Episode 23 :【運命の地、〈狭間交信局〉】
(――ここが、〈狭間交信局〉……か)
俺は、ついに辿り着いた。
〈アフターエリア〉と〈御門大江戸〉を隔絶する境界線――〈狭間交信局〉に。
目の前に聳え立つのは、ハニカム構造を持つ、わずかな隙もない電磁結界に覆われた、巨大な鋼鉄の壁。
それは、爪先立ちをしても、頂上など見えやしない。
まるで、空に突き刺さる鉄の城だ。
「……っ……」
込み上げる怒りを押し殺せず、思わず拳を強く握り締める。爪が手のひらに喰い込み、痛みが滲む。
昔、俺と母さんが〈御門大江戸〉の避難施設で暮らしていた頃には、こんな鋼鉄の壁はなかった。
そもそも、すでに展開されていた電磁結界だけでも、充分に防衛力はある。
だから、こんな物理的な壁をわざわざ築く意味など、本来ならまったくないはずだ。
……きっとこの壁は、〝守るため〟のものじゃない。
これは、〈アフターエリア〉で生きることを強いられた、俺達〝トガビト〟を――ただ拒絶するためだけに造られたものなのだろう。
邪推かもしれないが、そう考えるのが、一番腑に落ちる。
……ふざけるな。
こんな無駄なものを造る時間と労力があるのなら、もっと多くの人を救えたはずだ。
なのにお前らは、どうしてそうしなかった?
俺達には、救われる価値すらないとでも言いたいのか?
『――警告。警告。
それ以上の接近は、許可されていません』
境界線――そこには血文字のように刻まれた文字がある。
『人間以下ノ存在、立チ入リヲ禁ズ』。
赤く滲んだその文字を踏み越えた瞬間、機械的な警告が響いた。
おそらくは〝フレンド〟――それも、治安維持型による言葉だろう。
ふと視線を上げると、巨大な鉄の壁に組み込まれている監視カメラが、俺の一挙一動を捉えている様子だった。
「ここに来れば、〈御門大江戸〉に入国する権利が貰えると、聞いたんだが」
『〝トガビト〟である貴方に、入国の権利はありません。
速やかに退去してください』
予想通りの応答。
しかし、俺は一歩も引かず、真っ向から反抗してみせる。
「悪いが、俺はここで引くわけにはいかない。押し通らせてもらうぞ」
『速やかに退去してください。
命令に従わない場合、処罰の対象となります』
「……取り合う気もないのか?
そうやってお前らは、何も考えず、邪魔なものを排除し続けるのか。
最近のフレンドは、昔よりAIの思考力が劣化しているみたいだな」
『黙れ! 貴様のようなゴミクズなど、まともに取り合う価値もない!
即刻立ち去らなければ、貴様を二度と歩けない身体にしてやる!』
俺の批判が、逆鱗に触れたのか。
抑揚のない口調や声色は消え、代わりに怒鳴るような粗暴な言葉に変わる。
「そういう風に学習・改造されているだけ」だとしても、機械にここまでの言葉を言われるのは、あまりいい気分ではない。
「……埒が明かないな」
俺は〝Future-Phone〟を掲げ、壁の向こう側にいるであろう相手に向けて、言葉を続ける。
「この中には、俺が《ヒューマネスト》を撃破した映像が、録画されている。それも、単騎かつ生身で撃破したものだ。
少々特殊な拳銃は使ったが、それでもあの怪物を倒せた人間なんて、俺以外にいないはずだ」
少し誇張した言い方だが、事実に近い。
だからだろうか。その発言を聞いた途端、監視側のフレンドが、明らかに動揺した。
『……デタラメを言うな。
《ヒューマネスト》は、我々治安維持型が複数体であたっても、制圧困難な対象だ。
そんな怪物を、貴様ごときが……!』
「デタラメかどうかは、この動画を見てからにしてほしいが」
軽く言い返すと、監視カメラの向こうで、ざわめきが起こる。
機械越しでもわかるほどの、動揺。まるで生身の人間のように慌てふためいていた。
……しかし、まさかそのまま、何十分も放置されるとは思わなかった。
いつしか再び降り出した雨は止まず、身体が芯から冷えていく。
警告音が無駄に大音量で響き続けているせいで、イライラは募る一方だ。
いい加減に、我慢の限界だ。
「……ッ! おい! いつまで待たせる気だ!」
堪忍袋の緒が切れた俺は、監視カメラに向かって、怒号を上げる。
しかし次の瞬間――。
『ハハハッ! ずいぶんと威勢がいいじゃないか! 若さと活力を感じるぞ!』
応答してきた声が、これまでの機械音声とは、ガラリと変わっていた。
声の特徴から察するに、20代後半くらいの若い男だと思われる。
『この度は、うちの治安維持型が無礼を働いたようで、本当に申し訳ない!
彼らの人格AIは、俺如きの管理IDでは修正できなくてね。スペックは確かだから、そんな彼らに頼らざるを得ないんだが……』
饒舌に語るその声は、良く言えば元気ハツラツだが……悪く言うと、物凄くうるさい。
『おっと、関係ない話をしすぎたな。
ともかく、お詫びとして、とりあえず〈狭間交信局〉への立ち入りを許可しよう!』
その言葉の数分後――電磁結界に一人分の隙間が生まれ、鋼鉄の壁が、まるで自動ドアのように開かれる。
こうして俺は、ようやく〈狭間交信局〉の内部へと、足を踏み入れたのだった。
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<次回予告>
「ようこそ、〈狭間交信局〉へ!
……と言っても、俺はここの人間じゃないがな!」
「俺は雨津星龍雅!
〈A.E.G.I.S〉という組織の、主任を任されている!」
「君のような逸材を、放っておく手はない!
早速、〝特殊構成員〟として、契約を――」
次回――Episode 24 :【〝雨津星龍雅〟という男】




