? 凄いぞ、夏神君!」
「……ありがとうございます」
……雨津星さんなりに、擁護してくれているのは、分かる。
だが、絶妙に嬉しくない。
〝ありがた迷惑〟という言葉を辞書で引いたら、多分この状況が載っていると思う。
(……〈A.E.G.I.S〉って組織の人間は、みんなこんな感じなのか?)
ちょっとだけ、この先の未来が、不安になった。
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(鳳紫 朱音)
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<次回予告>
「にしても、『世界を変える』……とは、なかなか大きく出たもんやね~。
具体的には、どういうプランをお持ちなん?」
≪気付けば俺は、少しずつ、自分の目標を語り始めた。≫
≪『この世界を、根底から覆す』という、大それた目的を、如何様にして果たそうとしているのか。≫
次回――Episode 32 :【英雄への序章】




