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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第三章 | 【Third Story of the Babies:《超常異能現象防衛機関・〈A.E.G.I.S〉》

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Episode 24 :【〝雨津星龍雅〟という男】

 ――〈狭間(はざま)交信局(こうしんきょく)〉の内部には、武装した治安維持型が、ずらりと配置されていた。


 そのどれもが、敵意を宿した視線……いやレンズを、俺に向けていた。


 本来、人類に貢献することを目的に作られたはずの、機械人形(ロボット)。


 それが、たとえ、そういう思考がプログラムされているとはいえ――奉公の対象である人間(おれ)を、邪険に扱っている。


 だが、睨まれているだけ、まだマシとも言える。


 なぜなら、この世界では、治安維持型達に捕らえられ、重い処罰(しょばつ)を受けた人間が、一定数いるからだ。


 しかし、それ以上に恐ろしいのは――「そんなフレンドよりも、《2050(ニーゼロゴーゼロ・)DD(ディザスター・デイ)》の惨劇(さんげき)で誕生した《異形の怪物(ヒューマネスト)》の方が、はるかに脅威(きょうい)である」……。


 そんな価値観が、もはや世界共通の認識となっていることだ。


 かつては、「人工知能が技術的特異点(シンギュラリティ)を迎え、人類の知能すら超えてしまった時、我々人間の生活に、どんな変化が生じるというのか」と、名だたる学者たちが、頭を悩ませていた。


 今となっては、そんな議論すら微笑ましく思えるほど、この世界は変わってしまった。


 つまり、今俺が「フレンドに睨まれている」という状況こそが、この異常な世界の縮図だと言えるのかもしれない。


 ……とはいえ、今の俺の関心は、そんな機械人形などではない。


 視線が向かう先にいたのは、目に映る全てが、印象的な男だった。


 190cmはゆうにある長身。筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)な体格。鬣(たてがみ)のような栗色の髪、勇ましい群青色(ぐんじょういろ)の瞳。


 他に人は見当たらない。


 ということは、先程監視カメラ越しに会話していた相手は、どうやらこの男らしい。


 あのときの印象よりも、実物はずっと貫禄があるようにも見えるが。


「ようこそ、〈狭間交信局〉へ!

 ……と言っても、俺はここの人間じゃないがな!」


 高校球児のような屈託のない爽やかな笑顔。


 爽やかすぎるその第一声に、一瞬言葉を失う。


「じゃあ、どこの誰なんだ」という疑問はあったが、今は雨に打たれていた不快感の方が勝る。


 なのでまずは、手渡されたタオルで、濡(ぬ)れた髪や身体を拭くことに集中する。


 そんな俺の様子などお構いなしに、男は豪快な声で話しかけてくる。


「俺は、雨津星(あまつぼし)龍雅(りゅうが)! 〈A.E.G.I.S(イージス)〉という組織の、主任を任されている!

 年齢は35歳! 用件は、君のスカウトだ!」


 誇らし気に腕を組みながら、男――雨津星龍雅は、さらに言葉を続ける。


「ここにいるフレンド達の報告を聞いて、驚いたよ。

 君は《ヒューマネスト》を単独で撃破したらしいね? それも生身で!

 それが本当なら、〈御門(みかど)大江戸(おおえど)〉史上……いや、人類史上初の快挙だ!

 早速、証拠の動画を見せてくれ!」


 突然の展開に少し戸惑うが、ようやく本題に辿り着いた気がした。


 俺は証拠の動画を表示した状態で、彼に〝Future-Phone〟を渡す。


 再生中、「おお!」「むむ!」などとリアクションを挟みながらも、雨津星は内容に見入っていた様子だった。


「いやはや、凄い! 画面の揺れには酔ったが、それ以上に、君の天才的な戦闘センスに、酔(よ)いしれたよ!」


「……どうも」

 

「君のような逸材を、放っておく手はない!

