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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 28 :【灰色の死の大地】

 それで、ここからが本題なんだが……。


《E.A.E(イー・エー・イー)》の活性化は、特殊加工された機械部品を肉体に埋め込む(あるいは肉体と同化させる)ことによって、無効化されるという。


 それ故(ゆえ)、〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉に住む人間――〝ノーマル〟に分類される人間は、環境に適応するために、肉体の一部を機械化することを、義務付けられているようだ。


「《ヒューマネスト》の本当の脅威(きょうい)は、その強大な力じゃない。

 『人間がいる限り、奴らが絶滅することはない』という性質その物だ」


そう言った直後、雨津星《あまつぼし》さんの表情に、影が差す。


「……ところで、唐突に話題を変えてしまうが……。

 夏神《なつみ》君。君は今、海の向こう側の国々で、何が起こっているか……知っているか?」


 ……本当に、唐突に話題が変わった。


 さっきまでの内容と、特に繋がりも感じられないが――雨津星さんの顔つきは、ただならぬものだった。


「……《DD(ディー・ディー)》の惨劇(さんげき)が起こった直後こそ、、報道機関は、マトモに機能していませんでしたが……〝ネスト速報〟のおかげで、最低限必要な情報を知ることはできています。

 ただ、そのサイトでは、〈アフターエリア〉内以外での話題など、一切出てこなかった……と記憶しています。

 まあ、俺を含めた〝トガビト〟は、その日その日を生きることに精一杯で……海の向こう側の事情なんて、考える余裕などありませんでしたが……」


「……それもそう、だな。すまない、無神経なことを聞いてしまった。

 恥ずかしい話だが、俺も〈アフターエリア〉の内情や状況を、全て把握できているわけじゃない。

 何せ、〈アフターエリア〉と一括(ひとくく)りで言っても、実際は東京都以外の都道府県のことだからな……。

 だからこそ、規約通りに報道規制を実施しているか、改めて確認したかったのだが……君には無関係な話だったな。忘れてくれ」


「あ、いえ……」

 

 ……《《報道規制》》というのは、どういう意味だろう。


 規制すべき情報……というと、色々と思い付くが、それになぜ〝海の向こう側の事情〟が該当する? 


 これまでの情報を整理すると、〝ネスト速報〟が今日(こんにち)まで、そういった話題に一切触れなかったのは、「《《意図的に》》報道することを禁じていた」ということになるが……?


「……おっと、すまない。話題を逸らしてしまった上、余計な情報で、君をこんがらがせてしまったな」


 そう言って煎茶(せんちゃ)を一口啜(すす)ると、雨津星さんはようやく、本題を話し始めた。


「この話は、一度世間に知られてしまえば、さらなる大混乱は免(まぬが)れないだろう……。

 俺は君のことを、一人の人間として、信頼している。

 だから、今から話す内容は、決して口外しないように、約束してほしい」


「……もちろんそうしますが……。

 会ったばかりの人間を、そこまで信頼するのは……」


「大丈夫だ! 俺の勘が、『君は信頼できる人間だ』と、叫びまくっているからな!」


 真剣な顔つきから一転して、ハッハッハと豪快な笑い声をあげる雨津星さん。


 ……ほんの一瞬だけ、「この人、本当に大丈夫か?」と、そう思った。


「正確に言ってしまえば、『そもそも報道することができる状況じゃない』……ということになる。

 何せ、現在の諸外国、特にヨーロッパ諸国あたりは――《《人が住める状態》》じゃないからな」


「……それは、《DD(ディー・ディー)》や《ヒューマネスト》によって、壊滅状態になってしまった……ということですか?」


「……事態は、もっと最悪だ」


 俺の思考が、一歩遅れてついていく。


 最悪……? 俺が考えたこと以上に……?


「――俺の同僚(どうりょう)に、コンピューターとか、そういうのに明るいのがいるんだ。

 彼は、現在の世界情勢を知ろうと、衛星データを通して、様々な調査を行ったんだ。

 その結果――ヨーロッパ諸国周辺で、生物が生息できるはずもないほどの……《《放射能汚染》》が、確認されたそうだ」


「――――はっ?」


 言葉を失う俺に、雨津星さんは、重苦しい表情のまま言葉を続ける。


「……同僚が調べた、衛星映像……俺も見たんだ。

 一言で言えば――灰色の、死の大地だった。

 倒壊した廃墟(はいきょ)が点在するだけで、生き物の痕跡なんて、欠片もない。

 ……あんな光景を見たのは、初めてだったよ」


 ……目は口ほどに、物を言う。


 雨津星さんの語っている言葉が、何を意味しているのか……俺は、嫌というほど、理解できてしまった。


「……そ、それは、つまり……《ヒューマネスト》を一気に滅ぼすために、核ミサイルが発射された……ということですか?」


「……ああ。

 どこの国が核兵器を使用したのか、何発発射されたのかは、不明だがな」


「そんな、馬鹿なことが……! 

 確かに《ヒューマネスト》の存在は、脅威的(きょういてき)なもの……そんな奴らを滅ぼすため、核兵器の使用を脳裏にチラつかせた人間がいるのも、理解はできます……。

 しかし、実際に核兵器を使うとなったら、話が変わってくる!

 そんな……そんなこと……!」


「現状、我が国は他国のために〝フレンド〟を派遣して、事実確認ができるほどの、余裕はない。

 比較的環境が恵まれている日本(ここ)ですらそうなのだから、あちら側は、言わずもがなだろう。

 ……その事実を知ってか、知らずにか……ともかく、だからこそこの日本は、〝攻め〟ではなく〝守り〟に徹した。

『《ヒューマネスト》による特殊災害を、最小限に抑えられる環境を維持し続けることが、人類存亡の最善の方法だ』という結論を出したんだ。〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉が、まさにその象徴さ。

 ……まあ、その政策も、色々と物議を醸(かも)したがな」


 そう語り終えた瞬間、雨津星さんの顔つきが、苦虫を噛み潰したような表情に変わる。


 その顔つきから、明らかに触れてはいけない領域の話なのだと、察せられる。


 ……この人は、俺とは違ったベクトルで、重く凄惨(せいさん)な過去を生きてきたんだな。


 何だか、雨津星さんとの心の距離が、また少し、近付いていった気がした。


----------

<次回予告>


「雨津星さんが特例として、手術を受けずに入国させてくれるらしい」


「ある程度の臨床(りんしょう)試験(しけん)を終え、十分な効果も期待できる代物ではあるんだが、実用化に向けて開発を進めるには、まだ実験データが足りないというのが現状だ」


「何はともあれ、この抑制剤とやらを飲まない限り、俺の未来への道は、途切れたままだ」


次回――Episode 29 :【誓いの盃(さかずき)】

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