86話 残りものを葬る者
弱ったバグタスを無慈悲に葬った、彼の仲間だった雑魚騎士達。実力的には差程でもない彼等だが、まだ十数人程は残っているために魔王は窮地に陥っていた……
「ど、どうする? 魔力の弾丸を撃てるのはあと数発が限度。雑魚が相手とはいえ、さすがにこれ以上の戦闘は厳しいか……」
気を失ってるアディアの前に立って、冷静に状況を分析する魔王。
「フッ……いっそのこと、アディアを置いて逃げてみるのもありか?」
勝機を見出だせずに最悪の手段で乗り越えてやろうとも考えるが、彼がそれを実行することはない。
「いやいや……やはりここは、最後まで足掻いて一人でも多く道連れにしてやるが筋通りか」
よって最後まで戦い抜く覚悟を決めて銃をかまえ……た瞬間、背後から突然の物音が!
「なっ!?」
「そろそろ私の出番みたいね」
慌てて振り向くとそこには、大槌を軽々と肩に担いだアディアの姿があった!
「き、貴様! 大丈夫なのか!?」
「おかげ様……って言いたいけど、ずっと起きてたわよ」
「はぁ! あのデカいヤツの攻撃で気を失っていたんじゃないのか!?」
「ンなわけないでしょ。全盛期のアンタと戦り合った私が、簡単にやられると思う?」
「い、言われてみれば……」
それもそうだなと、魔王は納得。
「で、では、何故すぐに起きて一緒に戦おうとしなかったんだ?」
この質問にアディアは、少しバツの悪そうに答える。
「し、しようとしてたのよ……でも、アンタが急に張り切り出したから……その、出るに出られなくなっちゃって……ねぇ?」
「何が“ねぇ?”だ!」
魔王は呆れるが、取り敢えずは何事もない彼女の様子に胸を撫で下ろす。
「と、とにかく、今は敵を倒すのを手伝え! 余が一人だけではさすがに手にあま……」
「あとは私に任せていいわよ」
「はぁ?」
「別に黙ってたことを罪滅ぼししたいわけじゃないわ。単に借りを作りたくないだけだから。それに……」
「それに?」
「……何でもないわ」
「?」
妙なタイミングで話を切るアディアに、魔王は少しだけ不思議な感覚を思えたが深くは考えない。
「まぁいいさ……じゃあ、後始末は頼んでいいんだな?」
「ええ。魔王様はその辺でふん反って高みの見物をしてなさいな♪」
「そうさせてもらう」
言われた魔王は、適当な岩場に座って本当にふんぞり返る。そして……
「それじゃあアナタ達には悪いけど、こっちは遠慮なくやらせてもらうわ!」
アディアは眼前に映る騎士達を舐め回すかのように確認すると、火中の栗が弾ける勢いで飛び出す!
「さぁ、せいぜい抵抗してみなさい!!」
開口一番で振り回される大槌が、騎士の一人を捉えて振り抜かれる!
「ひぎゃ!!」
短い断末魔からワンテンポ遅れて上半身がぐちゃぐちゃに飛び散る騎士。それを見て周囲は一瞬にして凍りつく!
「まだまだ!!」
さらに最初の一手が決まって調子に乗ったアディアは、大槌をくるくると頭上で回して岩壁を思い切り叩く!
「デス・インパクト!!」
凄まじい力が加わり巨大な亀裂が走る岩壁。次の瞬間には脆くも崩れた多数の破片が騎士達へ襲いかかった!!
「ぎゃあああああーーーー!!」
「助けてくれぇぇぇーーーー!!」
次々に命が潰れされていくなか、そこから運良く逃れた者達は……
「ほらほら! 気を抜いてる暇なんてないわよ!!」
追撃によって、その悉くが恐怖と絶望のままに人生の最期を迎えていき、やがて……
「ふぅ。これであらかたは片付いたわね」
辺りが死屍累々になったところで、リィンが担当している前方の方向へ視線を向ける。
「えっと、リィンの方は大丈夫だったのかな?」
遠くを見つめるアディア。担当する場所の騎士達を全滅させだけでは物足りなかったらしくて……
「ちょっとリィンのところに助太刀いってくるわ!」
元気一杯に彼女の元へ走り出す!
尚この時、岩場に座ってふんぞり返ったままの魔王は?
「アイツ、何の迷いもなく余を置いていったな」
蔑ろにされた自分を少しだけ寂しく思うのであった……




