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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 30 :【〝理想郷〟という名の〝虫籠〟】

 ――かくして俺は、雨津星(あまつぼし)さんと共に、一枚の鋼鉄の扉を前に立っていた。


 それは、〈狭間(はざま)交信局(こうしんきょく)〉の終わりであり、〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉の始まりを告げる扉。


 俺にとっては〝運命の扉〟だが、雨津星さんにとっては、何度も通過してきた、ただの出入り口。


 それを示唆(しさ)するように、雨津星さんは慣れた動作で、認証機のロックを解除した。


 ――ギュイーン……ガゴゴゴンッ……。


 重く響く機械音と共に、分厚い扉が開かれていく。


 その扉を、俺は雨津星さんの背中を追いかける形で、ゆっくりと越えた。


 こうして、〈御門大江戸〉という、再誕した故郷(こきょう)を目にした時――俺は、言葉を失った。


 雨に濡(ぬ)れた街並みを照らす、ビルに表示された数々の電子パネル。


 空を自在に滑空・運転する、電磁浮遊車。


 《《一部機械の人間》》と、《《全身機械の人形》》が、肩を並べて歩く街並み。


 そして何よりも目を引くのは、空を貫くように聳(そび)え立(た)つ、巨大な塔……。


 俺の目に飛び込んできたのは、あまりにも現実離れした光景だった。


 ――だが俺の心は、トキメキや感動では、満たされなかった。


 「目の前の景色を《《受け入れたくない》》」――そんな拒絶反応のようなものが、胸の奥に自然と芽生えたからだ。


 死屍(しし)累々(るいるい)の地獄絵図とでも言うべき〈アフターエリア〉。


 子供の空想を具現化したような未来都市・〈御門大江戸〉。


 その2つが、たった1枚の壁を隔(へだ)てて、同じ世界に共存している――。


 そのあまりの理不尽さに、俺の頭も心も、ついていけなかったのだ。


「君は、かつてお母様と、この〈御門大江戸〉で暮らしていたんだったな。

 今の君の目には、かつての故郷は、どう映る?」


「……まるで、蜃気楼(しんきろう)を見ているような気分です。

 腐敗した無常な世界に、幻想の国が、ポツンと現れたような……そんな錯覚に襲われる」


「ハハハ……蜃気楼に、幻想の国か。なかなか、言い得て妙だな。

 だが……俺にとっては、ここは〝虫籠(むしかご)〟さ」


「……虫籠《むしかご》……?」


「君からすれば、ここにいる人間は、恵まれているように見えるだろう。

 だが実際は、《《もっと上の存在》》に、生かされているにすぎないんだ」


 雨津星さんの声は重く、静かに響く。


「この〈御門大江戸〉での居住権は、いわば椅子取りゲームだ。

 だが、椅子に座れるかは、早いもの勝負でも、運でもない。

 ただ、〝主催者〟に『座ってもいい』と審判(ジャッジ)されるかどうか、だ。

 しかも、その椅子は、気まぐれで取り上げられたり、数を減らされたりする。

 そして、かつて椅子に座れていた優秀だった者でさえ、より優秀な者に、『それがルールだから』と、椅子を奪われるんだ」


「……! そんなことが……!」


「理不尽だよな。だけど、それが現実なんだ」


 雨津星さんの視線の先にあるのは、天にまで届きそうな、あの巨大な塔だった。


「……だからこそ、ここは〝虫籠〟で、ここにいるのは、人間様に抗(あらが)えぬ、弱い虫なんだ。

 虫籠の中では安全な虫も、いつかは人間に摘まみ出される。理由なんて関係なく、な」


 煌《きら》びやかな未来都市を見つめる雨津星さん。その表情は、どこか悲しみを帯びているものだ。


 その横顔を見ただけで、『彼なりに、この理不尽な世界に対して、思うことがある』ということが、ひしひしと伝わってきた。


「だからこそ、夏神(なつみ)君。俺にとって君は、特別なんだ。

 君は、賄賂《わいろ》を積んで〈御門大江戸(ここ)〉に入って来た人間とは違う。

 君は、長い間苦しみながらも、自分の力で這(は)い上《あ》がって来た。

 俺は、君のその瞳に宿る、気高い魂に、惹かれたんだ。

 だからこそ俺は、君の未来が幸運であることを――心から、願っている」


 雨津星さんが、真っ直ぐに俺を見つめ、穏やかな笑みを浮かべる。


 その瞳は、雨の切れ間に光る太陽のように、鮮やかだった。


「……そんな、映画の台詞みたいなことを言われても、返しに困ります」


「ハハハ! 映画でも、こんなキザな台詞は言わないだろう!」


「キザな自覚はあるんですね……」


 ――不思議な感覚だった。


 俺と雨津星さんは、出会ってまだ一時間にも満たない。


 それなのに、彼とはもう何年も前からの知り合いのように感じる。


≪――「おおっ、凄いぞ夏神! どんどんタイムが縮まってきているな!」≫


≪――「母さんの弁当は、いつ食べても美味いな……。

 夏神、料理上手な母さんを持って、俺達は幸せ者だな!」≫


≪――「夏神。父さんに、もしものことがあったら……その時は、母さんのこと、頼むな。

 父さんの分まで、母さんを守ってあげられるような……そんな強い男になってくれ。男同士の、約束だ」≫


 ……きっと、それは、雨津星さんの人となりが――どこか父さんに似ていたからかもしれない。


 豪快で、人懐っこくて、真っ直ぐで。


 少し抜けているけど、そういうところも含めて……俺も母さんも、父さんのことが大好きだった。


 ……もしもあの《2050(ニーゼロゴーゼロ・)DD(ディザスター・デイ)》の時、父さんが消滅しなければ……母さんは、あんなにも急激に壊れてしまうことは、なかったはずだ。


 それくらい、俺達にとって父さんの存在は、大きいものだった。


 ……正直、俺は今でも、父さんと母さんがいない世界を、完全には受け入れられていない。


 だからこそ、俺はもう二度と、大切な人と、あんな悲しい別れ方をしたくはない。


 この世界を生きる誰かにも、そんな思いをしてほしくない。


 雨津星さんは、そんな俺に、〝選択の機会〟を与えてくれた。


 だからこそ、俺は――この人の想いに、応えたい。素直に、そう思えた。


「それにしても、なかなか雨が止まないな。

 昼前には止むと言っていたが……予報なんて、いつの時代になっても、当てにならないな!」


 ……当の雨津星さん本人は、そんな俺の決意に、全く気付いていない様子だが。


 ほんと、色々な意味で、35歳とは思えない人だ。


 流石の父さんも、ここまでマイペースじゃなかったけどな……。


 ……だけど、それがなんだか、ちょっとだけ嬉しくて。


 なんだか、泣きそうになるくらい、救われた気がした。


-----------


<次回予告>


「お待たせ~! いやいやー、すみませんなぁ、待たせてしもうて」


「おっ! キミが例の新入り候補君やな! よろしゅう!」


「おいっす! 鳳紫(ほむら)朱音(あかね)です!

 年上だからとか気にせず、仲良うしてーな♪」


次回――Episode 31 :【紅一点、鳳紫朱音、参上】

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