Episode 19:【それは、誰にでも起こり得る惨劇《げんじつ》】
――ドゴォオオオオオオンッ!!!
――突如、突風か、あるいは爆発の如き衝撃波によって、俺は大きく宙に浮かび上がり、吹き飛ばされてしまう。
(くそっ……!! だが、この程度……!!)
斎賀先生特製の〝電磁結界ジャケット〟のおかげで、何とか意識を保ったまま、受け身を取って安全に着地することができた。
「な……夏神さん!」
「っ……俺は大丈夫だ。だが……」
子供達がすぐに駆け寄ってきたのを見るに、俺は相当な距離まで吹き飛ばされたようだ。
だが、何よりも気に掛けなければいけないのは……音葉の存在だ。
しかし、爆発の影響によってか、アスファルトを濡らしていた雨が蒸発し、その水蒸気によって、視界は霧の中にいるかのように不鮮明だ。
これでは、音葉がどうなったのか、確認することができない。
「みんな、俺のそばを離れるなよ!!
くっ……いったい、何がどうなって――っ!!?」
――ズシン……ズシン……!!
水蒸気の霧の中、大きく地を鳴らす音を響かせながら、巨大な影がこちらに近づいてくる。
その直後、突然に突風が吹き荒れ、霧を吹き飛ばしたことで、俺達はその巨大な影の正体を、すぐに知ることができた。
……いや、《《知ってしまった》》、という方が、正確だろう。
(……音葉……?
いや、違う……あれは……!!)
そこにいたのは、鋭い鉤爪が伸びる鋼鉄籠手を着けた脚と、二又に分かれた尻尾から伸びるキャノン砲が特徴的な、身長7mほどの――黒豹の、《ヒューマネスト》だった。
【グルルルルゥ……!! ギシャアアアアアッ!!!】
黒豹は、耳を劈く咆哮を上げながら、俺達を踏み潰さんと、その巨大な前脚を大きく振り上げた。
「っ――!!」
俺は咄嗟に《HERO》を引き抜き、マガジンにバッテリーを装填。ガシャッと撃鉄を起こす。
――バシュウウウッ!!
そして、黒豹の鋼鉄籠手に覆われていない部位に照準を定め、レーザーを照射した。
【ギジャアアアアッ!!!】
「みんな、今の内だ!!
ここは俺に任せて、早く遠くに逃げろ!!」
黒豹が怯んだ隙に、続けてレーザーを照射して牽制を続けながら、他の子供達に避難を促す。
だが、目の前に《ヒューマネスト》が現れたこと、そして音葉の消息が未だ分からないこと……。
その2つの要素は、まだ幼い子供達から思考能力を奪うには、充分すぎる力を持っていたようだ。
「っ……!! 音葉はきっと、生きている!!
〝TEAM・CATS〟のリーダーは、大好きな君達を置いて、いなくなったりはしない!!
だが、君達が死んでしまったら、音葉を悲しませてしまう!!
今はそれだけを考えて、とにかく逃げるんだ!!」
……俺の叫んだ言葉は、何の判断材料もない、憶測もいいところだ。
普通に考えれば、音葉が無事に生きている可能性よりも、もうすでに……そう考えてしまう方が自然だということは、他の子達も分かっていることだろう。
しかし、憶測だろうと出まかせだろうと……微かな希望に縋り付かなければ、人は生きていくことができない。
たとえその可能性が、限りなくゼロに近くても、わずかな希望を信じること……その心の強さが、生きる力と勇気を与えてくれるのだ。
そんな俺の想いを乗せた言葉を――どうやら3人の子供達は、きちんと受け取ってくれたみたいだ。
「――!! 2人とも、早くこっちに!!」
キョウカが先導役となって、近くのビルの物陰へと、みんなを避難させてくれた……。
それが確認できたのが、何よりの答えだ。
【グルルルルゥ!! キシャアッ!!】
その直後、黒豹は《HERO》を警戒してか、後方へと大きく跳躍し、距離を取る。
奴が唸り声を上げながら、俺の一挙一動を警戒しているその場所は、先程の爆発の痕跡が大きく遺されている場所――。
俺が音葉を、抱き起こした場所だった。
「…………!!?」
――ちょっと待て。
今、あの黒豹が立っている場所が、俺の勘違い・記憶違いでなかったとすれば――音葉は、いったいどうなったんだ?
もしも音葉が、黒豹の餌食になったにせよ、先程の爆発で木っ端微塵になったにせよ……その周囲には、血痕や衣服の切れ端など、何かしらの痕跡が残るはずだ。
だが……そんなものは、一切見当たらない。
まるで、神隠しにでもあったかのように、音葉の痕跡は何一つ、残っていなかったのだ。
それに……この黒豹の《ヒューマネスト》は、いったいどこから現れたんだ?
もし、すでに近くにいたとしたら、〝ネスト速報〟が反応していたはずだ。
だが、ネスト速報からの避難警報は、現在もまだ発令していない。
つまり、この黒豹は、《《たった今、この場所で、》》突然に現れた《ヒューマネスト》だということ――。
「……まさ、か……」
……それは、あまりにも突拍子もなく、荒唐無稽で……できることなら、信じたくない……信じられない考えだ。
だが、もしそれが答えだとすれば――今のこの状況の、全ての答え合わせができる。
(……まさか、ありえない……。
いや、でも……もし、もし本当に、音葉が――)
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<次回予告>
【ギシャアアアアアッ!!!】
(……やるしか、ないのか……!!)
「……音葉……!!」
次回――Episode 20 :【消えた少女の面影】




