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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 27 :【〝異形の怪物〟と〈御門大江戸〉】

「――ところで、どうして機械化手術とやらをする必要があるんですか?」


 今更すぎるほど素朴な疑問をぶつけてしまったが、雨津星(あまつぼし)さんは嫌な顔一つせず、相変わらずの笑顔で答えてくれた。


「ああ、それはな、《E.A.E(イー・エー・イー)》対策のために必要なんだ! すごくザックリ言えば、予防接種みたいな感じだな!

 ただし、『ワクチンで〝適応する身体〟にする』というより、『《《最初から罹患しない身体》》に変える』……という感じかな!』


 ……あまりピンとは来ないが、それでもなんとなく、そこまでしなくてはいけない理由が、見えてきた気がする。


「……その、《E.A.E》というのは?」


「《E・A・E》――正式名称は、《|異能進化促進特殊因子《エヴォリューショナル・アドバンスド・エレメント》》〈Evolutional-Advanced-Element〉。

 これは、《ヒューマネスト》の肉体や特殊能力の源になっている、特殊な因子……らしい! 

 ぶっちゃけた話、俺もある程度しか把握していないが、それでも構わないかな?」


「……まあ、頑張って理解します」



 雨津星さんが説明してくれた《E.A.E》――《異能進化促進特殊因子》の概要。


 それを要約すると、以下の通りになる――。



 ――《E.A.E》とは、《2050(ニーゼロゴーゼロ・)DD(ディザスター・デイ)》の惨劇(さんげき)の時に、世界中を覆い尽くした、あの〝破滅(はめつ)の閃光(せんこう)〟そのもの。


 それは、観測史上初となる、未知のエネルギー体が結集したものであり、現在では〝光の粒子〟として空気中に残留している。


 つまり、酸素や二酸化炭素などと同様に、全世界の大気中に、今もなお存在しているという。


 その光の粒子に含まれたエネルギーは、雨津星さんの言葉を借りれば、「特殊な病原菌みたいなもの」に例えられる。


 その《E.A.E》に、俺を含めたほとんどの人間は、すでに〝適合〟しているのだという。


 逆に、適合できなかった人間は、どうなるのか?


 体内に取り込まれた《E.A.E》が異常に活性化し、急激に代謝能力を促進。


 その変化に肉体が耐えられず、細胞が死滅し――やがて、完全に消滅してしまう。


 ……それが、現時点で世界政府が把握している、《E.A.E》の性質らしい。


 しかしながら、まだ判明していない事実、不明な点も多数ある。


 たとえば、なぜ俺と母さんは適合できて、父さんは適合できなかったのか。


 ……その適合・不適合を分ける、明確な要因や共通点は、未だに解明されていないという。


 さらに深刻なのは、《E.A.E》が何らかの原因で、暴走状態になるケース。


 その暴走によって〝肉体の急激な成長〟という異常進化が引き起こされ、人間としての姿を失った存在――。


 それこそが、《ヒューマネスト》と定義される、怪物達の正体なのだという。


 もちろん、この事実は、一般市民には一切知らされていない。


 というより、《《絶対に公開してはならない機密事項》》として、国家レベルで封印されているらしい。


 それもそのはずだ。


 今でも世界情勢は、混乱の最中にある。


 それなのに、もし「自分自身や家族さえも、ある日突然、バケモノになるかもしれない」などという真実が知られてしまえば……。


 この世界は、本当に取り返しのつかない地獄になってしまう。


 知らない方が幸せな真実、というやつだ。


 ……やはり、音葉(おとは)だけが、例外だったわけじゃない。


 俺が倒した巨大蜂(きょだいばち)も、5年前に家を壊した巨大(きょだい)蜘蛛(グモ)も、誰かが《ヒューマネスト》に変貌した成れの果てだった……ということになる。


「……その反応を見るに、君は……この事実を、すでに知っていたようだな」


「……ここに来る前、知り合った女の子が……俺の目の前で、《ヒューマネスト》に変わりました」


「……そうか。それは……とても、辛い経験だったね。

 しかし、君は今、こうして生きている。

 酷なことを聞いてしまうが……君は、その女の子を……」


「……はい。殺しました。この手で、確かに。

 子供達を守るためとはいえ、彼女を殺してしまったことは……正直、今でも後悔が絶えません」


 ……結局、俺はあの子達に、音葉の遺品の一つも、遺してあげることはできなかった。


 亡骸(なきがら)も残らず、悍(おぞ)ましい怪物として、その最期を遂げた――。


 その事実に、心が痛まない……といえば、嘘になる。


「……ですが、その正体が人間であろうと、俺にとって《ヒューマネスト》という存在が、〝人類を脅(おびや)かすバケモノ〟であり、それ故(ゆえ)に〝倒すべき存在〟であるという考えは、変わりません。

 ……残酷《ざんこく》だとは思います。

 でも、そう思い込まなければ、きっと俺は、戦えなくなる。

〝世界を変える英雄〟として歩み出したからには……為すべきことを為すために、俺は……非情であり続けなければ、いけないのだから……」


「……そうか」


 俺の言葉に、雨津星さんは、ただただ黙って、受け止めてくれた。


 俺にとっては、それだけで充分だった。


 「〝話す〟は、〝離す〟」。


 心の奥に抱えていた重い感情を口にすることで、少しだけ、心と身体が軽くなったような気がしたから。


 ――要するに、《E・A・E》というのは、〝空気に溶けた未知の病原菌〟のようなものだ。


 俺達はもう、それを体内に取り込んだ状態で、生きている。


 正確には、適応できた者だけが生き残り、適応できなかった人間は、あの日――〝破滅の閃光〟と共に、消滅した。


 あの出来事は、いわば〝淘汰(とうた)〟とも言えるものだったのだ。


 誰かに選ばれたわけでも、選ぼうとしたわけでもない。


 それはまるで、感情も意思も持たない自然現象のように――ただ、人類を篩(ふるい)にかけた。


 残されたものと、そうでない者に――。



 ----------

<次回予告>


「夏神(なつみ)君。君は今、海の向こう側の国々で、何が起こっているか……知っているか?」


「俺を含めた〝トガビト〟は、その日その日を生きることに精一杯で……海の向こう側の事情なんて、考える余裕などありませんでしたが……」


「この話は、一度世間に知られてしまえば、さらなる大混乱は免(まぬが)れないだろう……」


 次回――Episode 28 :【灰色の死の大地】

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