74話 アディアと魔王
屋敷のリビングにて催される魔王の帰還を祝うパーティー。だが、その肝心の主役になるべき魔王の心情は決して浮わついてはなかった……
「―――王都は村を危険視し、何だかの判断を下す恐れがある。そしてもし、その判断が最悪な形で実行へ移されたとしたら?」
「移されたら……下手をすれば、村のみんなへ危険が及ぶことになるわ!」
「そういうことだ。だからそのキッカケを作ってしまった余としては……くそ!」
自らの失態を恥じる魔王は、空のグラスに写る自分を苦々しく睨む。
「だいたいそこで楽しそうに騒いでる者達だって、この状況が如何に危機的なのかくらいはわかってるはずなんだ。なのに……」
「魔王……」
「フッ、魔王か。ずっと思っていてが、こんなナリで言われては滑稽でしかないな」
「…………」
「どうした急に黙って? 憐れんでるつもりか?」
自身を卑下し続ける魔王。しかし、アディアはそんな自暴自棄の彼に向かって強い口調で言う。
「アンタさぁ、要は自分に酔っ払ってるだけでしょ?」
「はぁ? いきなり何を言って……」
「もっともらしく色々あーだこーだと言ってるけど、結局はみんなに迷惑かけてウジウジしてるだけ……違う?」
「余がウジウジ……だと?」
「そうよ。それに比べて彼等を見てみなさいよ!」
「彼等?」
魔王は目の前の光景に視線を移すと……
『おーい、皆の衆! リィン様が恒例の一気飲みを始めるぞーーー!!』
『おおーーー!! 既に左右の鼻の穴にはボトルをスタンバイしてるぜ!!』
『不肖リィン! 魔王様を讃えるためにがんばります!!』
『やれ!やれーーー!!』
『『一気!一気!一気!』』
そこには皆が楽しそう(?)に盛り上がる姿があった。
「……この馬鹿騒ぎが何だというんだ?」
「みんな笑ってるわ。少なくとも今のアンタよりは、ずっと生き生きしてるわね!」
「……一体何を言いたいんだ?」
「羽目を外せと言ってるのよ」
「はいぃ?」
「羽目を外してパァーと騒げば、嫌なことは忘れて前を向ける。それが人生の縮図じゃない!」
「人生の……縮図?」
「そう、縮図!」
「フフフ……」
「何笑ってるの?」
「いやな。たかだか百年程度の寿命しか持たない人間如きに、千年以上も生きる魔族が人生やら縮図を語られるのがおかしくてついな」
「ちょ、何よそれ!」
「そう怒るな。余は本心から感心してるのだ」
「そうなの?」
「考えてみれば貴様の言う通りだ。いつまでもウジウジ悩むのは確かに馬鹿らしくはある」
「わかってきたじゃない♪」
「……フン。しかし、羽目を外すにしてもやること変わらないぞ」
「やること?」
「無論、勇者への復讐だ!」
「フフフ、そうだったわね」
「……でもまぁ、この瞬間くらいはそれを忘れるのも悪くない」
魔王はそういうと、笑みを浮かべて空になったグラスをアディアへ向ける。
「何よ? 私に注げって言いたいの?」
「頼む」
「ハイハイ、オレンジとアップルどっちにする?」
「愚問だな……余は偉大なる魔王! 常にオレンジ一択と決まってる!!」
力強く断言する魔王。これに彼女の対応はというと?
「かしこ参りました魔王様♪」
少しおどけつつも、ジュースの入ったボトルを手にとって彼のグラスへ注いであげるのであった。




