Episode 2 :【名を与えし者】
「――その《拳銃型電磁光砲照射装置》には、3つのモードが搭載されている」
斎賀先生は、静かにそう口にすると、同じ拳銃の模造銃を持ち上げた。
「一つ目は、《休息》。
マガジンに何も装填されていない、いわばセーフティ状態だな。
通常は、この状態で携帯するのが、理想だ」
銃身を傾ける先生の手つきは、熟練者のそれだった。
まるで、それが己の一部であるかのように、滑らかで正確だった。
「二つ目は《迎撃》。
今のお前が持っている状態が、それに該当する。
通常戦闘で最も使用される、基本モードだな」
先生の言葉に合わせて、俺は手元の拳銃を見る。
確かに、今の状態は、弾倉がセットされており、すぐにでも次弾を発射可能だ。
「そして最後が……《超新星》」
その言葉を口にした瞬間、先生の声に、わずかな緊張が走った。
「私が今から行う手順通りに、お前も操作してみろ」
そう言うと先生は、グリップに組み込まれた、小さな歯車型のスイッチを押す。
その動作だけで、内部のマガジンが緩み、弾倉のような形状のバッテリーが露出する。
それは、通常の弾倉と違って、わずかに発光している。
淡い光を帯びたそれは、まるで生命体のように脈打っていた。
先生はその弾倉を取り外し、拳銃の一番手前、撃鉄の真下にある別のマガジンスロットに、それを差し込んだ。
俺も、先生の動作をなぞるようにして、再現する。
すると――。
――ガチャッ。
金属音が鳴った瞬間、拳銃のボディを駆け巡る照明が、激しい輝きを放つ。
それと同時に、重厚感のある電子音が、耳をつんざく。
【Warning……Warning……】
アラーム音と共に響き渡る、機械的な電子音声。
ただならぬ雰囲気を感じた俺は、思わず身構える。
「バッテリーに内蔵された粒子エネルギーを大量に消費することで、絶大な威力のレーザーを照射することが可能なモード。
それが、《超新星》だ」
先生の言葉は冷静だが、その眼差しは、明らかに警告を孕んでいた。
「おっと、今ここで引き金を引くなよ?
私も、お前も、この家も、全てが吹き飛んでしまうからな」
「……笑ってない目で、言わないでくださいよ……そういう冗談」
先程のレーザーの威力が標準だというのは、どうやら誇張表現ではないらしい。
誤って引き金を引いてしまわないよう、俺はバッテリーを外して、《超新星》モードを解除。
《休息》モードに切り替わった拳銃は、音も光もスッと消え、再び沈黙を取り戻した。
「ム、名案を思い付いた」
突然、先生が呟き、そして言葉を続ける。
「夏神。それに、名前を付けたらどうだ?」
「……名前?」
思わず聞き返す。
武器に名前なんて、必要なのか?
「いちいち《拳銃型電磁光砲照射装置》と呼ぶのは面倒だろう。
それに、名前というのは、ただの飾りではない。魂を宿す〝言霊〟なのだ」
先生は、レプリカを静かにケースに戻すと、俺の目を真っ直ぐに見据える。
「――お前なら、それに何と名を付ける」
唐突な問いに、言葉を失う。
だけど、その答えは、すぐに思い浮かんだ。
いや、心の奥から、自然と湧き出してきた。
「――《HERO》」
自分でも驚くほど、迷いはなかった。
「こいつの名前は、《HERO》……。それが一番、しっくりくる」
俺は、先生の威圧ある眼差しを、真正面から受け止めながら、言葉を重ねる。
「こいつは、俺の……信念の象徴。
世界を変える英雄の、最強の武器にして――最高の相棒です」
一瞬の沈黙の後、先生は目を細めて、微笑む。
「……成程。安直だが、お前らしい名前だな」
「……ありがとうございます」
俺は、《拳銃型電磁光砲照射装置》――改め《HERO》を、引き金に通した人差し指を軸に、クルッと回転。
そうすることで、銃身の重量の感覚を確かめた後、腰部に装着済みのホルスターに収めた。
(これから、よろしくな。《HERO》――俺の、相棒)
《次回予告》
「……しかし……どう考えても、普通の高校生に渡すような代物じゃないですね、これは」
「……それにしても、よくこんな物を作れましたね」
「……一つ、聞いてもいいですか?
どうして先生は、ここまで俺に協力してくれるんです?」
次回――Episode 3 :【託された想い】




