Episode 1 :【運命の武器】
【First Story of the Babies:《〝世界を浄化する地獄の花〟》】
――2054年、3月13日。
俺は今日も、来るべき〝運命の日〟に向けて、トレーニングに励んでいる。
〝運命の日〟――それは、俺がこの世界を変える、第一歩を踏み出す日。
4年前のあの日、世界が壊れてしまった瞬間から……俺は、その未来だけを道標に、今日この日まで生きてきた。
世界を変える英雄となるべく、己を鍛え上げ続ける日々を。
今取り組んでいるのは、宇宙飛行士が行う〝無重力訓練〟を再現した、ダイビングプールでのトレーニングだ。
100キロを超える拘束具を装着したまま、水中を動く。
説明こそシンプルだが、その過酷さは、凄まじいものだ。
俺はその訓練を、一日たりとも欠かさずに続けている。
『叶えたい夢がある』だとか、そんな甘い理由で、じゃない。
――『絶対に、成し遂げなければならないことがある』。
その信念が、俺の肉体と魂を、突き動かしているのだ。
『――夏神! おい、蓮元夏神! 聞こえているか?』
「……! 先生」
通信機越しに響く声は、威厳と同時に、重苦しさも感じさせる――。
その声の主は、この施設のオーナーであり、俺の恩師でもある、斎賀天寿郎先生だ。
『ついに完成したぞ。すぐに来い』
斎賀先生は手短に、その言葉だけを残して、一方的に通話を切った。
今頃、その白髭を誇らしげに逆立てて、自慢げな笑みを浮かべているに違いない。
そんな先生の言葉を聞いた俺は――心からの感動を、抑えきれなかった。
訓練を終え、拘束具を外し、先生のいる部屋へと、真っ直ぐ向かう。
地を蹴る度に、身体がいつもより軽く感じる。まるで羽根が生えているみたいだ。
(ついに、ついに……この時が、来たんだ)
それはきっと、そんな高揚感が、俺の身体を突き動かしていたからだろう。
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――斎賀先生の研究室に着くと、自動ドアが静かに開く。
そこで待っていたのは、立派な顎髭と、片目を覆い隠すアンティーク調の片眼鏡が特徴的な、年老いた科学者の男性――斎賀先生。
来年で喜寿(77歳)になるというのに、どこにも衰えが見えない。
むしろ、立っているだけで、空気すら引き締めるような威圧感がある。
「どうだ、夏神。それこそが――お前が求めていたものだ」
そう言って、斎賀先生は俺に、特殊な形状の拳銃を渡した。
両手に伝わる、ズッシリとした重厚感。
白銀色のメタリックボディに駆け巡る、線模様の光。
直感的に分かった――『これは、ただの拳銃じゃない』と。
「それは《拳銃型電磁光砲照射装置》。平たく言えば、レーザーガンだな。
マガジンのバッテリーが窒素を吸収し、粒子エネルギーに変換。
それを撃鉄で発射することで、凄まじい威力の――」
先生は、軍師のように姿勢を正しながら、饒舌に解説を続ける。
「……これが……これが、俺の……!」
けれど、俺の目と心は、その拳銃のフォルムに奪われていて、話はまるで頭に入ってこなかった。
そんな、魅了されている俺に、先生は咳払いをして注意を促す。
「……あ、すみません」
「まったく……集中すると周りが見えなくなるのは、相変わらずだな。
まあ、お前の場合は、説明より、実践の方が早いか」
斎賀先生はそう言って、左腕の義手に装着されたキーボードを、高速でタイピング。
すると床が開き、無機質な機械人形が、床からせり上がってきた。
案山子という言葉がよく似合いそうな、オンボロな人形だ。
「手始めに、あの人形を撃ってみろ」
俺は先生の指示通り、革製のホルスターから拳銃を抜き、ガシャッとスライドを引いて、撃鉄を起こす。
そして、オンボロ人形に照準を向けて、迷わず、引き金を引いた――。
――バゴォオオオオンッ!!
(っ――!? 身体がっ……!!)
その瞬間、眩い閃光と共に、レーザービームが炸裂。
同時に、身体が吹き飛ばされるほどの凄まじい衝撃に襲われる。
反動で吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
それと同時に、人形が爆散した音が、見事にシンクロ。
少し遅れて、斎賀先生の雑な拍手が、揺れる頭に響いた。
「ッ……! 先生、これ出力を間違えてませんか……!?」
「いや、それが標準の状態だが」
(……!? この威力で、標準の状態……!?)
唖然とする俺を横目に、先生は平然と答え、そのまま言葉を続ける。
「それは、対人用の武器ではない。
データと照らし合わせてみる限り、〝例の怪物〟相手には、それぐらいのブツでないと、話にもならん。
そのモードを使いこなせない限り、勝てる見込みはゼロ……を通り越して、もはやマイナスだな」
「……? そのモード?」
先生が何気なく発した、〝モード〟という単語に、興味を引かれる。
この拳銃には、〝レーザーを発射する〟以外の機能があるということなのか?
「……まあ、今教えても大丈夫か」
先生は、その心中を察してくれたのか。
再び左腕のキーボードを、高速でタイピング。
そうしてせり上がってきたケースには、同じ拳銃の模造銃が入っていた。
先生は、そのケースから模造銃を取り出し、実演を交えながら、解説を始めた。
それが、世界を変える英雄の、その相棒となる武器との出会いの、序曲だった――。
《次回予告》
「――その《拳銃型電磁光砲照射装置》には、3つのモードが搭載されている」
「名前というのは、ただの飾りではない。魂を宿す〝言霊〟なのだ」
「――お前なら、それに、何と名を付ける?」
次回――Episode 2 :【名を与えし者】




