↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/60

Episode 29 :【誓いの盃】

 ――色々と……本当に色々と衝撃的な事実も知ってしまったが……。


 ともかく、雨津星(あまつぼし)さんの話のおかげで、今の俺が求めていた真実のほとんどを、理解することができた。


 その中でも、特筆すべき内容は、『如何(いか)にも怪しげなアタッシュケースを抱えて〈狭間(はざま)交信局(こうしんきょく)〉へ行き、秘密裏に入国している者がいる』という噂の全貌(ぜんぼう)だ。


 おそらく……いや、十中八九、そのケースの中身は、機械化手術の費用に充(あ)てられたんだな。


 他のトガビトからすれば、その手術の権利とやらは、喉から手が出るほどに欲しいものなのだろう。


 だが、俺の場合――政府が開発中の〝《E.A.E(イー・エー・イー)》の活性化を抑制する医薬〟の服用と、定期的な身体検査を条件に、雨津星さんが特例として、手術を受けずに入国させてくれるらしい。


「君のように手術を拒否する人間は、当然ながらいた。

 だが、大金を積んででも〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉に入国したい人間が求めているのは、絶対的な安心感だ。

 その絶大なるメリットと比べれば、肉体を機械化させることなど、大した問題ではない。

 だから、この〈狭間交信局〉に来た全ての人間が、手術を受けることに同意した。

 あそこまで拒絶する人間は、君が初めてだったから、驚かされたよ」


 ニッと口角を上げた雨津星さんが、〝治安維持型フレンド〟に何かを持ってこさせるように、クイッ、クイッとハンドサインを送る。


 そして、そのフレンドが持ってきた、手の平サイズの防護ケースを机に置き、その中から、透明な液体が入った如何(いか)にもそれらしい小瓶(こびん)を取り出す。


「この薬は、いわゆるナノカプセル形式でな。

 カプセルが腸内で溶けた後、ナノマシンが全身に行き渡り、肉体の内側からアプローチをかける……というものだ。

 ある程度の臨床(りんしょう)試験(しけん)を終え、十分な効果も期待できる代物ではある。

 ただし、服用時の副作用として、ナノマシンを異物だと感知した身体が、免疫反応を引き起こし、交感神経を過剰に刺激してしまう。

 これが実に曲者でね……長期的に服薬すると、被験体の大半が精神的に憔悴し切ってしまって……ついには中止するにまで至ったんだ」


 そう語っていた雨津星さんが、真っ直ぐ、信念の宿った瞳で、俺を見据える。


「だが、君は《ヒューマネスト》と対峙していながら、その戦闘時の動きは冷静そのものだった。

 その並外れた精神力ならば、この抑制薬の長期的な被験体として、最も成功率が高い……そう判断した。

 つまり俺と君の関係は、ギブアンドテイクのウィンウィンということだな!」


 そう豪快に笑う雨津星さん。


 彼が俺を、特殊(とくしゅ)構成員(こうせいいん)というポストに引き入れたかったのは、《ヒューマネスト》単独撃破の戦闘実績も加味しているかもしれない。


 だが、それとは別に、抑制剤の被験体として役立てるためでもあったのだろう。


 お人好しなだけでなく、その実は、海千山千の切れ者。


 伊達に、〈A.E.G.I.S(イージス)〉という組織の主任を任されてはいない、ということか。


「……いくつか、確認したいことがありますが、いいですか?」


「もちろん。

 これから突然、謎の薬を服用させられるかもしれないんだからな。納得のいくインフォームド・コンセントはするつもりだ」


 雨津星さんの了承も得られたので、俺は気になる点を、一つずつ確認していく。


「その薬の効果は、具体的にはどういうものですか?」


「〝《ヒューマネスト》化現象〟の発症を抑える、あるいは遅らせることは、現状でも立証済みだ。

 ただ、根本的な治療薬とはならないだろうな……いわば、風邪薬みたいなものさ」


 ……成程。


 完全な対策と言う意味では、やはり機械化手術の方が軍配が上がるわけか。


「……いっそ、全人類を機械化してしまえば、《ヒューマネスト》はこれ以上現れない――そんな極論もある。

 だが、その実現には、膨大な費用と時間が必要だ。

 だから、今はまだ、構想の段階にも至っていない。まさに机上の空論、絵に描いた餅さ」


「……つまり、この抑制薬は、それまでの〝時間稼ぎ〟のためのもの……ということか」


 〝トガビト〟――〈アフターエリア〉に住む人間にも、機械化手術の実施や、抑制薬の臨床実験を受けさせない理由が、なんとなく見えてきた気がする。


 おそらく現在の政府は、数年、数十年かけるような長期的な目で、人類が生存する道を選んでいるのだろう。


 身を削って多くを救うより、少ない出費で少数を救う方が……確かに堅実な話ではある。


 だから奴は――あの〝鎧野郎〟は、俺達を追放した。生きる資格さえ、最初から剥奪した。


 犠牲になっても痛手にならない人達を、姥捨(うばす)て山《やま》に置き去りにするみたいに……。


「――さて、夏神(なつみ)君。

 俺からスカウトしておいて何だが、本当に後悔はないか? 辞退するのなら、今の内だぞ?」


「……ご冗談を。

 あれだけ機密報をベラベラと話してくれた時点で、俺をノコノコ返すつもりなんてないんでしょう?」


「お、流石だな! 

 俺の目に映る、君の瞳……そしてそこに宿る決意の炎は、確かに本物だ。

 『今更何を聞かされようと、俺の心が臆(おく)することなど、決してない』……そう叫んでいるようにさえ見えるほどに、な。

 そう判断したからこそ、俺は君に、全てを話した。

 俺は今この時点で、もうすでに、君のことを仲間として認めている。

 だからこそ、俺の期待を裏切ることだけはしないでくれよ?」


「……はい。善処します」


 何はともあれ、この抑制剤とやらを飲まない限り、俺の未来への道は途切れたままだ。


 覚悟を決め、盃(さかずき)の酒を飲み干すかのように、小瓶に満たされた液体を一気飲み。


 ……なぜか、薬草のような風味が鼻に抜け、口の中が痺(しび)れる不快感に襲われる。


 だが、良薬は口に苦し、と頑張って飲み込んだ。


「おおっ、なかなかの飲みっぷりだな!」


 雨津星さんは、にこやかにそう言っていたが、褒められている気がしない。


 ……この人、多分天然とかそういうのじゃなくて、〝いい性格〟している人だよな……。


 ふと唐突に、そう思った。


-----------



<次回予告>


≪――かくして俺は、雨津星さんと共に、一枚の鋼鉄の扉を前に立っていた。

 それは、〈狭間交信局〉の終わりであり、〈御門大江戸〉の始まりを告げる扉。≫


≪再誕した故郷(こきょう)の景色を目にした時――俺は、言葉を失った。≫


「今の君の目には、かつての故郷は、どう映る?」


次回――Episode 30 :【〝理想郷〟という名の〝虫籠(むしかご)〟】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。