 早速、〝特殊(とくしゅ)構成員(せいいん)〟として、契約を――」


 勝手に話を進め、さっさと踵を返したその瞬間、俺は「ちょっと待て」と声をかけ、雨津星の腕を掴んだ。


 その感触は、脂肪でも筋肉でもない。妙に冷たく、硬質な感触。


 それは、まるで、《《《HERO》を握っている時のそれ》》に近い――。


「む? どうした?」


「……その〈A.E.G.I.S〉っていうのはなんだ。説明しろ」


 腕の正体も気になるが、今はそれは後回しでいい。


 重要なのは、『この雨津星という男が、信用に足る存在かどうか』だ。


 だからこそ、俺は視線に力を込め、真っ直ぐその顔を見据える。


「ああ、確かにそっちが先だな!

 なら、せっかくだし、お茶でも淹(い)れよう!」


 まるで気にも留めずに、眩しいほどの笑顔で承諾した雨津星。


 そんな雨津星が慣れた手つきで、机や茶器を用意し、ほんの数分で簡素な茶の間を完成させてしまった。


「ささ、グイーッとやってくれ!」


「……お酒みたいに言うなよ」


 差し出された煎茶(せんちゃ)は、濁(にご)りがない澄んだ緑と、穏やかな香り。


 機械人形(フレンド)が屯(たむろ)する無機質で堅苦しい空間でも、心が安らぐ力を持っている。


 俺でもわかる。明らかに〝ついで〟で出せるような代物ではない。


 そんな、高級感あふれる お茶を静かに啜(すす)りながら、雨津星はようやく、〈A.E.G.I.S〉という組織の全貌を、語り始めた。



「――〈A.E.G.I.S〉とは、〈御門大江戸〉政府直属の組織だ。

 正式名称は、超常(ちょうじょう)異能現象(いのうげんしょう)防衛機関(ぼうえいききかん)、〈Advanced Extraordinary Guardian Initiative Society〉――その頭文字を取って、〈A.E.G.I.S〉だ。

 〝イージス〟というのは、ギリシャ神話に登場する盾を指す」


「……つまり、《ヒューマネスト》から〈御門大江戸〉を守る、盾の如(ごと)き組織……ってことか」


「その通りだ! 話が早くて助かる!」


 真剣な顔をしたかと思えば、すぐに柔らかく笑う。感情表現が忙しい男だ。


「主な任務は、《ヒューマネスト》の迎撃(げいげき)と、〈御門大江戸〉の治安維持。

 ここにいるフレンドのように、〈アフターエリア〉の警邏(けいら)なども含まれているが……基本的には、〈御門大江戸〉に鎮座(ちんざ)する形だな」


「……ざっくり言えば、警察と軍隊を掛け合わせた組織ってことか」


「かなりざっくり言えば、な!

 俺を含む〝特殊構成員〟は、〈御門大江戸〉の治安維持を主目的として、行動する。

 いわば、最後の砦(とりで)を任されているということだな!」


 誇らし気に胸を張る雨津星。


 この男に、その自信に見合うだけの実力があるかはさておき、嘘を吐《つ》いているようには見えない。


「……それじゃあ、アンタの目的は、俺をその特殊構成員とやらにスカウトする……ってことか?」


「その通りだ!

 実際に特殊構成員になるには、いくつかの手続きが必要になってくるが……全ては、君の返答次第だな!」


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挿絵(By みてみん)

(雨津星(あまつぼし) 龍雅(りゅうが))


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<次回予告>


≪雨津星の説明を一通り聞いた時、俺の脳裏に浮かんだのは、一つの言葉だった。≫


「……ちょっと待て。なんでそんな手術が必要なんだ。

 俺は、組織に入ると言っただけだぞ」


「この身体は、母さんがお腹を痛めてまで産んでくれた、唯一の形見だ。

 お前らの勝手な都合で……メスを入れていいものじゃない」


 次回――Episode 25 :【交渉決裂……?】

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