75話 リィンから渡されるもの
魔王が宴で羽目を外してからの四日目の午後。アディアはリィンに呼ばれて屋敷のリビングへ向かうと、そこに待っていたはテーブルを挟んだ向かいのソファーに座る彼女一人だけだった。
「あれ? 魔王は来てないの?」
アディアが腰を下ろしながは訊ねると、リィンはその理由を話す。
「お呼びしたのはアディアさんだけです。それと魔王様なら、裏庭で銃の稽古に精を出してますよ」
「へぇ、ちゃんと真面目にやってるみたいね」
「ですね。やはりこの間の事件が影響してるのでしょうか?」
「それもあると思うけど、何より弱い自分が許せなくて堪らないんでしょね」
「堪らないですか……気持ちはわかります。我も魔王様を見ていたら、悶々として堪らなくなる時が多々ありますから」
「……うん。それはいいとして、私に用があったんでしょ?」
アディアは話がおかしな方向へ流れない内に、それとなく話題を元に戻す。
「そうでした。じつはアディアさんへ渡したいものがあるんです」
「私に?」
「こちらです」
リィンはそう言ってテーブルの上にカボチャが一、二個入りそうな古い皮袋を丁寧に置く。
「開けて中身を見てください」
言われたアディアは袋の口を開ける。すると中にあったのは、破廉恥かつ大胆極まる黒いビキニアーマーだった!
ちなみにビキニアーマーとは、名の通り水着を模した女性専用の鎧。大事な部分を最低限の面積で隠しただけの大胆かつ過激な装備だが、装着者の機動力を一切損なうことがなく、素早い機動性や、相手との距離を詰めてからの一撃必殺を重視する者にとっては非常に高い評価がされている。
評価がされているが……その見た目から、当然全ての者に受け入れられてるわけではない。
「…………」
そして、評価してない側のアディアは怪訝そうな顔でリィンの話へ耳を傾ける。
「それは“漆黒のビキニアーマー”といって、かつてマーガレット様から我に譲られた由緒正しき鎧になります」
「マーガレット?」
「今は亡き先代魔王の奥様です」
「先代って……これ、魔王のお母さんの形見なの!?」
「そうなります」
驚くアディアは、袋の中身を再度確認してから訊ねる。
「どうして、そんな大事なものを私に?」
「漆黒のビキニアーマーは、マーガレット様がここぞという時に身に付けていたものにです」
「……それで?」
答えじゃない答えにアディアは少し苛つく。
「我はアディアさんを認めています」
「な、何よいきなり!?」
今度は持上げられて少し戸惑う。
「この間行った魔王様の帰還を祝う宴……アナタはあの場で、魔王様に寄り添ってくれてましたよね?」
「……ま、まあ、そんなこともあったかもね」
照れ臭そうにはぐらかしてると、リィンが急に力なく俯いた。
「リィン?」
「本来、ああいった役目は教育係だった我がやるべきでした。ですが、我にはそれができなかった」
「リィン……」
確かに思い起こせば、あの場の彼女はあまり魔王には関わってこなかった気がする。
「我は躊躇したんです。常日頃からあんな積極的に魔王へ接してるというのに、いざ助けようとした途端、自らの弱さに悩む彼を傷つけないかと……」
「リィン……」
意外な告白をされてアディアは彼女を気遣おうとするが、それをやる前にリィンは俯いたまま話す。
「でもアナタは違った。我とは違い、恐れることなく純粋な気持ちで魔王様に接した。種族の壁や過去のわだかまりだってあるにも関わらず、ただ純粋に……」
「それ、ただの買い被りよ」
まるで懺悔でもしているかのよなリィンに、アディアは短く返すが、それでも彼女は首を振って続ける。
「先程も言いましたが、我はアディアさんを認めています。そしてだからこそ、我はアナタに漆黒のビキニアーマーを託したいと思えたのです!!」
「え、え~と……」
さすがにここまで言われると突っぱねるのも面倒。そう感じたアディアはついに……
「わ、わかったわ」。じゃあ……漆黒のだっけ? 謹んで頂戴させてもらうわ」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!!」
「はぁ~仕方ないか……」
なし崩し的というか、彼女の謎の圧力に押される形で漆黒のビキニアーマーを受け取ってしまうのであった。




