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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 26 :【心を見透かす、龍の瞳】

「…………俺が……恐れている、だと……?」


 呼吸と共に、思考が止まる。


 普段は気にも留めない《HERO(ヒーロー)》が、なぜだかとてつもなく重く感じる。


 ……馬鹿な。そんなことは、有り得ない。


 俺は世界を変えるために、《HERO(ヒーロー)》を使い熟すために、粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)の努力を重ねてきた。


 斎賀(さいが)先生という力添えこそあったけど、ここまで来れたのは、俺自身の意思の力だ。


 そんな俺が、何を恐れているというんだ……?


「人間の最大の攻撃表現とは、〝拒絶(きょぜつ)〟だ。

 その行動原理の根幹にあるのは、〝受け入れることへの恐怖〟だと、俺は思う。

 ホラー映画なんかで、真っ先に死ぬような人間が、いい例だな。

 心が怯えているから、人の話も聞けないし、状況を正しく判断することができない」


 雨津星(あまつぼし)は、こんな状況下にもかかわらず、悠々と煎茶(せんちゃ)を啜(すす)っている。


 しかし、その群青色《ぐんじょういろ》の瞳は、変わらず俺を鋭く見据えている。


「……君は、何も知ろうとせず、受け入れようとしないまま、強い憎しみと敵対心だけで動いている。

 俺から見れば、何かを必死に拒絶したくて――自暴自棄になっているとしか思えない」


「っ……!!」


 右手が震えだす。


 それは怒りか、動揺か。


 ともかく、照準は定まらず、手に力が入らない。


「自暴自棄……?

 受け入れることを、恐れているだと……?」

 

 次の瞬間には、怒鳴り声が、口を突いて出た。


「ふざけるな!! アンタに、俺の心が、分かってたまるか!!

 あの《DD(ディー・ディー)》の惨劇(さんげき)で、俺の両親は死んだ!! 

 父さんは、なんの心構えもないまま、突然消えて……!! 母さんは、何も悪くないのに、最期(さいご)の最期(さいご)まで、俺に謝りながら、死んでいったんだ!!」


 唇を噛み、拳を強く握るが、それでも感情の波は抑えられなかった。


 気付けば、目から涙が零れ落ちていく。


 どれだけ必死に堪えようと、溢れて止まらない。 


「そんな……そんな残酷な現実を拒むことが、〝自暴自棄〟だって言うのか!? 

 ふざけるなっ……そんなこと、俺は絶対に許さない……!!」

 

 ――これではまるで、駄々をこねる幼子(おさなご)じゃないか。


 分かっている。頭ではそう分かっていても、どうしても心がついて来ない。


「……そういえば、君がなぜ〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉に入国したいのか……その理由を、まだ聞いていなかったな」


 煎茶を飲み干した雨津星が、ふと話題を変えるように、静かにそう言った。


 その声色は優しく、けれど決して同情ではない、真っ直ぐな〝関心〟だった。


「せっかく、お茶も淹れたんだ。俺で良ければ、話してほしい」


 雨津星は終始動揺せず、穏やかな口調・精神のまま、静かに問いかけてくる。


 そんな彼の態度に、俺は思った。


 ――この人には、勝てない。


 それは、力量の強さの話じゃない。


〝人を受け止める力〟で、俺はこの人に、完膚なきまでに敗れたのだ。


 だからこそ俺は、大人しく《HERO》を、まだ震える手でホルスターに戻す。


 そして、その重さから解放された俺は、ぽつぽつと、少しずつ、言葉を紡ぎ始めた。


 この場所に至るまでに起きたこと。


 言葉では語りつくせないほどの、喪失、怒り、決意……その全てを。


 雨津星《あまつぼし》は、一言一句を聞き逃さないように、真剣に俺を見つめていた。


 途中で遮(さえぎ)ることも、水を差すこともしない。


 ただ、静かに頷きながら、俺の言葉を受け止め続けてくれた。


 ――なぜ、俺はこの人に、こんなにも素直に、心を打ち明けることができるのだろう。


 自分でも、理由はよく分からない。


 けれど、ハッキリと言えることが、一つある。


 それは、「俺は今、久しぶりに心の内を開いた」ということ――。


 斎賀《さいが》先生にさえ、俺は本音をぶつけたことはなかった。


 〝世界を変える英雄〟になるために、俺を鍛え上げてくれる存在――そんな先生に対して、弱音を吐くことはしたくなかったのだ。


 だからこそ、『初対面だろうと、雨津星に――いや、《《雨津星さん》》に対して、こんなにも心の内を曝(さら)け出(だ)せた』という体験は――言葉にできないほどの、〝救い〟だった。



《――「ねぇ、夏くん。

 〝話す〟ってことはね? 〝離す〟ってことと、同じなんだよ。

 悲しいことや、苦しいことがあった時、それを誰かに話すことで、その悲しみや苦しみが、自然と心から離れていくの。

 だから夏くんも、嫌なことや辛いことがあった時には……我慢なんかしないで、ママやパパにちゃんと話してほしい。

 それが、夏くんにとっても、ママやパパにとっても、一番幸せになれる方法だから。ね?」》



 子供の頃、俺は余計な心配を掛けまいとして、いつも強がってばかりいた。


 そんな俺に、母さんが教えてくれた言葉を思い出した。


 そして今になって――その言葉の意味が、ようやく分かった気がする。


「――そうか……まだ若いのに、辛《つら》かっただろう。

 よく頑張ったな。話してくれてありがとう」


 全てを話し終えた時、雨津星さんは、優しい笑みを浮かべて、そう言った。


 その一言が、胸にじんわりと染み渡る。


「〝世界を変える〟――大きな夢かもしれないが、亡くなられた両親を想い、夢に突き進む。そんな君の気高い精神に、俺は心から敬意を表したい。 

 俺で良ければ、君の手助けをさせてほしい。それこそが、大人の役割というものだからな」


 笑顔で、真っ直ぐに、そう言ってくれた雨津星さん。


 その言葉に、心の奥が、ふわりと温かくなった。


 ……ああ、この人と出会えて、良かった。今なら、素直にそう思える。


「……ありがとうございます、雨津星さん。

 そして……先程までの非礼、申し訳ありませんでした」


「いやいや、そんな頭を下げることはないさ。君の本心を聞けたこと、俺は嬉しく思っているよ。

 だから今回は――これでチャラってことにしよう!」


 そう言って差し出された、大きく ごつごつとした機械の手。


 それはまるで、彼の人間としての懐の深さそのものを表しているようだった。


「……はい。ありがとうございます」


「うん! 少々グダついたりもしたが、これで俺達の信頼関係は成立だな! 

 ……あーっと、すまない。ところで、君の名前は?」


「……今更ですね。

俺は、蓮元(はすもと)夏神(なつみ)。

世界を浄化する、地獄で咲いた一輪の花……それが、俺という人間です」


「……? 最後のはよく意味が分からないが――よろしくな! 夏神君!」


 ……無邪気というべきか、天然というべきか。


 そんな調子の雨津星さんと、俺はしっかりと握手を交わした。


 ……胸の奥に、込み上げるような恥ずかしさを感じながらも。


-----------

<次回予告>


「――ところで、どうして機械化手術とやらをする必要があるんですか?」


「ぶっちゃけた話、俺もある程度しか把握していないが、それでも構わないかな?」


≪――それこそが、《ヒューマネスト》と定義される怪物たちの正体なのだという。≫


次回――Episode 27 :【〝異形の怪物(ヒューマネスト)〟と〈御門大江戸〉】

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