79話 進軍
切り立った岩壁に囲まれた長く伸びた道。そんな如何にも挟み撃ちに適した道を、百人の騎士集団は二列縦隊で黙々と進軍していた。
「ノーラン団長。今回の任務についてですが、この人数は少々大袈裟過ぎやしませんか?」
先頭を進む茶髪の若い騎士は、隣で並んで歩く初老の騎士へ伺うように訊ねる。
「クライアン……確かに副団長のお前の言う通りで、この人数は大袈裟かも知れん。しかし今回に限っていえば、あながちそうでもないかも知れんぞ?」
「というと……やはり先日の件が絡んでると?」
「ああ、ルドルフの失踪だな。アイツは部下を連れて例の村へ任務に行ったきりで戻ってこなかった」
「ハイ。自分もそのように報告を受けてます」
同意するクライアン。そこにノーランは少し考えなから話す。
「……これはオレの独りよがりの勘なんだが、村には魔族が関わってるかも知れん」
「魔族が? 根拠はあるんですか?」
問われたノーランは、記憶を探りながら口を開く。
「ゴメル……と言ったかな? ヤツの経営する店は村唯一の武器屋にも関わらず、杖が一本も売ってなかったんだ」
「杖が?」
「案外品揃えが良くて何度か足を運んでたんだが、一度も売り場に並んでいるところを見たことがなかった」
「一度もですか? 偶然売り切れだったのではありませんか?」
「店主もそう言ってた。ただ一般的な世間の需要から鑑みれば、少なくとも一本くらいは見本や注文用として扱っていてもおかしくはないはず」
「確かにそれはいえなくもですが、それが魔族とどういった関係が?」
「関係か……話は変わるが、人間が魔法を使う際に杖を必要としてるのは知ってるな?」
「もちろん存じてます」
「では逆に訊くが、魔族が魔法を使う際に杖を必要としないのも知ってるか?」
「ハイ。生まれつき大量の魔力を体内に宿す彼等は、本能的に魔力を使う術に長けているので……あっ!」
ここでクライアンは、ノーランの言わんとしている意味を理解する。
「そういうことだ。もし村に魔族との関わりあるなら杖の需要はなくなってもおかしくない。そして需要がなければ、店で杖を扱う必要がなくなるわけだ」
「な、なるほど……ですが、杖の有無だけで村と魔族を結びつけるのは少々強引過ぎやしませんか?」
「無論オレだって、たったそれだけで疑ったりはしない……だが、そこにルドルフの失踪が加われば状況は一気に変わる」
「っと、い、言いますと?」
「村が魔族との関わりを持っているとなれば、それに気づいたルドルフは何だかの行動を起こした可能性が……いや、実際に起こしたからこそ“失踪”したとは考えられないか?」
「そ、それって……!?」
推論が結論に達しようとした、その時だった!
『ノーラン団長! 前方に我々が向かう村の村長の姿があります!!』
斥候からの報告を受け、二人は言われた場所に注目!
「むむっ! 確かにあの老婆が見えるな」
「もしかして、我々の出迎えでしょうか?」
「いや、さすがにこんな場所ではあり得ないだろう。それにそもそも我々は、彼等にとって煙たがられてる存在だからな」
「仰る通り。では、彼女は何故?」
「さあ、それはわからん……わからんが、今はこのまま進むしかあるまい。ただし、油断はするなよ?」
「りょ、了解です!」
歩を進める百人の騎士。彼等は自分の身に何が起こるかを知らないまま、老婆との距離を徐々に縮めていくのであった。




