Episode 20 :【消えた少女の面影】
――ガウンッ!! ガウンッ!!
「っ!?」
黒豹が、その尻尾の先端に装着したキャノン砲から、爆弾を二発、迸る閃光と共に発射した。
命中は何とか免れたが、爆風に巻き込まれて舞い上がった破片が、頬を掠める。
撒き散らされた黒煙が、瞬く間に視界を奪う。
濃く重い煙が地面を這い、黒豹の姿が闇の中へと溶けていく――。
【ギシャアアアアアッ!!!】
――ビュオオオオッ!!!
空気が引き裂かれるような、鋭い音。
黒煙を裂き、黒豹が疾風の如き跳躍で、襲いかかってきた。
一気に俺との間合いを詰めた黒豹は、その前脚を槍のように突き出して、俺の肉体を刺し貫こうとした。
「くっ!!」
間一髪で回避。
しかしそれは、反射的な動きにすぎず、あまりにも不自然なものだった。
着地でバランスを崩し、大きく体勢を乱してしまう。
視界の端で、橙色の双眸がギラリと輝く。
【ガアアアアッ!!】
「しまっ――」
反応する暇すらなかった。
黒豹は、もう一方の前脚を大きく薙ぎ払い、俺を廃ビルの壁へと叩き付ける。
――ドガアアッ!!!
「がはっ……!!」
全身に重い衝撃が走り、口内で鉄の味が広がる。
斎賀先生の特製ジャケットがなければ、今頃内臓を潰されていたかもしれない。
それでも、身体の奥底まで響く鈍痛が、全身を支配する。
この黒豹の《ヒューマネスト》は、B6地区の巨大蜂よりも、はるかに強い。
跳躍で一瞬にして距離を詰め、尻尾のキャノンで遠距離にも対応できる。
その鋼鉄籠手を装着した前脚から繰り出される攻撃は、スピードもパワーも桁違いだ。
(……やるしか、ないのか……!!)
唯一、勝てる方法があるとすれば……必殺技の、《超新星》モードしかない。
だが、そのモードを起動するには、わずかでも隙が必要だ。
今のこの間合い、そして黒豹に一挙手一投足を凝視されている状況下では……それは、不可能と言っていい。
ほんの一瞬でいい。
奴の意識を、俺から別の何かへと、逸らすことができれば――。
――カツン。
――乾いた音と共に、小さな瓦礫が黒豹の側頭部に当たり、俺の足元に落ちる。
(……!? まさか……!?)
瓦礫が投石されてきた方角へと、視線を向けると――そこには、俺が想像していた通りの光景が、広がっていた。
「マサル!? アンタ、何してるの!?
そんなことしたら、気付かれちゃうでしょ!?」
「そ、そうだよ、マサルくん……! はやく、もどって……!」
「うるせー!! ジャマすんな!!」
道の真ん中で、マサルが荒々しく呼吸をしながら、瓦礫の破片を握り締めていた。
止めようとするキョウカとアラタを振り切って、飛び出してきたのだろう。
「おい、そこの黒猫ヤロー!!
お前、ネコ姉をどうしたんだよ!! 答えろよ!!」
【……グルルル……ッ!!】
低く、しかし確かに怒りを露わにした唸り声が、響く。
黒豹の双眸は、俺よりもマサル達へと、その注意を向けた。
体躯が僅かに沈み、尻尾のキャノン砲に、エネルギーが収束していく。
(――――!! 今だっ!!)
俺は即座に、バッテリーを撃鉄にあるマガジンに装填し、《超新星》モードを起動。
【Warning……Warning……】
《HERO》が、機械音声とアラーム音を奏でる中、俺はグリップを強く握り締め、照準を定めた。
【SUPER NOVA.】
――バシュゥウウウウウウウウッ!!!
銃口から放たれたのは、世界を裂き、視界を埋め尽くすほどの、閃光の奔流。
轟音と共に、超高出力のレーザービームが、黒豹を丸ごと呑み込み――。
【ギシャアアアアァァ……!!】
爆風と閃光の中で、黒豹は一切の形を残さず、爆散した。
――こうして俺は、黒豹の《ヒューマネスト》に、勝利した。
……けれど、その瞬間に感じたのは、達成感でも安堵でもなく――空虚なものだった。
何か、大事なものを守るために、同じくらい大事なものを失ってしまった……そんな、嫌な感覚だった。
「……音葉……!!」
俺はすぐに走り出す。
煙がまだ立ち込める、黒豹が爆散した場所へと。
確かにそこに、音葉がいたはずの場所へと――。
(何か……何でもいい。手がかりさえあれば……!)
荒い呼吸を抑え込みながら、瓦礫を手で掻き分ける。
火傷しそうなほど熱い破片に触れようと、痛みなんて感じない。
わずかな髪の毛一本、衣服の切れ端、散り散りになった肉片……なんでもいいんだ。
それさえあれば……まだ、信じられる。
まだ、辛い現実を、受け入れられる。
……だけど、そこにあったのは、ただの無機質な残骸だけだった。
冷たい金属片と、砕けたアスファルト。
音葉の面影は、あの黒豹と同じように、影一つ残ってさえいなかった。
まるで――初めから、この世界に存在しなかったかのように。
(……やっぱり、そうなのか……音葉……)
その名を胸の中で呼んだ瞬間、喉がひり付き、何も言葉が出なくなった。
……認めたくない。認められるわけがない。
でも、目の前で確かに広がる現実が、容赦なく俺の心を、圧し潰した……。
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<次回予告>
「――夏神さん!!」
「……あ、それで……ネコ姉は、どうなったの?」
「あの黒豹の《ヒューマネスト》……確証はないが、おそらく、その正体は――音葉だ」
次回――Episode 21 :【〝守れたもの〟と、〝守りたかったもの〟】




