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2050年、人類崩壊。絶望郷と化した世界に抗う、少年達の物語――。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】(近未来SF × ダークファンタジー)  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
第二章 | 【Second Story of the Babies:《出会いと別れ、それは新たな運命の幕開け》】

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Episode 20 :【消えた少女の面影】

 ――ガウンッ!! ガウンッ!!


「っ!?」


 黒豹(くろひょう)が、その尻尾の先端に装着したキャノン砲から、爆弾を二発、迸(ほとばし)る閃光と共に発射した。


 命中は何とか免(まぬが)れたが、爆風に巻き込まれて舞い上がった破片が、頬を掠める。


 撒き散らされた黒煙が、瞬く間に視界を奪う。


 濃く重い煙が地面を這(は)い、黒豹の姿が闇の中へと溶けていく――。


【ギシャアアアアアッ!!!】


 ――ビュオオオオッ!!!


 空気が引き裂かれるような、鋭い音。


 黒煙を裂き、黒豹が疾風の如(ごと)き跳躍(ちょうやく)で、襲いかかってきた。


 一気に俺との間合いを詰めた黒豹は、その前脚を槍(やり)のように突き出して、俺の肉体を刺し貫こうとした。


「くっ!!」


 間一髪で回避。


 しかしそれは、反射的な動きにすぎず、あまりにも不自然なものだった。


 着地でバランスを崩し、大きく体勢を乱してしまう。


 視界の端で、橙色(だいだいいろ)の双眸(そうぼう)がギラリと輝く。


【ガアアアアッ!!】


「しまっ――」


 反応する暇すらなかった。


 黒豹は、もう一方の前脚を大きく薙(な)ぎ払(はら)い、俺を廃ビルの壁へと叩き付ける。


 ――ドガアアッ!!!


「がはっ……!!」


 全身に重い衝撃が走り、口内で鉄の味が広がる。


 斎賀(さいが)先生の特製ジャケットがなければ、今頃内臓を潰されていたかもしれない。


 それでも、身体の奥底まで響く鈍痛が、全身を支配する。


 この黒豹の《ヒューマネスト》は、B6地区の巨大蜂(きょだいばち)よりも、はるかに強い。


 跳躍で一瞬にして距離を詰め、尻尾のキャノンで遠距離にも対応できる。


 その鋼鉄籠手(ガントレット)を装着した前脚から繰り出される攻撃は、スピードもパワーも桁違いだ。


(……やるしか、ないのか……!!)


 唯一、勝てる方法があるとすれば……必殺技の、《超新星(スーパーノヴァ)》モードしかない。


 だが、そのモードを起動するには、わずかでも隙(すき)が必要だ。


 今のこの間合い、そして黒豹に一挙手一投足を凝視されている状況下では……それは、不可能と言っていい。


 ほんの一瞬でいい。


 奴の意識を、俺から別の何かへと、逸(そ)らすことができれば――。



 ――カツン。



 ――乾いた音と共に、小さな瓦礫(がれき)が黒豹の側頭部に当たり、俺の足元に落ちる。


(……!? まさか……!?)


 瓦礫が投石されてきた方角へと、視線を向けると――そこには、俺が想像していた通りの光景が、広がっていた。


「マサル!? アンタ、何してるの!?

 そんなことしたら、気付かれちゃうでしょ!?」


「そ、そうだよ、マサルくん……! はやく、もどって……!」


「うるせー!! ジャマすんな!!」


 道の真ん中で、マサルが荒々しく呼吸をしながら、瓦礫の破片を握り締めていた。


 止めようとするキョウカとアラタを振り切って、飛び出してきたのだろう。


「おい、そこの黒猫ヤロー!!

 お前、ネコ姉をどうしたんだよ!! 答えろよ!!」


【……グルルル……ッ!!】


 低く、しかし確かに怒りを露わにした唸り声が、響く。


 黒豹の双眸《そうぼう》は、俺よりもマサル達へと、その注意を向けた。


 体躯が僅かに沈み、尻尾のキャノン砲に、エネルギーが収束していく。


(――――!! 今だっ!!)


 俺は即座に、バッテリーを撃鉄にあるマガジンに装填し、《超新星(スーパーノヴァ)》モードを起動。


【Warning……Warning……】


 《HERO(ヒーロー)》が、機械音声とアラーム音を奏でる中、俺はグリップを強く握り締め、照準を定めた。


【SUPER NOVA.】


 ――バシュゥウウウウウウウウッ!!!


 銃口から放たれたのは、世界を裂き、視界を埋め尽くすほどの、閃光の奔流(ほんりゅう)。


 轟音と共に、超高出力のレーザービームが、黒豹を丸ごと呑み込み――。


【ギシャアアアアァァ……!!】


 爆風と閃光の中で、黒豹は一切の形を残さず、爆散した。



 ――こうして俺は、黒豹の《ヒューマネスト》に、勝利した。


 ……けれど、その瞬間に感じたのは、達成感でも安堵でもなく――空虚(くうきょ)なものだった。


 何か、大事なものを守るために、同じくらい大事なものを失ってしまった……そんな、嫌な感覚だった。


「……音葉(おとは)……!!」


 俺はすぐに走り出す。


 煙がまだ立ち込める、黒豹が爆散した場所へと。


 確かにそこに、音葉がいたはずの場所へと――。


(何か……何でもいい。手がかりさえあれば……!)


 荒い呼吸を抑え込みながら、瓦礫を手で掻(か)き分(わ)ける。


 火傷しそうなほど熱い破片に触れようと、痛みなんて感じない。


 わずかな髪の毛一本、衣服の切れ端、散り散りになった肉片……なんでもいいんだ。


 それさえあれば……まだ、信じられる。


 まだ、辛い現実を、受け入れられる。


 ……だけど、そこにあったのは、ただの無機質な残骸(ざんがい)だけだった。


 冷たい金属片と、砕けたアスファルト。


 音葉の面影は、あの黒豹と同じように、影一つ残ってさえいなかった。


 まるで――初めから、この世界に存在しなかったかのように。


(……やっぱり、そうなのか……音葉……)


 その名を胸の中で呼んだ瞬間、喉がひり付き、何も言葉が出なくなった。


 ……認めたくない。認められるわけがない。


 でも、目の前で確かに広がる現実が、容赦なく俺の心を、圧し潰した……。


----------

<次回予告>


「――夏神さん!!」


「……あ、それで……ネコ姉は、どうなったの?」


「あの黒豹の《ヒューマネスト》……確証はないが、おそらく、その正体は――音葉だ」


次回――Episode 21 :【〝守れたもの〟と、〝守りたかったもの〟】

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